テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。
今回は、中小ベンチャー企業などへの経営コンサルティングのかたわら、デジタルハリウッド大学院客員教授、グロービス・マネジメント・スクール講師、パートナーCFO養成塾頭等も務める高森厚太郎氏が、「中小ベンチャー経営者とのディスカッションスキル」について語ります。
数字とロジックで経営と現場をExit(IPO、M&A、優良中堅)へナビゲートする。ベンチャーパートナーCFO、高森厚太郎です。
本連載の第2回から前回まで、私の回では「中小ベンチャーの成長マネジメント」をテーマに、中小ベンチャーの経営とCFOについて、あらましを語ってきました。
そして今回からは、具体的にCFOが会社の成長マネジメントをするにあたり、経営者とどう議論していけばいいのか、「中小ベンチャー経営者とのディスカッションスキル」について考えていきます。
経営者とのミーティングの進め方とは?
仮に、あなたがある中小ベンチャーを担当する社外CFOで、その経営者がとある案件について折り入って相談がしたいと言ってきた場合、ミーティングはどのように進めるのがよいのでしょうか。
経営者が求めているのがコンサルティングなのか、コーチングなのか、はたまた壁打ち(ディスカッション)なのか……ミーティングのなかで早めに見極め、ニーズに合わせてミーティングを進めるのが有効です。主な3つの進め方について考えてみましょう。
1.答えを与える「コンサルティング」
「コンサルティング」というのは、クライアントが抱える問題に対し、コンサルタント側が解決策を提示していく手法です。つまり答えを持っているのはクライアントではなく、コンサルタントの方になります。
コンサルタントは個々の問題(事柄)に焦点を当て、合理的・論理的に具体的な解決策を模索していきます。コンサルタントがよく使う質問形式には「どうすべき(Should)だと思う?」や「どうすれば(How)いいと思う?」というものがあります。
2.答えを引き出す「コーチング」
これに対して「コーチング」は、クライアントが抱える問題を、クライアント自身が自力で目標達成・問題解決できるようにサポートしていく手法です。ここで答えを持っているのはコーチではなく、クライアント自身。つまり、セッションを通じてクライアントのなかから答えを「引き出す」形式となります。
個々の問題(事柄)よりもその人自身に焦点を当て、五感や感情を揺さぶるなどの情緒的アプローチも交えながら、クライアントのありたい姿や価値観をあぶり出していきます。コーチがよく使う質問形式には「どうありたい(Want)?」や「なぜ(Why)そうなりたい?」というものがあります。
3.ひたすらラリーをする「ディスカッション」
一方、「ディスカッション」においては、答えはクライアント側やディスカッションパートナー側にあるものではなく、どこにもありません。強いて言えば、ディスカッションの「場」にある、と言えるでしょうか。
クライアントとディスカッションパートナーは個々の問題についてひたすら壁打ち(ラリー)しながら、相手になにかしらの刺激やインスピレーションを与えていきます。
「他には?」と視点を他に向けたり、「するとどうなるのか?」と議論を前に進めたり、あるいは「こういうことですか?」と議論を収束させたりする形式が、よく使う問いかけになるでしょう。こうして見ると、ディスカッションパートナーはファシリテーターに近い存在と言えます。
ちなみにディスカッションと雑談は答えがないという意味でよく似ていますが、ディスカッションには目的があり、雑談には目的がないという根本的な違いがあります。「生産性がない会議」と言われる会議がありますが、そんな会議は内容が雑談になっている可能性がありそうです。
次回以降は、中小ベンチャー経営者とのディスカッションスキルのひとつ、「コンサルティングのスキル、マインドとプロセス」について考えていきます。
執筆者プロフィール : 高森厚太郎
一般社団法人日本パートナーCFO協会 代表理事。
東京大学法学部卒業。筑波大学大学院、デジタルハリウッド大学院修了。日本長期信用銀行(法人融資)、グロービス(eラーニング)、GAGA/USEN(邦画製作、動画配信、音楽出版)、Ed-Techベンチャー取締役(コンテンツ、管理)を歴任。現在は数字とロジックで経営と現場をナビゲートするプレセアコンサルティングの代表取締役パートナーCFOとしてベンチャー企業などへの経営コンサルティングのかたわら、デジタルハリウッド大学院客員教授、グロービス・マネジメント・スクール講師、パートナーCFO養成塾頭等も務める。著書に「中小・ベンチャー企業CFOの教科書」(中央経済社)がある。