テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。

今回は、IT企業経営者としての経験も持つ弁護士・中野秀俊氏が、「CtoCサービスを運営する際の注意点」について語ります。

  • CtoCサービス運営の注意点


ユーザーによる違法行為にも責任が生じるのか

ウェブサービスのひとつに、ユーザー同士をマッチングするCtoCサービスがあります。最近だと自分の所有物やスキルを、CtoCサービスを使って売買する人が増えていますが、簡単に誰でも行えるため、トラブルとなるケースも多々あります。では、このCtoCサービスのプラットフォームの運営についてどのような注意が必要か考えてみましょう。

ユーザーによる違法行為に関して、プラットフォーマーにはどのような法的責任が生じるのでしょうか。

これについて、経済産業省の「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」では、プラットフォーム事業者は、「原則としてユーザー間の取引に起因するトラブルにつき責任を負わない」とされています。

つまり、ユーザー同士の取引に直接関与しない形態のプラットフォーマーは、ユーザーの違法行為に関して、法律上の責任を原則として否定しているのです。

プラットフォーマーが責任を負う場合とは

一方で、ユーザーが偽物のブランド品等の違法性のある商品を販売しようとしている場合で、警察をはじめとする政府当局から直々にこれを防止するように指示があり、かつ、これを実際に防止することができる立場にあったにもかかわらず黙認した場合は別です。

このような場合は、プラットフォーマーの側に違法取引の実行に関して一定の関与があると認められるとして、プラットフォーマーが法律上の責任を負うことになる可能性があります。

また、上記の準則では、以下の裁判例も引用して、プラットフォーマーが不法行為責任を負う場合があることを認めています。

プラットフォームにおける商標権侵害、著作権侵害の物品の販売があったケースで、権利者が、プラットフォーム運営者に対して店舗による商標権侵害の責任を追及した事案において、裁判所は次のような判決をだしています。

「プラットフォームの運営者は、権利者から商標法・著作権法違反の指摘を受けたときは、その侵害の有無を速やかに調査すべきであり、これを履行している限りは資任を負うことはないが、これを怠ったときは利用者と同様、これらの責任を負うものとする」

このほか、CtoCサービスのプラットフォーマーも責任を負うものとしては、次のようなケースがあります。

・プラットフォーマーが、ユーザー名で出品行為を代行し、出品に伴う手数料や落札に伴う報酬を受領する(プラットフォーマーが出品代行者である)場合
・プラットフォーマーが単に一定の料金を徴収してウェブサイト内で宣伝することを超えて、特定の売主の特集ページを設け、インタビューを掲載するなどして積極的に紹介し、その売主の出品物のうち、特定の出品物を「掘り出し物」とか「激安推奨品」等として特集をするような場合

このようなプラットフォーマーは、単なる場の提供者ではないとして、ユーザー間で売買トラブルが発生した際に責任を負う可能性があります。

法的責任の回避のためにするべきことは

以上のことを踏まえ、プラットフォーマーは、警察からの公的機関からの指示のみならず、権利者からの通告や他のユーザーからのいわゆる「通報」が行われた際は、注意して調査を行いましょう。

そして、あるユーザーが法律に違反した行為を行っている、または行おうとしていることを知るに至った場合には、ユーザーとの利用規約に基づき、すみやかにその商品の出品をサービスから削除することが大切です。

また、そのユーザーがこのような行為を複数回行っている場合には、当該ユーザーによる利用を一時停止や中止するといった対応を、機敏に講じていくことができる運用フローも整備しておきましょう。

こういった点が、法的責任の回避のために重要なのです。

執筆者プロフィール : 中野秀俊

グローウィル国際法律事務所 代表弁護士、グローウィル社会保険労務士事務所 代表社労士、みらいチャレンジ株式会社 代表取締役、SAMURAI INNOVATIONPTE.Ltd(シンガポール法人) CEO。
早稲田大学政治経済学部を卒業。大学時代、システム開発・ウェブサービス事業を起業するも、取引先との契約上のトラブルが原因で事業を閉じることに。そこから一念発起し、弁護士を目指して司法試験を受験。司法試験に合格し、自身のIT企業経営者としての経験を活かし、IT・インターネット企業の法律問題に特化した弁護士として活動。特に、AI・IOT・Fintechなどの最先端法務については、専門的に対応できる日本有数の法律事務所となっている。