休日も仕事が頭から離れなくて…… この悩みには、私も心から共感します。「仕事終わりの時間なのに」「大学時代の友人との楽しい席なのに」「旅行なのに」など、仕事のことが頭から離れない。それではもったいないと、切り替えようとすればするほど、仕事を考えてしまう……。
20代の私は、実際にそんなスパイラルにはまり込んでしまい、それだけが理由ではないにしろ、30歳の時にメンタルの不調が主原因で9カ月も休職してしまうのです。そんな私ですが復職後はあるきっかけで、そのスパイラルから脱出することができました。そのポイントは「手帳」でした。
手帳は"忘れるために"使う
さて、手帳はなんのために使うものなのでしょうか? あとから知ったのですが、この質問は、仕事ができる人とできない人が、真逆の答えとなる有名な質問だそうです。
20代の私は「『忘れないため』に使う」と答えたでしょう。一方で、仕事ができる人たちは、逆に「『忘れるため』に使う」と答えるのです。どういうことか、もう少し丁寧に説明していきましょう。
20代の私の手帳は単なる「アポ帳」でした。たとえば「21日の9:00」のところに「○○社提案」などと、アポイントを書くだけでした。
一方で、仕事ができる先輩たちは「22日月曜日の9:00」のところに「○○社提案」と書いたその後に
「19日(金)」に「提案書最終仕上げ・プリントアウト5部」
→「18日(木)」に「上司の最終チェック」
→「17日(水)」に「提案書 上司チェック版作成」
→「16日(火)」に「提案書 前田先輩のチェック」
→「15日(月)」に「提案書 先輩チェック版作成」
→「12日(金)」に「提案書作成に必要なデータ収集」
といったように「アポイント(ゴール)」だけでなく、そこにどうたどり着いたらいいのか、その「段取り」も逆算して手帳に書いていたのです。もちろん、上司や先輩にチェックしてもらう時間は、ちゃんとアポを取ります。
実は当時、「段取りも手帳に書いた方がいいぞ!」と、先輩に直球でアドバイスされたことがあります。しかし私は、曖昧に返事をし、それまで通りのアポ帳で突き進みます。
なぜなら、頭のいい(自称)私は「段取りなんてわざわざ書くの面倒くさいよ、ちゃんと『頭の中』で考えてるから大丈夫」と思ったからです。そうです。私にも段取りはあるのです。ちゃんと常に頭で考えているのです。
手帳はストレスマネジメントツール
では、そんな私はどうなったかというと……
夜同期と楽しくお酒を飲んでいても、休日に友人と遊んでいても、その段取りを「忘れないように」ずっと頭に思い浮かべ、考え続けなければなりません。
なぜなら「書いてないから」です。ですから、夜でも休日でも、プライベートの時間でも常に「忘れないために」、頭の中で反復して、思い出し続けていなければならなかったのです。それをストレスといいます。
一方、なぜ先輩は段取りまでちゃんと手帳に書いていたかというと、そうです、実は「忘れるため」だったのです。書いてしまえば、頭の中からは捨ててしまって大丈夫です。友人とお酒を飲むときも、休日も、仕事のことなんかすべて忘れて、プライベートに全力投入し心から満喫します。
仕事ができるその先輩がその時唯一覚えておくのは、「仕事になったら手帳を見る」、ただこれだけです。手帳は、実は「ストレスマネジメントツール」でもあったのです。
「今日一日」に集中する
段取りを手帳に書かず、常に頭で考え続ける……つまり「忘れないために手帳を使う」という私の努力は、残念ながら「しなくていい努力」でした。
30代でやっと忘れるために手帳を使い始めた私ですが、しばらくしてさらに、「水曜日の自分がやることを、月曜日に悩んでも、まったく意味がないんだな」「そうか! これからは、毎日、1日分だけ悩めばいいんだ」という大発見? をします。
今日自分ができるのは、どうがんばっても、今日のことだけです。20代の私は、月曜日に水曜日や金曜日にすることを考えたり、悩んだりしていて、結果的には「月曜日にやること」がうわの空になり、全力で取り組めてなかったのです。
打ち合わせや会議の時に別のことを考えているなんて、目の前の人に失礼ですよね。休日に仕事が頭から離れなかった私は、逆にいえば、目の前の仕事や人に、きちんと集中して取り組めてもいなかったのです。
「今日一日が大事」「一期一会」「目の前のことを大事にする」。30歳を大きく過ぎて、やっと、当時の先輩たちがいっていたことの真意が腹に落ちたのでした。
執筆者プロフィール
堀田孝治(ほった・こうじ)
クリエイトJ株式会社代表取締役
1989年に味の素に入社。営業、マーケティング、"休職"、総務、人事、広告部マネージャーを経て2007年に企業研修講師として独立。2年目には170日/年の研修を行う人気講師になる。休職にまで至った20代の自分のような「しなくていい努力」を、これからの若手ビジネスパーソンがしないように、「7つの行動原則」を考案。オリジナルメソッドである「7つの行動原則」研修は大手企業を中心に多くの企業で採用され、現在ではのべ1万人以上が受講している。著書『入社3年目の心得』(総合法令出版)、『自分を仕事のプロフェッショナルに磨き上げる7つの行動原則』(総合法令出版)他。