テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。
今回は、IT企業経営者としての経験も持つ弁護士・中野秀俊氏が「TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)の特徴と、上場のメリット」について語ります。
起業し、会社を経営する上で、一つのゴールとなるのが、IPO(新規上場)。上場するのは「大変そう」という印象を持つ方もいると思いますが、起業するからには、一つの目標になるものです。
IPOのスタートアップやベンチャー向けというと、マザーズ(Mothers)やジャスダック(JASDAQ)などの市場を聞いたことがあるかもしれませんが、その他にも「TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)」という市場があります。知らない方も多くいるかもしれませんが、スタートアップやベンチャー企業にとっては、非常に魅力的なマーケットです。
今回は、そんなTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)への上場の道について、お話します。
スタートアップ・ベンチャー企業のためのマーケット
IPOというと、準備が大変でお金や時間もかかるイメージがあります。確かに、上場するのは大変ですし、時間がかかるのですが、スタートアップやベンチャー企業向けに、上場の機会を設けようというのが、TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)です。 TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)は、以下のような条件があります。
・上場についての監査証明が1年間でOK(マザーズ・ジャスダックは、最低2年)
・時価総額・利益などの数字的な基準が、具体的に定められていない
・四半期開示などが必要なし
上場するには、それまでの準備が必要ですし、上場後も様々な制約があるのですが、TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)は、四半期開示が必要ないなど、会社側の負担は、かなり軽減されています。
マーケットの特徴や上場するメリットは?
東京プロマーケットは、マザーズやジャスダックなどとは違い、参加できる(売買できる)のが、いわゆる「プロ投資家」だけです。一般投資家は参加できません。
そのため、動くお金はマザーズやジャスダックと比べると少なく、大規模な資金調達ができるというものではありません。では、東京プロマーケットに上場するメリットとして、どのようなことがあるのでしょうか。
■マザーズやジャスダックなどの他市場への足がかりとなる
東京プロマーケットへの上場はしやすいといっても、会社の内部体制を整える必要があり、上場するだけの財務、労務、法務などの事項を整えることが求められます。つまり、東京プロマーケットへの上場手続きする中で、その会社が上場審査に耐えうる会社になってくるのです。
また、証券市場としても、実績も分からない会社がいきなりマザーズやジャスダックとなると審査基準は厳しくなります。しかし、東京プロマーケットに上場して実績を積むと、証券市場側もマザーズなどへの上場を認めやすくなります。
■会社の社会的信用につながる
最近は、大企業を中心に、コンプライアンスの遵守が求められています。企業と取引をするにも、相手方がどんな企業なのかというのが、シビアにみられるようになりました。
その点、東京プロマーケットへの上場しているとなると、一定の基準をクリアしているということで、社会的な信頼が上がります。東京プロマーケットへの上場した企業は、信用性が上がり、取引先が増えたという事例もあります。
■内部体制の整備ができる
東京プロマーケットへの上場のためには、監査法人を入れて財務的な整理も必要ですし、規程類も必要になってきます。いわゆる「会社らしく」なってくるのです。このような過程の中で、「ビジョンやミッションも整理された」、「従業員の士気も上がった」などといった副次的効果があります。
東京プロマーケットへ上場するというのは、単なる資金調達の手段ではなく、「会社」として必要な事項を整理していき、会社の方向性を明確にすることでもあるのです。
上場について柔軟に考える
起業家の中には、「上場なんて、無理」などと会社の上場について考えていない方もいます。しかし、上場というのは、単なる資金調達という手段だけではありません。本稿で取り上げたようなメリットもあります。
一つの選択肢として、東京プロマーケットという柔軟な市場に上場するという選択肢もあるというのは、知っておいて損はないでしょう。
執筆者プロフィール : 中野秀俊
グローウィル国際法律事務所 代表弁護士、グローウィル社会保険労務士事務所 代表社労士、みらいチャレンジ株式会社 代表取締役、SAMURAI INNOVATIONPTE.Ltd(シンガポール法人) CEO。
早稲田大学政治経済学部を卒業。大学時代、システム開発・ウェブサービス事業を起業するも、取引先との契約上のトラブルが原因で事業を閉じることに。そこから一念発起し、弁護士を目指して司法試験を受験。司法試験に合格し、自身のIT企業経営者としての経験を活かし、IT・インターネット企業の法律問題に特化した弁護士として活動。特に、AI・IOT・Fintechなどの最先端法務については、専門的に対応できる日本有数の法律事務所となっている。