イー・モバイルが音声サービス開始と同時に発売する「EMONSTER」こと「S11HT」。海外ではHTCがメーカーブランドの端末として「TyTN II」の名称で販売するほか、事業者向け端末として事業者固有の名称での販売も行われている。またS11HTはSIMロックフリー、すなわち他社のSIMカードも利用できる状態で販売される。これは日本では異例のことだが、海外の通信事業者によってはSIMロックフリーのメーカー端末を割引き販売しているところもある。
では、海外ではこのTyTN IIはどのように売られているのだろうか? TyTN IIを通して海外の事業者による端末販売方法を見てみよう。
「ゼロ円」があたりまえ? ヨーロッパのSIMロック販売方式
日本でも、SIMカード方式を採用している携帯電話は増えているが、そもそも端末が事業者ごとに専用ハードウェアとなっており、またサービスもハードウェアに依存することから、「他社の端末を自社で使う」ということは考えられていない。それができないようにSIMロック――自社のSIMカードのみを利用できるような細工――がかけられているが、たとえSIMロックを外しても、音声通話くらいしか利用できないのが実情だ。
一方海外では端末のハードウェアは共通で、ソフトウェアで事業者ごとにサービスを差別化している国も多い。すなわち、同じメーカーの端末を各事業者が販売しつつ、端末内のソフトウェア=主にメール設定やコンテンツアクセス設定=を自社向けにカスタマイズして提供しているのだ。よって設定さえ書き換えれば、他の事業者から購入した端末であっても、別の事業者でそのまま利用することが可能になる。しかしこれでは、事業者が端末を安価に販売すると、他の事業者のユーザーに転用されてしまう恐れがある。そのために海外では、端末を安価に販売する最も効果的な方法としてSIMロックを採用するところが多い。
このSIMロックによる端末の割引き販売が一般的なのはヨーロッパである。ただし日本のように「端末一律XXXX円」といった、全ての端末が同一価格になることは稀だ。なぜならば、端末には本来「メーカー希望小売価格」と言える「定価」があり、ユーザーの契約内容によってそこから価格が割引きされるからだ。すなわち、基本料金が安ければ割引率は低く、基本料金が高ければ割引率は大きくなる。あるいは固定契約期間が長ければ割引率は高いわけである。
たとえばイギリスのVodafone UKが発売するTyTN IIの同社向けモデル「Vodafone v1615」の販売価格を見てみよう。v1615にはSIMロックがかかっており、料金プランに応じて割引き販売される。Vodafone UKにも多くの料金プランが存在するが、v1615の価格を見ると、基本料金ごとに端末の割引率が異なっているのが一目瞭然だ。
12カ月契約の場合、最も高い基本料金(63.83英ポンド=約1万3,400円/月)のプランならばv1615は無料だ。一方最も安価なプラン(17.02英ポンド=約3,600円/月)ならば212.77英ポンド(約4万4,700円)になる。またその間では基本料金が高くなればなるほど割引率が高くなるのがわかるだろう。そして、さらに長い18カ月契約を選べば、同じ基本料金でも端末の割引率は高い。
このように海外でも「ゼロ円」携帯のような売り方は存在するし、日本のようにSIMロックをかけた販売もされている。しかし日本と違うのは価格設定だ。端末は機能やメーカーごとに価格が異なるし、一律価格がつけられることはない。ユーザーにとっても自分がいくら払うからいくら割引きされるのか、わかりやすく明確になっている。これらの点が日本とは大きく異なっているわけだ。
SIMロック無しでも割引き販売 - 香港の例
では、SIMロックが無ければ端末の割引き販売は難しいのだろうか? アジアでは、ヨーロッパとは違ってSIMロックの無い販売方式が主流だが、期間契約による割引などが行われている。その一例として香港CSLの事例を紹介しよう。香港ではHSDPAサービス開始に伴い、事業者も利用者を増やすためにHSDPA対応スマートフォンの拡販に力を入れている。
たとえばHSDPAパケット定額プラン(538香港ドル=約7,530円/月)に加入した場合、18カ月契約時にTyTN IIは定価の半額、約4万1,700円で購入できる。提供されるのはメーカー端末そのままの製品であり、CSL向けの専用品ではない。またSIMロックフリーのため、香港の他の事業者のSIMカードを入れて使うこともできる。
そのために端末だけを安価に入手されないよう、途中解約の違約金は高く設定されている。18カ月未満の解約の場合、違約金3,000香港ドル(約4万2,000円)と端末割引き分を合わせ、約8万5,000円が請求される。イー・モバイルの場合は利用期間に応じて途中解約金は減額されるが、CSLの場合はそれも無い。これはすなわち、SIMロックフリーのメーカー端末を安価に提供する代償として、ユーザーにも契約期間の厳格な厳守を求めているのだ。
この他にも香港では、端末の割引き方法として「端末定価分を最初に支払い、割引き分は固定契約期間中に基本料金から減額」というものもある。こちらの方法ならばユーザーが最初に端末の定価を支払うため、事業者が後から端末の割引き分を持ち出してしまうこともなくなる。これもSIMロックをかけずに安く販売するために香港の事業者が考え出した苦心の方法と言えるだろう。
このように同じモデルの端末でも、国や事業者により価格も販売方式も大きく異なっている。どの国の方法が一番良い、とは一概に言えないが、各国で各事業者が消費者を惹きつけるためのひとつの手法として、端末の割引き販売にも力を入れているわけだ。それらの中には日本の事業者にとって参考になるものがあるかもしれず、将来同等の割引き方法が日本で導入される可能性もあるのではないだろうか。