テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。

今回は、中小ベンチャー企業などへの経営コンサルティングのかたわら、デジタルハリウッド大学院客員教授、グロービス・マネジメント・スクール講師、パートナーCFO養成塾頭等も務める高森厚太郎氏が、「中小ベンチャー経営者の4つの仕事」について語ります。


数字とロジックで経営と現場をExit(IPO、M&A、優良中堅)へナビゲートする。ベンチャーパートナーCFOR、高森厚太郎です。

前回の記事では、私の考える"経営者の4つの仕事"の「実務のPDCA回す」「リソースの調達・配分」の2つを紹介しました。今回は、最後の1つを紹介します。

経営者の仕事4 「エグゼクティブへの渉外活動」

中小企業、大企業問わず、お偉いさんが「夜になったら飲み歩いてる」「会社になかなかいない」こういうことはよくあるかと思います。スタッフからすると「何遊んでるんだよ、金使ってるんだよ」と、思うのは無理もないと思います(笑)。しかし、意外とそうした飲んだり一緒に遊んだりといった、社外活動の世界で、ビジネスチャンスが見つかったり進んだりするものです。

とすると、こうした社外活動は、経営者の仕事となります。例えば、事業提携の意思決定は、中小企業でも大企業でもそれなりの大きな話ですよね。経営者が社外活動に動かないと、事業提携のような大きい話はものにならないでしょう。

また、そういった社外活動の場では多くの情報交換もなされています。現場レベルが持っている情報と、経営レベルが持っている情報では、当然レベルが違います。事業提携など、経営マターの情報は現場レベルで持っているものではありません。持っていたとしても、現場スタッフが外部に出せるものでもありません。こうした情報は、経営者同士でないと、交換されないものなのです。

「ネタ」を拾ってくることの重要性

これらを踏まえると、経営者はスタッフにどう思われようが、社外活動をして「ネタ」を拾ってこないとダメとなります。スタッフは、基本は経営者が取ってきた「ネタ」、新規事業企画だったり新規先への営業だったり、を現実のものにしていくのが仕事です。経営者が実務をいちいちやることはできません。経営者には経営者でないと出来ない仕事をやる必要があります。経営者が社外活動で「ネタ」を拾ってきて、ビジネス広げていかないでどうするよ? という訳ですね。

企業は自然体でいると、既存を回すことに精一杯になったり、これでいいやと満足したりするものです。スタッフに、頭をひねって、カラダを使って、時間をあえて使って、企業をもっと儲けさせる、成長させる積極的理由はありません。会社が爆発的に成長しても、スタッフの給料が数倍になる訳ではないからです。だからこそ、経営者がエグゼクティブへの渉外活動をして「ネタ」を拾ってくる、そのための時間やお金はあえて捻出していかないといけないということです。

経営者が経営の仕事ができないと、企業成長はない

前々回のその1からまとめると、「理念・戦略」「実務回し」「リソース調達」「渉外」が中小ベンチャー経営者の「4つの仕事」となります。4つの仕事を経営者がしている、だからこそ企業は成長機会を捕捉でき、成長できるのです。逆に言えば、経営者が4つの仕事をしていない、できる時間がない、やろうとしてもお金がないとなると、成長は難しいと言えます。経営者が、経営の仕事をしていないということは、日々の仕事にあくせくしている、はたまたサボっている(笑)、ということなので、現状維持が精いっぱいでしょう。経営者が経営の仕事をする時間をいかに作るか、余裕を作るかというのが、経営企画や管理など、経営をサポートする立場では大事だと思います。

中小ベンチャー経営者の悩みは、成長段階ごとに異なる

さて、中小ベンチャー経営者にはどのような悩みがあるでしょうか。成長志向があるベンチャーということで、成長する段階ごとに悩みは変わってきます。

上記の図は、ちまたで言われる0→1起業、1→事業化、規模化、組織化、多角化を、自分の経験、見聞で図解化したものです。縦軸は0→1ではなく、もうちょっと具体的な数字で示すべく、従業員(人)・粗利(千万円)で刻んでいます。例えば、「5」は起業するときは1人で起業というより、エンジニアとタッグを組んで、パートタイムを含めたら5人ぐらいで始めるケースが多いだろう、粗利も数千万円レベルで黒字にはならないかな? という塩梅です。

その成長段階毎に、つまずきがちな落とし穴、経営者の悩みが存在します。例えば、「0→5起業」では、5人ぐらいで起業し、商品・サービスを作り、サービスインもした。しかし、最初から売上が上がるわけではなく、そうこうするうちにお金が尽きて、お手上げというケースです。「死の谷」というところでしょうか。

事業化フェーズでは適者生存「ダーウィンの海」

「5→15事業化」も考えましょう。お金をなんとか調達し、死の谷乗り越えて……となると、今回は人も雇え、設備やマーケティング投資もでき、事業化のフェーズです。売上もどんどん上がっていきます。感覚的には、1人1千万粗利が出てくると、黒字になるかな、という感じです。15人いて粗利1億5,000万、売上は2~3億、ここぐらいまでいくと黒字という算段です。

事業化が進み、黒転できました、OKかというと、そうではありません。一つの会社で売上3億あるということは、それなりのマーケットがあることを指しています。それなりのマーケットであるということは、競合の会社もそのマーケットを狙ってきます。つまり、競争の中で溺れてしまう、適者生存、「ダーウィンの海」で溺れて沈んでしまうということです。ここで成長が止まったベンチャーというのは世の中に少なくありません。黒字と赤字をいったりきたり、受託開発などでお金をつなぎ、なんとか生きながらえていたりします。リビングデッドと言われたりすることも。

続きの、「15→30規模化」「30→100組織化」「100→多角化」は、また次回お伝えします。

執筆者プロフィール : 高森厚太郎

プレセアコンサルティング株式会社 代表取締役パートナーCFO。
東京大学法学部卒業。筑波大学大学院、デジタルハリウッド大学院修了。日本長期信用銀行(法人融資)、グロービス(eラーニング)、GAGA/USEN(邦画製作、動画配信、音楽出版)、Ed-Techベンチャー取締役(コンテンツ、管理)を歴任。現在は数字とロジックで経営と現場をナビゲートするベンチャーパートナーCFOとしてベンチャー企業などへの経営コンサルティングのかたわら、デジタルハリウッド大学院客員教授、グロービス・マネジメント・スクール講師、パートナーCFO養成塾頭等も務める。