普段スマートフォンなどで使っている5Gはドコモなど大手キャリアが事業免許を取得し、日本全国でサービスを展開しています。それに対して企業や自治体などが免許を取り、限定されたエリアで使う「ローカル5G」のサービスも徐々に広がろうとしています。今回、東京都大田区役所で行われた実証テストを見てきました。
ローカル5Gは簡単に言えば、Wi-Fiのように無線機器を自前で設置して、さらに自前の5G端末でネットワークを使うことができるものです。ただしWi-Fiは免許不要で使えますが、ローカル5Gは免許の取得が必要です。またネットワーク機器もWi-Fiのように家電量販店で購入できるわけではなく、現時点では価格も高く設置には専門の企業との連携が必要です。
Wi-Fiがあるのになぜわざわざ面倒に思えるローカル5Gを使うのでしょうか? それはローカル5GにはWi-Fiの欠点を補うメリットがあるからです。スマートフォンで使う5Gネットワークの特徴は「超高速」「大容量」「低遅延」という3つがありますが、ローカル5Gもその特性は同じです。たとえば人が多く集まるエリアでは、Wi-Fi利用者が多いと速度の低下だけではなく、遅延速度も大きくなります。一方、ローカル5Gでネットワークを組めば5Gの特性をそのまま利用できるのです。
大田区役所で行われた実証テストは、avatarinが開発したアバターロボット「newme(ニューミー)」を使い、区役所への来客の対応をロボットを通して行うというものでした。ロボットにはタブレット状の画面があり、日本橋のavatarinのオフィスにいるスタッフが画面を通して来客に案内を行います。
ロボットは区役所内の自由な位置に配置できるように、有線ではなく無線でネットワークに接続されます。この接続をWi-Fiで行うと、前述したように人が多く集まり皆がWi-Fiを使うと接続品質が低下し、来客に対応するリモートスタッフの間にもタイムラグが生じてしまいます。来客が質問しているのにすぐに反応してくれなかったり、スタッフの声が聞きにくい、といった問題が起きるわけです。
ローカル5Gを使った今回の実証テストでは、大田区役所の2階にNEC製のオールインワン・コア一体型ローカル5G基地局「HYPERNOVA」を設置し、吹き抜けを通して1階にあるnewmeとワイヤレス接続し、実際に来客対応をしました。HYPERNOVAはトランク型でどこにでも持ち運べる可搬型である点も特徴の小型基地局です。大田区役所での今回の実証テストは2024年9月26日から行われ、12月6日までの第一期テストの間、約2,300件に対応し、その間の来客の方の評価は好評だったとのこと。
実際に遠隔サービスの様子を見せていただきましたが、画面の中のスタッフの方が遠隔地にいるとは思えないほど、来客との会話もスムーズにできていました。もし遅延があると自然なやりとりができず、たとえば年配の方などは「機械と会話している」と感じてしまい、このサービスを使わなくなってしまうでしょう。ローカル5Gの低遅延というメリットはこのような用途にも向いているのです。
今回は第二期のテストということで、同じ基地局からDAS(分散型アンテナシステム/Distributed Antenna System)を使って4階まで電波を到達させるデモが行われました。建物の中はWi-Fiでも5Gや4Gでも電波が伝わりにくいものです。DASは基地局から光ファイバーケーブルを使って親機経由で子機を接続し、その先にアンテナを設置することで屋内の5Gエリアを拡張できます。今回のテストでは東芝インフラシステムズのDASシステムが使われました。
たとえば来客が区役所に入り、1階に設置されたnewmeで目的の窓口の場所を質問します。遠隔スタッフが「4階に進んで下さい」と伝えたら、来客はエレベーターに乗り4階へ進みます。そしてエレベーターを降りると4階にもnewmeが設置されており、「4階に来られましたね、それでは右側に進んでください」と的確な案内をしてくれるのです。この案内を人間がやるとなると、1階と4階で連携を取る手間がかかりますし、人員も多く必要になります。newmeをローカル5GとDASで接続することで、ビルの複数階でのリモート対応が容易に行えるようになるわけです。
なお大田区役所でのテストは2024年12月20日まで実施されました。ちなみに電波は5G NRのローカル5G向けSub6(4.6GHzから4.9GHz帯)。avatarinのソーシャルソリューション部部長、筒雅博氏によると同社は他にも千歳空港などでローカル5Gの実証テストに参加しているとのこと。一般消費者向けの5Gの普及はまだこれからですが、市民サービスや空港・駅そしてオフィスや工場向けのローカル5Gも着々と普及が進んでいるのです。