年間1,000件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を実施する武神健之氏(医師、医学博士、日本医師会認定産業医)に、職場のストレスとコミュニケーションについて解説していただきます。
「強い不安、悩み、ストレスがある」が半数超
厚生労働省の労働安全衛生調査(実態調査)で、働く人たちに、「あなたは、強い不安、悩み、ストレスはありますか?」という質問に「ある」と答えたのはおよそ58.3%で、半数以上の労働者が強いストレスを感じています。
その人たちに「強い不安、悩み、ストレスを相談できる人はいますか?」と質問すると、91.8%の人が「いる」と回答しています。では、そういうときに「実際に相談しましたか?」と聞くと、「した」という人は実は84.2%に減ってしまいます。
そして、実際に相談した人に、「相談して解消されましたか? 解消しないまでも気が楽になりましたか?」という質問に対しては、「解消した」という回答が31.7%、「気が楽になった」という回答は60.3%に上っています。つまり約9割の人が相談することにより不安が解消したか、少なくとも気が楽になるという効果を感じているのです。
この場合の相談というのは専門家への相談ではなく、家族や友人、上司や同僚に話をする、それだけのことです。人は不安や悩み、ストレスを抱えているときに、それを誰かに話し、中のものを外に出すだけで、気持ちに整理がついたり発散したりでき、相談することの効果はすごく大きいのです。
ストレスチェックテストでも、周囲にサポートしてくれる人がいるか、どれくらいサポートしてもらえるかに関する一群の質問項目があります。
元気なうちに話せる相手を見つけておく
話すことによって、多くの場合人は自分の頭の中だけで考えているだけよりも、より整理ができます。いいカウンセラーは、あなたの頭の中のこんがらがった紐を解くように、あなたの話を上手に聞いてくれます。特にアドバイスを受けていないのに、なぜか、カウンセリングの後に自分の頭の中がスッキリしていたり、解決の方向性が見えたりするのは、このためです。話すことによって、自分の頭の中が整理してもらえたのです。
精神療法(メンタルヘルス治療法)のなかでは昔から、話をすること自体がストレスの緩和には非常に効果的だと考えられています。元気な時も病気の時も話すことは大切なのです。
だからこそ、日頃から自分が話すべき人を決めておきましょう。話を聞いてもらう相手として、へたに上司とかに話すと途中で要らないアドバイスとかをしてくることもありますから、そういう人よりは、ただ「うん、うん」とあなたの話を聞いてくれる人を見つけるべきでしょう。
その点、話をきくのが専門の仕事である産業医やカウンセラーは上手に聞いてくれますから、相手のあいづちとか質問に合わせて話しているだけでこんがらがった糸がほどけてきます。あるいは友達でもいいので、へんなアドバイスするより「うん、うん」と聞いてくれる人を、元気なうちに身近なサポーターとして見つけておいてください。
まず、あなたは話を聞いて欲しいのかアドバイスが欲しいのか、考えてから話す相手を見つけるといいのではないか、と思います。
今この記事を読んでいる方は元気な方が多いと思いますが、「私は関係ない」ではなくて、元気なうちに、いざとなったら話を聞いてくれる人をちゃんとつかまえておいてください。いざとなったら誰に話をすれば聞いてくれるのかな、と考えて、親でもいいし、他の家族でもいいし、恋人、会社の同僚、もしくは他の会社の友人かもしれないけれども、元気なうちに話を聞いてくれる人を見つけておいてください。元気がなくなってしまったら、そういう人を見つける元気もないのですから、そこがすごく大切なところです。
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著者プロフィール: 武神健之(たけがみけんじ)
医師、医学博士、日本医師会認定産業医。一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。ドイツ銀行グループ、BNPパリバ、ムーディーズ、ソシエテジェネラル、アウディジャパン、BMWジャパン、テンプル大学日本校、アプラス株式会社、日本風力開発株式会社といった一流外資系企業を中心に、年間1000件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を実施。働く人の「こころとからだ」の健康管理を手伝う。2014年6月には、一般社団法人日本ストレスチェック協会を設立。「不安とストレスに上手に対処するための技術」「落ち込まないための手法」などを説いている。
著書に『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書―上司のための「みる・きく・はなす」技術』(きずな出版)がある。