テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。

今回は、書評ブロガー・ビジネスプロデューサーの徳本昌大氏が、「ミドルマネジメントを"現場経営者"にする方法」についてお話します。

  • ミドルマネジメントを"現場経営者"にするには


書評ブロガー・ビジネスプロデューサーの徳本昌大です。起業後、組織が大きくなると成長が阻害されます。経営者はフラットな組織を選択することで、それを乗り越えられますが、そのためには同じ社員のリーダーを集めなければなりません。ビジョナリー・カンパニーのジム・コリンズが指摘するように、バスの乗る人を最初に選ばなければ、なかなかフラットな組織を作り出すことは難しいのが実態です。

では、どうすれば良いのでしょうか。トップダウン的な組織を維持したまま、成長しようと思うのであれば、ミドルマネジメント層のマインドセットを変えてしまえばよいのです。

経営者がミドルマネジメントを現場経営者に変えるべき理由

今までの常識が通用しない現代のような不確実な時代には、ミドルマネジメントを現場の経営者にアップデートし、チームとメンバーの力を最大限に引き出すようにしましょう。当然、ミドルマネジメントの価値も高まり、彼らは新たなイノベーションを起こせるようになります。 ウイズ・コロナの時代のミドルマネジメントは絶えず不確実な状況に対処し、チームをまとめなければなりません。経営側の判断を待っていては、競争相手に負けてしまいます。PwC コンサルティング合同会社パートナーの作佐部孝哉氏は、ミドルマネジメントは時代の変化に適応するために、今こそ働き方を変えるべきだと言います。メンバーの個性を最大限に引き出し、チームを強くするためには、まず自らをアップデートする必要があります。

本稿では作佐部孝哉氏の『ミドルマネジメントの正解: 不確実な時代を乗り越えるための5つのアップデート』(著:作佐部孝哉、出版:河出書房新社)から、ミドルマネジメントをアップデートする方法を考えたいと思います。 経営者は中間管理職のマインドセットを捨てさせ、彼らを現場経営者にアップデートすることで、ウイズ・コロナの時代でも結果を出せるようになります。ビジョンのない組織は、やらされ感満載で、主体的に動けません。

ミドルマネジメントの仕事は、チームのビジョンを示し、人間が持つポテンシャルに目を向け、彼らのパフォーマンスを引き出すことになっていくはずです。そのため、経営者はミドルマネジメントを現場経営者に育てることを考えるべきです。

ミドルマネジメントを現場経営者にアップデートする5つの方法

本の中では、ミドルマネジメントのマインドを現場経営者に変えるための5つの方法が紹介されています。

1.組織のあり方をアップデート

個人のスキルアップではなく、チームとしてのレベルアップをはかります。ピラミッド組織からサークル型組織へ早いうちにシフトし、現場に権限を移譲するようにしましょう。現場が主体的に動くことで、リーダーは次の戦略を考えることができるようになります。

指示型(インストラクション型)から、交流型(インタラクション型)の風通しのよい組織を目指し、メンバーが主体的に動けるチームを作るべきです。最近ではトップダウンをやめるホラクラシーというマネジメントがザッポスなどで行われています。

2.リーダーとしての心得をアップデート

リーダーはスーパースターになるのではなく、メンバー個人の力をチームの力に変える存在になるべきです。ガバナンスで組織をまとめるのではなく、エンパワーメント(後押し)することがミドルマネジメントの仕事になります。

ダニエル・キムの有名な組織の成功循環モデルを採用し、結果の質より関係の質を高めるようにしましょう。周りの専門性を理解しそれをまとめあげることで、主体的なチームが生まれ、結果が出せるようになります。

まずリーダーとして結果責任はすべて負う覚悟を持つことです。うまくいったら自分の手柄、失敗したらメンバーのせいでは、すぐに愛想をつかされます。才能あるメンバーに活躍してもらう場面が増えていく中で、うまくいったときこそ、メンバーの手柄として社内に宣伝し、逆にうまくいかなかったときには自分がすべての責任を負う度量は必要です。また変化に対応して新しいことにチャレンジすればするほど、当然失敗も増え、社内外から非難や批判の声を浴びるのが常ですが、きつい場面でこそ先頭に立ち、チームメンバーを鼓舞して前へ進んでいける胆力を兼ね備えておくことも必要でしょう。そして、何より「利他の精神」でいることです。「自分の数字や出世のため」という姿勢が先に立つリーダーでは人はついてきません

リーダーは「インティグリティ(誠実さ)」を持つこと、利他の心で接することで、メンバーとの一体感を作れるようになります。

3.仕事の進め方をアップデート

チームの方針はリーダーが決めるのではなく、メンバー全員で話ようにします。メンバーのスキルをマトリックスで整理し、マリアージュを考え、それぞれのパフォーマンスを高めるようにするのです。

(1)新しいビジネスアイデアは起業型とサポーター型で考えます。
(2)立ち上げは起業型と参謀型が担当します。
(3)ビジネスを固める際には、サポーター型と番頭型が担当します。

リーダーは自分がやらないことを決め、メンバーに仕事をまかせ、次の成長戦略を考えるべきです。

4.メンバーの伸ばし方をアップデート

リーダーはメンバー内にあるエネルギーを引き出すべきです。デビッド・ロックの「SCARFモデル」を参考にして、メンバーの成長をサポートしましょう。

S=認められている(Status)
C=将来が見通せる(Certainty)
A=自分が主体的に動ける(Autonomy)
R=仲間意識、周囲の人を信頼できる(Relatedness)
F=公平性、公平に扱われている(Fairness)

このうえで、著者は次の3つの方法を実践していると言います。
(1)リーダーは仲間の貢献に感謝の言葉を伝える。
(2)自分の成長を体感してもらう。
(3)この先の成長を予感してもらう。

リーダーは自分も含め、全員が学び続ける環境を用意しましょう。良質なフィードバックを感謝の言葉と共に伝え、それぞれのメンバーの異能を伸ばすことで、組織は強くなれます。人を中心に置いたマネジメントをリーダーが心がけることで、メンバーがワクワクし、自ら動けるようになるのです。

目標設定の「SMARTの法則」に現場視点の「HEARTの法則」を掛け合わせ、メンバーに経験の楽しさを実感してもらいましょう。

■SMARTの法則
S=明確・具体的(Specific)
M=計測可能(Measurable)
A=役割と権限の範囲でできること(Assignable)
R=現実的なこと(Realistic)
T=期限を踏まえていること(Time-related)

■HEARTの法則
H=ワクワクするか(Heartfelt)
E=思い入れがあるか(Engaging)
A=情熱的になれるか(Aspirational)
R=自分にあっているか(Reflective)
T=チーム志向か(Team-Oriented)

リーダーはSMARTの法則だけでなく、HEARTの法則を使い、メンバーが自ら動きたくなるよう共に目標を考えましょう。目標は与えるのではなく、チームで一緒に作ることで、組織に責任感が芽生えます。そして良いフィードバックを行うことで、目標を達成できるようになります。

5.自分のあり方をアップデート

感情に左右されず、心の状態をよくしなければ、的確な判断ができなくなります。そのために、自分のコンディンションを最高の状態に保つべきです。食事・睡眠・感情コントロールに気をつけ、自分のパフォーマンスを高め、組織に貢献しましょう。 当然、作左部氏のアドバイスはミドルマネジメントだけでなく、経営陣も意識すべきです。経営陣とミドルマネジメントの考え方が変われば、個々のメンバーの力を引き出せるようになります。

執筆者プロフィール : 徳本昌大

書評ブロガー・ビジネスプロデューサー
複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在は、ベンチャー企業の取締役や顧問として活躍中。インバウンド・海外進出支援サービスなどを提供するEwil Japan取締役COO、IoT・システム開発のビズライト・テクノロジー 取締役、みらいチャレンジ ファウンダー、他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数。書評家としても活動中。