テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。

今回は、業務可視化組織改善ツールを提供するQasee代表取締役CEO村田敦氏が、組織における業務改善の成功事例と失敗事例ついてお話します。

  • 組織における業務改善・効率化の成功事例と失敗事例


組織運営を行っていく上で、現状の業務の効率化を図り、従業員ひとり一人の労働生産性を上げていくことが非常に重要であるのはご承知のとおりだと思います。ですが、多くの企業で業務改善・効率化の重要性に気づいているにも関わらず、なかなか思うように進まない、成果が出にくいといったことはよくあります。

今回は、様々な企業における業務改善の成功事例と失敗事例を紹介することで、その成果の出やすさの違いを深堀りしていきたいと思います。

経営層、従業員双方が業務改善における課題の共通認識を持つ

まず、業務改善にうまく取り組めている企業の特徴として、経営層と従業員との壁が薄く、常にコミュニケーションが円滑に行われている点が上げられます。業務上の気になる点を実行責任者と現場メンバーが常に共有することで、チーム全体での改善の意識が上がりやすくなります。また業務改善が自社にとってなぜ必要で、どういう効果を期待しているのかといった点についても、コミュニケーションが円滑なチームや組織ほど、浸透しやすく、現場メンバーに誤解を与えづらいでしょう。

とある企業では、社内のリソース不足をいかに補っていくべきか、業務の中で改善できる点はないのか日々頭を悩ませていましたが、経営陣の鶴の一声で、業務管理ツールについて、ひとつひとつ改善できる点を特定していったことがありました。

「社内で使用しているシステムが使いにくくこの点が非常に時間がかかってしまう」といった声や、「〇〇の業務に着手するまでには〇〇の資料がないと作れないが、それが早く届く仕組みがあればもっとスムーズに業務が行える」といった声です。

こうした現場のメンバーが声を発しやすい場を設けることで、現場メンバーしか分からなかった問題を拾い上げられ、効果的な業務改善を実施できた事例です。

現状の業務の課題や問題を簡単に結論付けない

次に、多くの企業の業務改善でよくあるケースのひとつとして、組織全体の業務改善を意識するあまり、全体の業務改善から着手してしまいがちというパターンがあります。この場合の問題点は、組織全体で業務を回しているという意識が強く、業務改善の責任のある立場の人が個々のメンバーひとりひとりの業務にあまり関心がないことが挙げられます。

たしかに組織が大きくなれば、ひとり一人の細かな業務内容は気にならなくなるのも分かりますが、組織がどれだけ大きくなっても、組織は従業員個々の集合体であり、日々業務をこなしているのは、個々の従業員自身であることには変わりないと思います。

従業員個々の業務の中から、業務改善に繋がるヒントを見つけ出し、それを全体に適用していく、そうした業務改善の方が結果として、スピーディーに組織全体としての効果が出やすいと言えます。

とある企業では、社内全体で使用していた見積書や請求書作成に使う販売管理システムを他のシステムに乗り換えたものの、結果として業務の効率化という部分では意図していたほどの改善は進まなかったそうです。

なぜこのような結果になってしまったのでしょうか。このケースの場合、組織全体で「販売管理システム上での作業時間が長い」という課題に対して「システムの使い勝手が悪い」という原因が挙げられていました。しかし、システムの使い勝手に問題はあったものの、それ以上に大きな原因として「それを使うまでのプロセスに問題が生じていること」があったのです。

このように、問題点の掘り起こしが曖昧であったり、主観から安易に判断してしまうと、素早く改善に着手しても期待される効果や目的も不明瞭であるため、回り道してしまうことも多々あります。

また最悪のケースでは、こうした状況を繰り返すことで、さらに現場やマネージャー陣の改善に対する熱量が次第に低下しまい、現状維持のまま業務改善を実施すること自体が億劫になってしまうこともあります。

いずれのケースでも、業務改善に着手する前の仮説は正しいのか、現場の声を拾い上げる必要があります。マネージャーや業務改善の担当者が、現場の声や状況を理解するために必要な時間を割かず、解決の手段にばかりフォーカスしてしまっているケースが多いように感じます。

最初にしっかりと主観を排除し、実際の声やデータを元にして、何が問題かを特定していくことは非常に重要な作業です。それなくしては効果的な業務改善は期待できないと言えるでしょう。