テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じる方も多いのではないでしょうか。本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。
今回は、書評ブロガー・ビジネスプロデューサーの徳本昌大氏が、「偉大な経営者になるための方法」についてご紹介します。
書評家・ビジネスプロデューサーの徳本昌大です。今日は偉大な経営者になるための方法を考えてみたいと思います。参考にした一冊は『ビジョナリー・カンパニーZERO ゼロから事業を生み出し、偉大で永続的な企業になる』(ジム・コリンズ、ビル・ラジアー著)です。
「正しい人材をバスに乗せること」が重要な理由
ビジョナリー・カンパニーシリーズの著者のジム・コリンズは、私の恩人の1人です。サラリーマンをやめ、独立する頃、彼の著作を貪るように読み、人生をよりよくする方法を学びました。そして、人生や仕事において、リスクを取ることの重要性を学びました。失敗を恐れるのではなく、行動することで、多くの学びを得られることをジムから学ぶことで、私の人生をよりよいものに変えられました。
著者は、偉大な企業を動かす要因について4半世紀以上にわたって徹底的に研究してきましたが、その中で見つけた重要な原則が、「最初に人を選ぶ」ことです。有名な書籍『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』のなかで取り上げられていた「正しい人材をバスに乗せること」が、本書でも説かれています。
起業家は正しい事業のアイデアより、正しい人材のほうがはるかに重要であることを忘れないようにしましょう。今考えているアイデア、あるいは事業戦略にしか適性のない人材ばかり集めたら、そのアイデアが失敗し、別のアイデアに挑戦しなければならない時には、同じバスに乗っている人のクオリティが重要になります。
反対に最初のアイデアが成功し、さらにスケールの大きい優れたアイデアが見つかったら、どう対処するのかを考える必要があります。特定の戦略だけに適した人材を採用するのは、最初から失敗の確率を高めるようなものなのです。偉大な企業をつくるためのもっとも重要なスキルは、人材について優れた意思決定をする能力なのです。
バスに乗ってもらう人を探すためには、リーダーは何をしたらよいのでしょうか?
「幸運な出会い」はいつ訪れるかわからないが、人生に何度も起こることは確かだ。あらゆることを「幸運な出会い」というレンズでとらえなおすと、つまり幸運な「出来事」を「出会い」という視点で見直すと、幸運な出会いに気づきやすくなる
『ビジョナリー・カンパニーZERO ゼロから事業を生み出し、偉大で永続的な企業になる』より引用
よい人との「幸運な出会い」をデザインするためには、常に自分は採用活動をしているのだという意識を持ち、どこにいても周囲にすばらしい才能の持ち主が潜んでいるのではないかと目を光らせるようにするのです。
創業チームに正しい人を入れれば、優れたアイデアが生まれ、うまくいく可能性は高まります。正しいメンターと出会えば、正しい選択ができるようになります。
リーダーシップスタイルの7つの要素
著者は、リーダーは以下の7つの要素を身につけるべきだと指摘します。
- 誠実さ
- 決断力
- 集中力
- 人間味
- 対人スキル
- コミュニケーション能力
- 常に前進する姿勢
リーダーシップ・スタイルの要素1「誠実さ」
有効なリーダーシップのもっとも重要な要素は、会社のビジョンを誠実に実践することだ。価値観や目標はリーダーが「何を言うか」ではなく、「何をするか」を通じて社内に浸透していく。健全な会社では、リーダーの語る言葉と心の中で抱いている思いに矛盾がない 。 『ビジョナリー・カンパニーZERO ゼロから事業を生み出し、偉大で永続的な企業になる』より引用
リーダーは誠実に「語る」だけではなく、誠実に「行動」すべきです。会社で働く人たちは、リーダーの行動に驚くほど影響を受けます。リーダーの行動が社員の行動にどれほど影響を与えるか、過小評価してはならないのです。リーダーは自分が理想とする企業文化のロールモデルにならなければなりません。リーダーはコアバリューを実現するために行動し、社員の模範となるべきです。
リーダーシップ・スタイルの要素2「決断力」
スタンフォード大学の初代学長であるデイビッド・スターン・ジョーダンは、「すべてのエビデンスが出そろったと思ったら、イエスかノーか決断し、あとは一か八か賭けてみる」とよいと述べています。問題と正面から向き合い、先延ばしをするのをやめ、データと直感を信じて、決断することを習慣化しましょう。何度かは「失敗」し、そこから学習するプロセスによって、自分の能力を高められるのです。
リーダーシップ・スタイルの要素3「集中力」
集中するためには、優先事項のリストを作成します。この優先事項はできるだけ短くし、一時期にひとつに絞るのが効果的です。優先事項を決めたら、片が付くまでそれに集中します。どうしても複数になる場合でも、3つを超えないようにしましょう。それ以上になるのは優先順位を決めていないのと同義です。 仕事は無限で、時間は有限であると考え、優先事項に集中するのです。
リーダーシップ・スタイルの要素4「人間味」
偉大な企業には、すばらしい人間関係があります。顧客との関係、サプライヤーとの関係、投資家との関係、社員との関係、そして社会全体と良好な関係、リーダーはつながりを意識し、人間関係を良好にすべきです。 顧客や社員をファンに変え、会社と個人的につながっていると感じてもらいましょう。 企業のリーダーが自ら関係づくりに時間をかけることで、このような親密な関係が育まれます。
リーダーシップ・スタイルの要素5「対人スキル」
フィードバックをしないリーダーは、優れたリーダーにはなれません。部下に「ポジティブ(肯定的)な」フィードバックを行えば、人はパフォーマンスを高められます。ポジティブなフィードバックはパフォーマンスを改善する一方、ネガティブなフィードバックはパフォーマンスを低下させる傾向があることがわかっています。リーダーは積極的なフィードバックを心がけましょう。
リーダーシップ・スタイルの要素6「コミュニケーション能力」
偉大な企業はコミュニケーションを糧に成長します。有能なリーダーはあらゆる場面でコミュニケーションをとろうとします。彼らは常に組織のなかで、コミュニケーションを行い、社員にビジョンを話、質問をし、ポジティブなフィードバックを行っています。社長室に籠るのをやめ、社内を歩き回り、社員への声がけを行いましょう。
リーダーシップ・スタイルの要素7「常に前進する姿勢」
優秀なリーダーは、「常に前進する」メンタリティを持っています。彼らは有能なリーダーになるための努力を怠りません。常に高い基準を目指すという揺るぎない決意を持ち、日々、昨日より上を目指しています。 自分の弱みや欠点に注意を払い、自分の弱点を改善していきます。他者からの手厳しいフィードバックを求め、コメントをもらうのです。客観的で正直な第三者を社外取締役として迎えて、改善のアドバイスをします。 私は社外取締役やアドバイザーをしていますが、優秀なリーダーは自分への批判を恐れません。真に傑出したリーダーになるために、彼らは私のような人間を雇い、自己研鐙にコミットしています。
著者は本書で「リーダーシップの第5水準の原則」を改めて説明します。第5水準のリーダーは以下の第1水準から第4水準までのすべてのスキルを駆使して、ビジョンを実現するために全力を尽くします。
- 第1水準(個人的スキル)
- 第2水準(チームワークのスキル)
- 第3水準(管理スキル)
- 第4水準(リーダーシップスキル)
そして第5水準のリーダーは、謙虚さと不屈の意思という矛盾するような性質を併せ持っており、なおかつ野心的です。彼らはあらゆるエネルギーを事業に注ぎ、目標を達成しようとします。その野心は自分のためではなく、会社のため、目的のために向けられます。
第5水準のリーダーになりたければ、自分の大義は何かを問うべきです。自分自身ためではなく、大義のためにリーダーシップを発揮すべきです。その際、リーダーシップの7つの要素が重要になります。偉大な経営者になりたければ、誠実さ、決断力、集中力、人間味、対人スキル、コミュニケーション能力、常に前進する姿勢を身につけましょう。
『ビジョナリー・カンパニーZERO ゼロから事業を生み出し、偉大で永続的な企業になる』
著者:ジム・コリンズ、ビル・ラジアー
出版社:日経BP