テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。
今回は、IT企業経営者としての経験も持つ弁護士・中野秀俊氏が「起業する際、エンジェル投資家から出資を受けるときに注意すべきポイント」について語ります。
起業家にとって、エンジェル投資家からの投資は必須
起業するときに、資金調達をすることは必須の作業になってきます。起業して間もないときの資金調達先としては、「エンジェル投資家」という存在があります。
エンジェル投資家とは一般的に、創業間もないスタートアップ段階の企業に対して資金支援を行う個人投資家のことを言います。
スタートアップ・ベンチャー企業への投資というと、ベンチャーキャピタルが考えられます。しかし、ベンチャーキャピタルは通常、会社組織になっており、基本的には外部の投資家から資金を調達し、その資金で運用しています。
よって、ベンチャーキャピタルは、ある程度収益を見込める企業なりサービスに投資することになるので、スタートアップ・ベンチャー企業でも、ある程度の実績が必要になることが多いです。
起業して間もない段階で投資してくれるのは、やはりエンジェル投資家ということになるでしょう。
エンジェル投資家からの調達においては、単なる資金調達以上の意味があります。特にエンジェル投資家は、経営者であったり、自らも会社を起業して、IPOやM&Aに成功した方が多くいます。スタートアップ・ベンチャー企業にとっては、エンジェル投資家の経験、人脈などを活用できるという意味で、非常にプラスになるのです。
エンジェル投資家に投資してもらうときの契約内容
エンジェル投資家に投資してもらうときには、投資契約または株主間契約を締結することになります。この契約では主に、投資家が経営者に対して期待することを明確にするという目的があります。
エンジェル投資家側からすると、創業者の能力や手腕に期待して会社に投資したにもかかわらず、経営者自身が投資後すぐに会社を辞めてしまっては投資した意味がありません。
エンジェル投資家としては、投資の前提として、少なくとも経営者が会社に専念する義務を課し、経営者の兼業により能力が分散されることを防止するべく、競業禁止条項を設けることが通常です。
また、投資家としては、投資後、投資した会社の状況が全く把握できなくなるケースもあります。投資家側としては、月次での事業報告を求める契約もあります。
しかし、経営者側としては、エンジェル投資段階で月次決算を求めることは、その手間がかかってしまうので、本当にやらなければならないことができない状態になっては本末転倒です。
この点は、経営者と投資家側で話し合う必要があるでしょう。
強制売却権(Drag Along条項)
経営者としては、事業をやっていてバイアウト打診があれば、バイアウトをしてもいいと思う場面が出てくるかもしれません。また、他の事業会社のメガべンチャー企業の傘下に入るなどの選択肢もありえます。
しかし、エンジェル投資家としては、当然その後株式価値が高まってから売却したいという希望があるでしょう。
このような場合に、エンジェル投資家が反対したために経営判断が進まないという事態が生じる可能性があります。
そういったケースに備えて、株主を持っている経営陣が株式を売却する場合には、エンジェル投資家も同一の買い手に売却するよう請求できる権利を設けることがあります。
実際にはエンジェル投資家が同条件を受け入れるかどうかという交渉になる場合もありますが、上記のような事態が発生する可能性も考えられるため、事前に投資家と話し合っておく必要があります。
執筆者プロフィール : 中野秀俊
グローウィル国際法律事務所 代表弁護士、グローウィル社会保険労務士事務所 代表社労士、みらいチャレンジ株式会社 代表取締役、SAMURAI INNOVATIONPTE.Ltd(シンガポール法人) CEO。
早稲田大学政治経済学部を卒業。大学時代、システム開発・ウェブサービス事業を起業するも、取引先との契約上のトラブルが原因で事業を閉じることに。そこから一念発起し、弁護士を目指して司法試験を受験。司法試験に合格し、自身のIT企業経営者としての経験を活かし、IT・インターネット企業の法律問題に特化した弁護士として活動。特に、AI・IOT・Fintechなどの最先端法務については、専門的に対応できる日本有数の法律事務所となっている。