中国が開発した第3世代携帯電話(3G)規格「TD-SCDMA」の商用テストサービスが開始された。北京オリンピック前のサービスインにはギリギリ間に合った格好だが、将来の実用サービス開始までにはクリアすべき課題が山積みのようである。
全国8都市でサービスイン
TD-SCDMAサービスは中国最大の携帯電話事業者「中国移動(China Mobile)」が中国全土で提供予定であり、4月1日から先行して8都市でテストサービスが開始された。この8都市は北京、天津、沈陽、上海、広州、深セン、アモイ、泰皇島で、いずれも携帯電話利用者の多い地域だ。端末は海外メーカーが2機種、中国の国産メーカーが6機種(うちデータカード2機種)用意されている。中国メーカーの比率が多いのは国産技術を利用しているからでもあるが、2Gから3Gへの移行に乗り遅れまいと各メーカーが開発に大きな力を入れている結果でもある。
テストサービスが開始された1日には各都市の販売店で行列ができるなど出だしの人気は上々であり、開始から10日間で2,000台の端末が売れたという。端末はTD-SCDMAとGSM(2G)のデュアルモードに対応しており、非TD-SCDMAエリアではGSMネットワークを利用可能だ。また通話料金もこれまでの2Gサービスより低く抑えられており、TV電話や高速データ通信の無料利用分も含まれているとのことだ。なお現時点ではTD-SCDMAサービスの取り扱いは中国移動の直営店舗のみとのこと。家電店などでTD-SCDMAの端末だけを自由に買えるようになるのはまだ先の話のようである。
クリアすべき問題が続出
鳴り物入りで登場したTD-SCDMAサービスだが、開始前から指摘されていた通りに問題が多発しているようである。ネットワーク、端末共に品質が安定していないようであり、中国内の報道によると通話中の突然の切断、電話がかからない、ネットワークを拾わないといった問題が各都市で発生しているとのことである。また端末も、電源投入後30分で突然使えなくなる、ハングアップする、といったトラブルが発生する機種もあるとのことであり、利用者からの反応は思わしくないものばかりだ。中国移動やTD-SCDMAの業界団体は「テスト中であることを理解して利用してほしい」と消費者に理解を求めているが、無料ではなく有償でのテストサービスだけに、利用者の評価は厳しいものになっているようだ。サービス開始から約2週間が経った現在、販売店でTD-SCDMAサービスの展示コーナーを訪れる消費者の数は激減しているとの報道もある。
中国移動は今後テストエリアを拡大していく予定だが、たとえネットワークが改善されたとしても、消費者の目をTD-SCDMAサービスに引きつけていくことは難しそうだ。その理由のひとつが、3Gならではの特徴的なサービスがあまりにも少ないことだ。中国移動はテレビ電話を目玉サービスのひとつにしているが、相手も3G端末を持っていなくてはテレビ電話は利用できない。高速データ通信にしても、非TD-SCDMAエリアでの利用が多ければ、既存のGSM/EDGEサービスで必要十分と感じる消費者がほとんどだろう。既存サービスで十分満足している利用者に3Gのメリットをどこまで訴えられるかが、普及のひとつのポイントだ。
そして端末のラインナップも十分ではない。サービスインから10日間で販売された約2,000台の端末の内訳を見ると、中国メーカーと海外メーカーの比率は6:4で大差が無い。中国メーカーの比率が若干でも高いことから「国産機でも勝負できる」との声が聞かれるが、わずか2,000台の販売実績ではメーカーの実力差は未知数だろう。なにせ一番売れていた中国ZTEの「U980」ですら500台程度なのだ。価格も1,800~3,800人民元(約2万5,000~5万3,000円)と高めであり、2,000元も出せばNokiaやSony Ericssonのミッドレンジモデルが買えるGSMサービスには敵わない。魅力的な端末が無ければ、3Gサービスへの乗り換えを誘導することはなかなか難しいだろう。
これは近隣の香港や台湾でも過去に経験してきたことであり、両国で3Gが普及し始めたのも、Nokiaの3G端末への本格参入、サービスエリアの拡大、そして高速通信速度を生かした3Gならではのサービスの登場以降のことである。W-CDMA方式であれば、既に海外で実績があることから中国でも普及させるのは容易かもしれない。しかし、他国では実績の無い独自開発のTD-SCDMA規格を普及させるには、まだまだ困難な道が待ち受けているだろう。
現在は3G利用者が8割以上を占める日本でも、世界で最初にW-CDMA方式を開始したNTTドコモが主力サービスを2Gから3Gに切り替えるまでには数年かかっている。ようやく始まった中国のTD-SCDMAテストサービスも、端末、サービス、品質と全ての面が実用レベルに到達するにはまだ時間がかかりそうである。