テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。

今回は、IT企業経営者としての経験も持つ弁護士・中野秀俊氏が、「下請法」について語ります。

  • スタートアップ企業が、外注するとき・されるときは「下請法」に注意


スタートアップ企業が、何かしらの業務をフリーランスなどに外注する場合には、「下請法」に注意が必要です。下請法は簡単にいうと、資本力のある企業が資本力のない企業をいじめるのを防止するための法律です。この資本力のある企業を「親事業者」、資本力のない企業を「下請事業者」といいます。

下請事業者は親事業者に比べて立場が弱いために、親事業者から不利な取引条件を受け入れることを強要され、不公正な取引となることがあります。このような、不公正な取引から下請事業者の利益を保護しようとするのが下請法です。

下請法が適用される場面は?

下請法は、すべての取引に適用されるものではなく、適用される場合が限定されています。ポイントは、(1)取引内容と、(2)親事業者と下請事業者の資本金額です。取引内容には、以下の4つが含まれています。

1.製造委託
商品を販売、製造している事業者が規格やデザインを指定して、商品の製造や加工を委託する取引

2.修理委託 修理業者や自社で使う製品を自社で修理している事業者がその商品・製品の修理を委託する取引

3.情報成果物作成委託
シフトウェアや各種デザインなどを提供・作成する事業者がその作成を委託する取引

4.役務提供委託
請け負った業務(サービス)を下請けに出す、再委託する場合の取引

よくIT企業などで問題となるのは、情報成果物作成委託です。

さらに、上記の適用場面で、親事業者と下請業者の資本金の金額との関係が問題になっていきます。例えば、プログラム作成であれば、以下の図のようになっています。

スタートアップ企業で、資本金1,000万円を超えていて、フリーランスに外注する場合にも、この規定が適用されますので注意しましょう。

下請法が適用されるとどうなる?

下請法が適用される場合には、親事業者にさまざまな義務が課されるだけでなく、親事業者は下請業者に対して、以下のような行為が禁止されています。

・受領拒否
・下請代金の支払遅延
・下請代金の減額
・返品や買いたたき
・購入や利用強制
・報復措置
・不当な経済上の利益の提供要請
・不当な給付内容の変更および不当なやり直し

例えば、親事業者が、通常の代金よりも著しく低い価格で購入する行為(買いたたき)は禁止されています。また、一度契約した代金についてあとから減額することも禁止されています。

親事業者の立場であれば、下請業者にこのようなことをしていないか、下請業者の立場であれば、親事業者からこのようなことをされていないか、下請法を理解しておきましょう。

下請法に違反するとどうなる?

下請法違反は、一般的に下請事業者からの申立てや公正取引委員会が行う調査により発覚します。下請法違反の疑いがある場合、公正取引委員会は、委託する側に対する個別の調査及び検査を実施することになります。その結果、公正取引員会が親事業者の違反を認めた場合には、委託する側に対し、以下の措置が取られます。

・改善を求める勧告を行った上、公表する措置
・違反行為の概要等を記載した書面を交付し、指導を行う措置
・最高50万円の罰金

平成30年度では、公正取引員会からの指導件数が、過去最多の7,710件となっています。 行政の取り締まりも厳しくなっていますので、より一層注意しましょう。

執筆者プロフィール : 中野秀俊

グローウィル国際法律事務所 代表弁護士、グローウィル社会保険労務士事務所 代表社労士、みらいチャレンジ株式会社 代表取締役、SAMURAI INNOVATIONPTE.Ltd(シンガポール法人) CEO。
早稲田大学政治経済学部を卒業。大学時代、システム開発・ウェブサービス事業を起業するも、取引先との契約上のトラブルが原因で事業を閉じることに。そこから一念発起し、弁護士を目指して司法試験を受験。司法試験に合格し、自身のIT企業経営者としての経験を活かし、IT・インターネット企業の法律問題に特化した弁護士として活動。特に、AI・IOT・Fintechなどの最先端法務については、専門的に対応できる日本有数の法律事務所となっている。