「その業務、私の担当じゃないのに……」
前回はこのような、役割以上の「範囲」の業務をさせられるケースを取り上げ、そのような状況をどう捉え、どう対応していけば「しなくていい努力」にならないか、そのひとつの考え方を紹介しました。
今回は役割以上の「上位者」の仕事をさせられるケースを考えます。まだ主任にもなっていないのに、課長がするような判断を求められて困惑した、といったことを、皆さんも経験したことがあるのではないでしょうか?
ブラック企業のケースは論外
「まだ3年目なのに、主任のような判断や業務を求められる」と自分の役割以上の上位者の仕事を任されてしまうケースを考えていくのですが、大前提として、前回のケースも同じですが、会社が、露骨な人件費削減などを目的に、ある種確信犯で役割以上の範囲の仕事をさせたり、役割以上の責任を押し付けたりしている、いわゆる「ブラックな」ケースは、もちろんここでいう話の論外になります。
そのような場合では、たしかにどんなにがんばってもその努力は報われませんので、そのような会社をなぜ選んでしまったか、その点は自分でもよく反省しながら、早々にフェアなステージへの転向を考えた方が良いでしょう。
肩書きをもらってからでは遅い
しかし、そうでない場合は、このケースも、実は大チャンスなのです。企業において「昇格する」というのはどういうことか、考えてみましょう。「主任」という肩書きをもらったら、今まで平社員の仕事をしていた人が、いきなり主任の仕事ができるでしょうか?
「課長」という役職についた瞬間に、いままで主任の仕事をしてきた人が、課長の役割をはたせるでしょうか? それは無理というものです。主任時代から、課長のような仕事を意識してやってきた人だけが、課長になったとき、スムースにその役割を果たすことができるのです。
ですから、役割以上の「上位者」の仕事を期待されはじめるというのは、そういう意味では大チャンスなのです。そろそろ主任を任せようか、となったとき、会社(上司)は、その主任候補の平社員に、主任レベルの仕事を任せてみて様子を見ます。
同じように、課長候補だと思ったら、その主任に課長の仕事を任せ、十分に課長としてやっていけるかどうかを判断するのです。
会社は全員が役割以上のことをやることで成立する
20代の私が、なぜ役割以上の「範囲」や「上位者」の仕事を嫌がったかというと、正直に言えば、
「同じ給料なのに、そこまでやるのは損だ」
と考えていたからです。裏を返せば、自分が働いた分はもらえる、つまり「100働けば、100のお金が稼げるべきだ」と考えていたことになります。
しかし、その大本の、前提としていた考え自体が間違っていたのです。そのような考えでは、そもそも、会社も社会も成立しないのです。営業担当が、自分が稼いだ粗利をすべて自分のものだと考えたら、事務所の賃料は、会社の電気代は、総務部の人件費は、どうなってしまうのでしょうか?
会社は全員がもらうお金以上の、すなわち役割以上のことをすることを前提に、50や60のお金をもらうためにみんなが100働くことで成り立っているのです。
執筆者プロフィール
堀田孝治(ほった・こうじ)
クリエイトJ株式会社代表取締役
1989年に味の素に入社。営業、マーケティング、"休職"、総務、人事、広告部マネージャーを経て2007年に企業研修講師として独立。2年目には170日/年の研修を行う人気講師になる。休職にまで至った20代の自分のような「しなくていい努力」を、これからの若手ビジネスパーソンがしないように、「7つの行動原則」を考案。オリジナルメソッドである「7つの行動原則」研修は大手企業を中心に多くの企業で採用され、現在ではのべ1万人以上が受講している。著書『入社3年目の心得』(総合法令出版)、『自分を仕事のプロフェッショナルに磨き上げる7つの行動原則』(総合法令出版)他。