「労災」という言葉をご存知でしょうか? 労災とは「労働災害」を指し、仕事が原因で、怪我をしたり病気になったりすることです。
この連載では、労災かそうではないか判断に迷う読者の悩みを紹介します。
Q.職場環境に問題があり、熱中症、ノロウイルス、インフルエンザ等に罹患した。これは労災になりますか?(愛知県・男性・会社員・42歳)
A.疾患の種類により、労災認定の可能性が異なります。
今年もそろそろインフルエンザの流行が心配な季節になりました。そこで今回は、職場で季節性の疾患にかかった時に、労災の対象になりうるか、検討していきたいと思います。
季節性の疾患といっても多種多様ですが、よく話題になるインフルエンザ、ノロウイルス、真夏に多い熱中症についても取り上げます。
インフルエンザは労災認定されるか
最初に、インフルエンザです。たとえば、満員の通勤電車で隣に激しい咳をする人がいて、その人から感染した可能性が高い場合。
あるいは小さな事務所に同僚と二人だけで内勤しており、その同僚からインフルエンザをうつされた場合は、労災の対象になるのでしょうか。
残念ながら、いずれの場合も、労災としては認められません。
厚生労働省のHPでは、「一般に、細菌、ウイルス等の病原体の感染によって起きた疾患については、感染機会が明確に特定され、それが業務又は通勤に起因して発症したものであると認められる場合には、保険給付の対象となります」という説明があります。
したがって、理論上の可能性はゼロではありませんが、「感染機会が明確に特定」することが、インフルエンザの場合は事実上不可能なので、労災として認められることは、ほぼないでしょう。
特殊な職場環境なら認定される場合も
それでは、次のようなケースは、どうでしょうか。
保育園で小さなお子さんが集団でインフルエンザになり、その直後に罹患した保母さんの場合。あるいは、病院でインフルエンザの患者さんに直接触れる機会が多い看護師さんの場合は、労災の対象になるのでしょうか。
この場合は、労災として認められる可能性が、多少は高くなります。しかし、「インフルエンザに罹患した方が意識不明になり、口移しで人工呼吸をする」など、よほど特殊で明確な状況でない限り、たとえ医療従事者であっても、認定されるのは難しいといわれています。
ウイルスは目に見えるものではありませんし、この季節はあらゆる生活場面の空気中に無数に存在しています。
今回のインフルエンザのウイルスが、いつ、どこで、どのような経路で感染したものかを特定し、かつ、業務外で感染した可能性がないことを証明することは大変難しいからです。
ただし、職場で義務付けられた集団予防接種を受けたことが原因で、流行前に罹患した場合など、認められたケースもあるようです。感染経路が明確に特定できる特殊なケースの場合には、労基署の判断を仰いでみるのもよいでしょう。
ノロウイルスは認定される可能性が高い
次に、ノロウイルス感染症はどうでしょうか。これは、業務起因性および業務遂行性が明確な状態での集団感染など、感染原因が特定できれば業務災害に認定される可能性が高いです。
たとえば、社員食堂で特定のメニューを食べた社員が集団で食中毒になった場合などは、業務災害として認定される可能性が高いでしょう。
しかし、昼食時に社外のレストランに同僚と出かけた際の食中毒などは、当然ですが認められません。
その他、通勤電車内での吐しゃ物への接触などが原因の場合に通勤災害になりうるかなど、判断に迷う場合は、労基署の判断を仰ぎましょう。
熱中症も認定される可能性が高い
最後に、夏場に多発する熱中症は、労災の対象になるのでしょうか。これは、溶鉱炉や屋外の炎天下など、非常に暑い場所での作業による熱中症であれば、労災認定される可能性が高いです。
専門的には、一般的認容要件と医学的診断要件という判断基準によって、労災にあたるか否かが決定されます。
熱中症は高温多湿の日本では、最近とくに多発しており、重篤な場合には死に至ってしまう危険な病気です。
建築・土木や警備業など、実際に現場で働いている方は十分に注意しましょう。
著者プロフィール : 米澤 実(よねざわ みのる)
社会保険労務士事務所 米澤人事コンサルティングオフィス代表
千葉県船橋市出身。株式会社リクルート(現リクルート・ホールディングス)でクリエイティブディレクター、ライン組織マネジメント、グループ企業の人事部長を経て、2010年独立。現在は「元気で強い成長企業の実現を支援する人事労務コンサルタント」として活動している。