「労災」という言葉をご存知でしょうか? 労災とは「労働災害」を指し、仕事が原因で、怪我をしたり病気になったりすることです。この連載では、労災かそうではないか判断に迷う読者の悩みを紹介します。

Q.会社へ車で通勤途中、会社に申請している道順と違う場所で交通事故にあった。 これは労災になりますか? (埼玉県・男性・会社員・40歳)

A.通勤災害として認められるケースと、認められないケースがあります。

  • 労災なのか判断に迷ったことはありますか?

労災には業務災害と通勤災害の2種類ある

労災というと、たいていの人は仕事中の負傷や疾病をイメージすると思います。しかし労災には業務災害と通勤災害の2種類があります。デスクワーク中心の安全な職場環境で仕事をすることが多い会社員の方にとっては、むしろ通勤災害の方が身近な危険といえるかもしれません。

ご質問の方は、自宅から最寄り駅または会社まで、マイカーを使って通勤しているとのことですので、この途中で事故によって負傷をしたのであれば、通勤災害となることが想定されます。

「合理的経路・方法」と「逸脱・中断」

しかし、質問者の方は「会社に申請している道順と異なる場所で」事故に遭ったことを心配されていますね。これは正しい着眼点です。

論点は3つあります。

1つ目は、「合理的な経路および方法」であるかどうか、
2つ目は、「通勤経路の逸脱または中断」があるかどうか、
3つ目は、会社に申請している経路は通勤災害に認定される必要条件か、
です。

経路および方法が合理的かどうか

1つ目から説明しましょう。

通勤災害として認められるには、自宅から会社までの経路および方法が合理的かどうかが問われます。つまり通常利用する経路であれば通勤災害として認められます。

普段は電車とバスを利用しているが、雨の日や遅番の時はマイカーを利用するなど、選択肢が複数あってもよいですし、道路の混み具合や工事による迂回などで多少異なったルートを使ったとしても合理的であるとして認められるでしょう。

しかし、「朝の海を見たいと思い、ふだんは使わない道を迂回した」など、あきらかに遠回りをした場合などは、通常利用する合理的な経路とは認められないでしょう。

通勤経路からの逸脱・中断があったか

では、2つ目の「逸脱・中断」とはどういうことでしょうか。

通勤災害として認められるには、自宅からまっすぐに会社に向かっていたかどうかが問われます。

ただし子どもを保育園に送迎したり、途中に病院に立ち寄ったり、コンビニやスーパーなどで日用品の買い物をするなど、日常生活上必要な行為であって、最小限度の範囲で行う場合は、その逸脱・中断中を除いて、通常の経路上に戻った後は再び合理的な経路として通勤災害の対象になります。

しかし、これは主に帰宅途中に多いことですが、映画館に行ったり居酒屋やパチンコ店に寄ったりした場合は、日常生活に必要な最小限度の範囲とは認められず、その逸脱・中断中だけでなくその後通常の経路に戻った後も含めて、通勤災害とは認められなくなります。

会社への申請経路は必要条件ではない

3つ目の「会社への申請経路」について

質問者の方は、「会社に申請している道順とは違う場所」で交通事故に遭ったとのことです。

もちろん会社に申請している経路であれば、最短で合理的な経路として確実ではあるでしょうが、会社に申請しているルートと多少異なっていたとしても、それが上記1、2の合理的な経路であれば、それ自体は問題になりません。

労災の認定は、会社ではなく労働基準監督署が行うものであり、社内ルールによる影響は受けません。

以上、3つの論点ごとに説明いたしました。

質問者の方の質問に正確にお答えするには、なぜ、どの程度、いつもと異なる経路を使ったのか、通勤とは別の目的で逸脱や中断があったのかなど、さらに詳しく確認する必要がありそうですね。

迷ったら労基署に問い合わせよう

ファストフード店で朝食をとる場合はどうか、朝食ではなくコーヒーを飲んで一息ついた場合はどうか、カフェで人と会っていた場合はどうか。通院先の病院が通常の通勤経路からかなり離れていた場合はどうか。などなど、実際には様々なケースがあるでしょう。

その場合は、5W1Hをつまびらかにした上で、個別具体的に「合理的な経路および方法」であるかどうか、「通勤経路の逸脱または中断」であるかどうかを検討していく必要があります。迷う時や不安に思う場合は、最寄りの労働基準監督署の労災課に確認しましょう。

著者プロフィール : 米澤 実(よねざわ みのる)

社会保険労務士事務所 米澤人事コンサルティングオフィス代表
千葉県船橋市出身。株式会社リクルート(現リクルート・ホールディングス)でクリエイティブディレクター、ライン組織マネジメント、グループ企業の人事部長を経て、2010年独立。現在は「元気で強い成長企業の実現を支援する人事労務コンサルタント」として活動している。