昔のフィルムカメラには今のデジタルカメラにはない質感や操作性などの魅力があります。とはいえ今やフィルムを買うのも現像するのも簡単ではありません。そこで登場したのがフィルムカメラをデジタルカメラにしてしまうキット「I’m Back Film」です。この手の製品はこれまでにもいくつか登場してきましたが、I’m Back Filmはその完成形と言える製品かもしれません。
I’m Back Filmはまずその外観がとても特徴的です。デザインはフィルムカメラで使われる35mmフィルムとほぼ同じで、フィルムを収納するパトローネ部分からフィルムを引き出したようなデザインになっています。実際のフィルムカメラはレンズを通してフィルム部分に映像を焼き込みますが、I’m Back Filmはレンズの後方のフィルム部分にセンサーを搭載し、映像を記録できます。なおセンサーは装着するカメラのサイズに合わせて左右に位置を微調整できます。
過去に登場したフィルムカメラのデジタルカメラ化キットは本体の背面が分厚くなったり、特定の機種にしか対応しないなど使い勝手はいま一つのものばかりでした。I’m Back Filmはフィルムカメラを使ってきた人たちにとってもなじみの深い本体形状ですし、若い世代にも古き良き時代をイメージできる目新しい製品に見えるでしょう。外観にもこだわっている点がI’m Back Filmの大きな特徴にもなっています。
ただし使用するにはこのフィルム状の本体だけではなく、カメラの下部にもコントロールユニットを装着する必要があります。そのため実際に使うときはオリジナルのフィルムカメラ本体よりも若干下側が伸びた大きさになりますが、それでもオールドカメラを使ってデジタル撮影ができるのですから不満を感じることはないかもしれません。
このユニット部分はカメラに装着したI’m Back Filmからフレキケーブルで接続します。7.4Vのバッテリを搭載可能でmicroSDカードスロットも備え、さらに操作やプレビュー用の320×240ピクセルのディスプレイも搭載。内部には撮影した画像を処理するための画像処理プロセッサも装備されています。
このようにデジタルカメラキット部分を2つに分離したことで、1眼レフタイプ以外のオールドカメラにもI’m Back Filmを装着できます。一眼レフであれば、オールドレンズを最新の1眼タイプデジタルカメラに取り付けられますが、レンズ一体型のフィルムカメラの場合はそれができません。I’m Back Filmは過去の名機を現代に蘇らせることができそうです。
I’m Back Filmは海外のクラウドファンディングですでに購入募集は締め切られており、最初の出荷は2024年7月が予定されています。おそらくそれ以降に一般販売も行われると思われます。価格は約10万円と高価ですが、眠らせておくしかなかったフィルムカメラを再び使うことができることを考えればそれほど高いものではないかもしれません。実家に帰省した時、押入れの奥からカメラが趣味だった祖父が使っていたフィルムカメラが見つかったら、I’m Back Filmがあれば当時の撮影の味わいを再現することもできるのです。これは金額には換算できない貴重な体験となるでしょう。
最近は古いデジタルカメラがZ世代などに受けています。使いにくかったり画質が低かったりと決して性能がいいものではないものの、スマートフォンのAIで完璧に作られた写真にはない独特の味を持つ写真を撮影することができます。I’m Back Filmはそれよりもさらに古いカメラを復活させることができるわけです。
オールドカメラを扱うカメラ販売店が、しっかり動作するように整備したフィルムカメラとI’m Back Filmをセットにして販売するのもいいかもしれません。大量に眠っていた過去のフィルムカメラが今の時代に使えるようになれば、そこから新たな文化や芸術が生まれるかもしれません。