SNSの世界では、アプリで加工した自撮りやキラキラした日常をシェアして「理想の自分」をネット上に作り上げる人がいます。それもSNSの楽しみのひとつではありますが、見る側としては必要以上に作られた投稿に不快感を抱くこともあるでしょう。さらには、楽しくて始めたはずの「理想の自分」の演出に疲れてしまう人も……。
そんな中でアメリカでは、「リアル」を楽しむためのSNSが注目を集めています。以前『前後カメラで写す「リアル」が流行』で紹介した「BeReal」です。2022年9月には、TikTokがBeRealにそっくりな「TikTok Now」をリリースするなど、SNSとリアルの融合がブームとなっています。
そしてまた、新たなSNSがアメリカの10代に注目されています。「Gas(ガス)」は、お互いをアンケート形式で褒め合うSNSです。米国App StoreのSNSカテゴリーで2022年10月から1カ月間、第1位となっています。GasはiOS用アプリですが、カリフォルニア、ニューヨーク、アリゾナなど、アメリカの一部の州でしか利用できないにも関わらず、リリースから約2カ月でトップに躍り出たのです。現在はカナダでも配信されています。
「Gas」のネーミングは、アメリカのスラングで「gassing someone up」(ガスを満たす=誰かを幸せにする)から取られているとのこと。Gasの開発者の1人は、2017年にFacebookに買収された「tbh」という、10代向けアプリの開発者でした。tbhもGasと同様に褒め合うアプリで、「もっとも○○○な人は誰?」という問いかけに答える形で友だちを褒めます。2018年7月にサービス終了になりましたが、約4年後の2022年、Gasがリリースされました。
ユーザーがGasをインストールすると近くの学校が表示され、自分の通っている学校を登録して連絡先を追加します。すると、「密かに憧れている人は?」「私の心を溶かす笑顔を持つ人は?」といった褒める内容の質問が1時間ごとに表示されるので、友だちの名前を選択して答えます。誰が誰に投票したのか周りからは分かりませんが、課金すると自分に投票した人を知ることができます。
GasのTwitterアカウント(@gasappteam)を見ると、「Gasの存在理由」として、ユーザーからのメッセージが掲載されています。「学校で自殺してしまった人がいる。誰もが愛されていると感じられるアプリは再発を防ぐことができます」「メンタルヘルスが高まりました」など、褒められることで幸福感を得ている声が集まっています。
また、GasはSNSで心が疲れてしまう若者を救うために、メッセージ機能などは搭載せず、必ずポジティブな場を提供しています。とはいえ、実際に通っている学校の仲間とつながるため、誰からも取り上げられない場合はかなり傷ついてしまうのではと心配になります。しかし、ウォール・ストリート・ジャーナルによると、「Gasのアルゴリズムは褒め言葉をより均等に人々に分配するように設計されている」とのことで、誰もが一度は主役になれる仕組みなのかもしれません。
Gasが日本でもリリースされた場合、若者は利用するのかを考えてみました。日本でも若者のSNSはリアルな交流関係とほぼ同じつながりのため、同じ学校の人とつながる仕組みにはそれほど抵抗を感じないと思います。シャイな日本人が無邪気に投票するのかという疑問もありますが、褒められることで自信が持てる人は日本にも多いはず。日本でのリリースを待ちたいと思います。
褒め合うサービスはすでに日本にも
大手SNSは人気があるものの、「Instagramは自慢し過ぎでイライラする」、「Twitterはグチばかりでうんざり」など、フォローしているアカウントやプラットフォームの雰囲気にSNS疲れをしてしまっている人も多いと思います。一方で、日本にもポジティブな場を用意しているサービスが存在しています。
そのひとつ「ブラッガーツ」は、自慢をするためのサービスです。匿名掲示板のスタイルで誰でも書き込めて、「すごいね」ボタンやコメントでリアクションもできます。ときにはグチも書き込まれますが、「それでもがんばって私は偉い」などポジティブに文章を終わる投稿が多く見られます。
「ほめったー」も匿名掲示板形式で褒め合うサービスです。「えらい!」ボタンとコメントで交流できます。つらい現状を自分の力で乗り越えるといった投稿に「えらい!」が付いている様子を見ると、励まされている人が多いのではと思います。
匿名掲示板の形式ではアカウントを作る必要がないため、プライバシーが漏れることはなく安心して自慢を書き込めますね。ただ、実際の知り合いに褒められたい気持ちを持つ人も多いと思うので、Gasのようなサービスが人気となるのでしょう。
SNSを含めたネットではネガティブな情報が注目を集めがちですが、うれしかったことを遠慮なく投稿して褒め合うことで、お互いの幸せへとつなげる場になるといいですよね。でも、人の幸せを見るのはしんどいと感じるときもあります。そんなときは無理せずに、SNSから離れてみることも大切です。