「会社説明会を信じてこの会社に入ったのに、実際は雑用や作業ばかりで……」
「誰がやっても同じような業務ばかりで、やりがいを感じないんです」
このような悩みや不満、あるいは不安をよく聞くことがあります。実は、私の研修でも本でも、「雑用」や「作業」は、大きなキーワードになっています。こことどう向き合うかで、その後のキャリアが大きく変わってしまうからです。
価値ある仕事は下足番でもできる
私自身、誰がやっても同じ雑用や作業は大嫌いでした。実際に「受電(かかってきた電話に率先して出ること)」「掃除」「シュレッダーのゴミ捨てやコピー機の紙の補充」「懇親会の幹事」などの、雑用や作業からはできるだけ逃げ、後回しにし、手を抜いていました。
さて、現在私がメインでやっている「7つの行動原則」という研修の中に、「旅館の下足番でもできる、価値ある仕事のアイデアをたくさん出す」というグループワークがあります。
実はこのワークは、
「下足番という業務は、決して、雑用でも作業でもない!」
「下足番という業務でも、いくらでも『自分ならではのいい仕事』ができる!」
ということを、結果的に参加者が証明してくれるワークなのです。
下足番という業務で、ただ、女将さんにいわれただけの、靴とスリッパの交換だけをしていたら、それはたしかに誰でもできる雑用であり、作業です。
しかし、自分でテーマを設定し、靴を磨いたり、天気予報を伝えたり、写真撮影を買ってでたり、手作りの地図で付近の観光案内をしたり……、そうしている下足番を指して、雑用・作業などという人はいません。女将さんも、「いい仕事をしているわね!」と言ってくれるはずです。
小さな業務を大きくできますか?
では、わざわざ、下足番のような小さな業務に、プラスで価値を足したり、自分らしくしたりしなければならないのでしょうか?
そのことを考える前に、まず、なぜ若手にはそのような小さな業務が振られるのかを、別な視点から、たとえば経営者や人事部長の立場に立って考えてみましょう。
「経営企画部」は、出店計画を立てたり、M&Aを行ったりと、世の中に1万点くらいのインパクトがある業務ができます。成功しても、失敗しても新聞に出る、大きな仕事です。就活の会社説明会で聞くのは、このような業務です。
では、みなさんが経営者だったら、新入社員にこのような業務を担当させるでしょうか? おそらく、リスクが高すぎるので答えは「NO」のはずです。やはり新人には、下足番のような小さな業務からスタートしてもらうしかないのです。
下足番には、10点くらいのインパクトしかありません。自分ならではの価値をプラスするアイデアをたくさん考え、実践しても、10点が12~15点になるくらいです。逆にいえば、手を抜いても7~8点くらいになるだけで、どちらにしても新聞に載るような大きなインパクトは社会に与えられません。
そして日本の会社は、15点の下足番にも、7点の下足番にも、基本、同じ金額の給与を支払います(そして、通常どちらもクビにはなりません)。ですからそういった面から見れば、たしかに「やった方が負け」かもしれないのです。
15点でがんばっている下足番と7点でこなしている下足番、2人の同期が同じ会社にいたとしましょう。1年目、2年目は、何も変わりません。給料もほとんど同じでしょう。さて、3年目に異動のタイミングがやってきました。この2人が、同じ「経営企画部」に異動希望を出します。
さて、みなさんが人事部長だったら、どちらを経営企画部に異動させるでしょうか?
もうおわかりですよね。10点の仕事を7点でやる人に、会社は絶対に1万点の仕事を担当させません。なぜなら、もしそうしたら、1万点の仕事を6,000点、7,000点でやり、会社と社会に大損害を与えると見られるからです。
「しなくていい努力」をするリスク
逆に10点の下足番を15点でやっていると、会社から、50点、100点の仕事を打診されます。なぜなら、100点の仕事を150点でやってもらった方が、会社としてはメリットが多いと判断するからです。
小さな業務を雑にやっている人は、大きな業務も雑にやるのでNGだと判断されます。小さな業務を自分の力で大きくした人だけが、大きな業務を任されるのです。
もちろん、その先にもその会社に自分のやりたい大きな業務がなかったら、話は別です。しかし、そうでないなら、日々の小さな業務を、誰がやっても同じように、雑にやってしまうのは、相当リスクの高い「しなくていい努力」です。
「下足番を命じられたら、日本一の下足番になってみろ。そうしたら誰も君を下足番にしておかぬ」
これは、阪急電鉄創業者の小林一三氏がいった言葉です。この短い言葉の中に、仕事の本質が語られています。
執筆者プロフィール
堀田孝治(ほった・こうじ)
クリエイトJ株式会社代表取締役
1989年に味の素に入社。営業、マーケティング、"休職"、総務、人事、広告部マネージャーを経て2007年に企業研修講師として独立。2年目には170日/年の研修を行う人気講師になる。休職にまで至った20代の自分のような「しなくていい努力」を、これからの若手ビジネスパーソンがしないように、「7つの行動原則」を考案。オリジナルメソッドである「7つの行動原則」研修は大手企業を中心に多くの企業で採用され、現在ではのべ1万人以上が受講している。著書『入社3年目の心得』(総合法令出版)、『自分を仕事のプロフェッショナルに磨き上げる7つの行動原則』(総合法令出版)他。