テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。
今回は、中小ベンチャー企業などへの経営コンサルティングのかたわら、デジタルハリウッド大学院客員教授、グロービス・マネジメント・スクール講師、パートナーCFO養成塾頭等も務める高森厚太郎氏が、経営者陣に求められるスキルとマインドについて語ります。
数字とロジックで経営と現場をExit(IPO、M&A、優良中堅)へナビゲートする。ベンチャーパートナーCFO、高森厚太郎です。
前回の「経営を役割分担した方がいい理由」の続きとして、経営チームのメンバーであるCEO・COO・CFOに必要なスキルとマインドについてお話しします。
CEOに必要なスキル
CEO(Chief Exective Officer)あるいは創業者に必要なスキルは特にありません。むしろ重要なのは「マインド」です。たとえ誰も信じなくても、自分だけはその商品なりサービスなり会社なり自分の能力なり運なりを、強烈に信じていられるという強烈なマインド、ある種の強烈な思い込みのようなものが必要です。極端に言えば、CEOにはそういうマインドと折れない心、持続するエネルギーがあればいいのです。
CEOに資格試験などはありませんから、その気(本気)になれば誰でもなれます。ただし起業する際にお金を集めたり、起業後に会社を持続的に成長させたりしていくには、CEOになにかしら人を惹きつける魅力のようなものが必要でしょう。CEO個人の魅力でなくても、その企業ないし事業の魅力でもいいのですが、なにかしら外部の「カネ」や「ヒト」や「モノ」が集まってくる求心力となるものがなければ、企業の持続的な成長は難しいかと思います。
COOに必要なスキル
COO(Cheif Operations Officer)は実務の推進者ですから、自社の事業を正しく理解していること、そして組織を機動的に動かせる力を持っていることの両方が必要です。
自社のビジネスを隅々まで知り尽くしていない、つまりスキルがないと適切なオペレーションはできませんし、人をどう動かしていくかの感性がない、つまりマインドがないと人はついてきません。その意味で、COOにはバランス感覚が必要です。
傾向的にCEOにはエネルギッシュで個性的なタイプの人が多いので、スタッフのオペレーションはCEOが直接行うより比較的バランス感覚のあるCOOが間に入る形で進めた方がスムーズに進む場合が多いように思います。
ちなみに、COOは内部昇格の形で選出するのがベストだと私は考えています。自社のビジネスを正しく理解し、組織を機動的に動かしていくCOOには、自社で豊富な経験を積み、自社のスタッフをよく知る人材が就任するのがベストです。
なかなかCOOに適任者が見つからないという悩みを中小ベンチャーでよく耳にしますが、いったん見つかると経営が安定成長軌道に乗りはじめたりするので、COOは会社経営にとって非常に重要な存在ではないでしょうか。
CFOに必要なスキル
CFO(Cheif Financial Officer)は経営を管理する立場です。なかでも「カネ」と「ヒト」の管理においては中心的な立場で、「カネ」の管理ではPL/CFの改善や資金調達、「ヒト」の管理では人事労務などが管轄となります。いずれも専門性の高い高度なスキルが求められる難しい業務で、それに加えて冷静さや論理性、客観性といった資質も不可欠です。その意味で、マインドの方はそれほど必要ではないと思います。CFOに情熱がありすぎると冷静さ・客観性を欠く、CFOは少し冷めているくらいがちょうどいいのではないでしょうか。
CFOはCOOと異なり、内部育成が難しいポジションです。専門性が高いため、一定期間の専門教育が必要になります。ましてや、「ヒト」も「カネ」も見られる人材となると、さらに時間がかかります。それならマルチに見られる人材を外部から調達しようと思っても、そうした専門人材の報酬水準は中小ベンチャーにとってはハードルが高いことが多いものです。
仕方がないので当面は社内にCFOは不在のまま、経営者自ら、社外の会計士や税理士、社労士などをその都度組み合わせて回しているという会社が多いかと思います。
パートタイムCFOの余地
こうした中小ベンチャーの、特にシードステージやアーリーステージにおいては、CFOには外部のパートタイム人材を雇うのが良策ではないかと考えています。これらのステージは企業が組織化する前の段階ですから、資金調達や経営管理といった高度な案件の発生頻度はまだそれほど高くないはずです。
フルタイムのCFOを雇うのは、企業がある程度成長しきってそろそろ上場を目指しますというミドル、レイターステージに入ったあたりで十分ではないでしょうか。そのフェーズであれば、資金調達や経営管理といった高度な案件の発生頻度と要求精度が高くなり、かつ、社内にある程度の余剰キャッシュフローもできているはずですから。
次回は、本連載のテーマ「中小ベンチャーの成長マネジメント」の中心プレイヤーとなる、「中小ベンチャーCFO」(社内、社外を問わず)の業務の全体像を考えていきます。