日本メーカーの多くが海外市場から撤退している中、シャープは今年6月に中国で携帯電話を発売する予定だという。世界最大の携帯電話市場となった中国に挑む同社の勝算はどこにあるのだろうか。
海外でも一定の成功を収めているシャープ
シャープの海外進出は2002年と他社より遅かったものの、Vodafoneグループ向けに同社のモバイルコンテンツサービス「Vodafone live!」に対応した端末を納入し、同サービスの成長と共に販売台数も伸ばしていった。しかし、シャープが海外で成功した真の理由は「良い製品」を絶え間なく開発し続けていった努力の賜物だろう。"きれいな液晶"と"高画質カメラ"を搭載した端末をコンスタントに発売し続けたことにより、海外の消費者からも大きな評価を受けるようになったのだ。シャープの海外市場での年間新機種数は多くても3機種程度であり、世界市場における大手メーカーよりもはるかに少ない。しかし、製品コンセプトが明確であればこの「少数精鋭」路線であっても消費者に認知され、海外市場でも生き残ることが十分可能であるということだろう。
なお、シャープも海外での製品バリエーションを増やすために、価格の安いエントリーモデルを販売したこともある。しかしアジア市場などでは評価はあまり高くなかったようだ。すなわち、海外の消費者がイメージするシャープの端末とは「液晶がきれいで機能の高い」製品であり、「価格が安く機能も低い」製品は期待していないのだ。逆に言えば「安価なシャープ製品でも買いたい」と消費者に思わせるような製品展開を行うことができれば、同社の海外市場シェアは今より大きく伸びることだろう。
さてここ数年、アジアを中心に日本の携帯電話が少しずつ販売されるようになっている。それらはメーカーが直接販売しているものではない。しかも、本来販売されていないはずのシャープの端末が中国内で売られている光景を目にすることもある。
ただし、それらは通信事業者の販売店や大手家電チェーン店など正規に携帯電話を販売してる店舗では扱われていない。輸入品を扱っている店、中古品や改造端末を売っている店などで、日本で見慣れた白い箱に入った携帯電話が売られていることがあるのだ。これらはソフトバンクが日本で販売している端末で、海外でも利用できる機種の一部がSIMロックを解除されて海外に輸出され、現地で販売されているのだ。
試しに中国の携帯電話販売情報サイトを見てみると、やはり本来中国では発売されていない日本の端末の現地価格を見つけることもできる。価格は意外と高いものもあり、日本の携帯電話も中国内で一定の人気を得ているようだ。ただし、輸入品であり非正規販売品のため保証も無く、販路も限られていることからまだまだマイナーな存在にすぎない。しかしネット上では活発に情報が交換されていることなどから、潜在的な人気は高いようだ。
シャープが中国市場で成功するには?
中国内で本来販売されていないにも関らず、なぜ日本の端末に一定の人気が集まるのだろう。「日本の製品は高機能だから」と言われることがあるが、例えばワンセグやおサイフケータイなどの機能などは海外で使えないため、搭載されていたところで消費者は価値を全く見出さない。むしろ、カメラ機能や広い画面を利用したゲームなど、端末内蔵のエンタテインメント系の機能に人気があるようだ。それでも、中国語に対応していなければ高機能なゲームなどは利用できないだろうから、端末の機能そのものだけが人気の秘密とは言いにくい。
また一方で、大手メーカーの高機能端末も多くの数が売れている。Nokiaのハイエンド端末は、高いものならば8万円や10万円クラスの機種もあるのに、富裕層を中心にヒットを飛ばしている。これらの機種は、Nokiaというブランドや高い機能が中国の消費者に受けており、値段が高くとも人気が落ちることは全く無い。Nokiaの最新スマートフォンは発売前からあらゆる媒体で報道合戦が繰り広げられているくらいだ。
実は、日本から輸入されている端末に人気が高まるのには、ここにもひとつの理由がありそうだ。それはコストパフォーマンスが高いから、すなわち機能の割に価格が安いのだ。これはもちろん日本で安価に販売された端末がそのまま海外に輸出されているからでもあるが、海外で販売されている日本メーカーの現地端末価格と比較しても価格は十分に安い。
例えば、シャープは香港や台湾で端末を販売している。香港の現行モデルは「SX633」という名称で、ソフトバンク向け「816SH」の海外版である。しかし価格は6万円と比較的高い。このためか、香港ではSX633の販売はあまり思わしくないようである。仮にシャープの端末そのものが大人気であれば、10万円もするNokiaが売れずに6万円のシャープ製品が売れるはずだ。しかし、中国大陸から毎日観光で香港にやってくる中国人観光客のほとんどがお土産代わりに買っていくのは、NokiaやSamsung、Sony Ericssonのハイエンド端末である。また香港でも日本の携帯電話が輸入されて販売されていることもある。それらの価格は2~4万円であり、香港でのSX633の正規価格より十分安く、学生などによく売れているという。
つまり、シャープが中国で成功するためには、ハイエンド端末を出すことはもちろん必要だが、消費者に購入意欲を沸かせる価格設定も重要になるだろう。また、日本でもヒットしている「AQUOS」ブランドを携帯にも冠するのだろうか? もしも"AQUOSケータイ"として販売するならば、その販売実績は中国内での同社の液晶テレビ「AQUOS」の実力をそのまま表すものにもなるだろう。中国での同社の販売戦略が今から大変興味深いところである。