スマートフォンが登場してから、パソコンを持ち運ばずとも手のひらの上であらゆる情報を入手できるようになりました。パソコンは机の上に置くものから持ち運び可能なノートPCへと進化しましたが、スマートフォンという新しいデバイスにその役割の多くが移管されたのです。そしてこれから、自動車の世界でも同じようなことが起きるかもしれません。
イスラエルで開発された「City Transformer」は都市内移動用の超小型の自動車です。City Transformerのサイズは非常にコンパクトで、横幅はわずか1メートルしかありません。車内には前後にシートがあって最大2名が乗員可能です。後ろのシートを倒せば日常の買い物に十分なだけの荷台スペースが生まれます。毎日の「足」として使える自動車、それがCity Transformerなのです。本当にこんな小さな自動車に実用性があるのかどうか、ドイツで開催された展示会「IFA2022」で開発中の実物を見てきました。
City Transformerの外観は自動車というには小さく、二輪車にボディーを取り付けているのかも、と思えるような大きさです。この姿のまま道路を走る姿が想像できませんが、実は走行時にはタイヤ部分の幅を全幅1.4メートルに広げられるとのこと。そうなると軽自動車と変わらぬ幅になりますから安定した走行も可能でしょう。なお最高速度は90km/h。これなら一般車に混じって一般道を走ることも問題ないでしょう。またタイヤ部分を狭めて幅1メートルにした状態でも40km/hでの走行が可能です。
タイヤ部分の幅を狭めることができるため狭い駐車スペースに停めることも可能です。自動車を運転していて困るのが、繁華街で駐車場を見つけることです。City Transformerなら駐車可能な場所にちょっとしたスペースがあれば停めることができます。
このような小さい自動車はちょっとドライブに行くというような用途には向いていません。あくまでも「足」の代わりなのです。バイクでもいいかもしれませんが、雨が降っているときのバイクの運転は少し困難ですし、荷物も積みにくいでしょう。ヘルメットをするのも面倒なものです。そう考えるとCity Transformerは自動車というよりも「屋根のついたバイク」と考えたほうがいいでしょう。
「もしも大人数で乗りたくなったら」「買物の量が多かったら」そう思うとより大きい自動車のほうが有利でしょうが、これもノートパソコンが小型化していったころに「周辺機器用のコネクタをなくして、必要になったときはどうするのか」といったことがよく言われました。実際は無くてもなんとかなるものでしたし、周辺機器接続が必要な人はそれに対応した機種を買えばよいのです。要は機能を絞った製品ですから、ターゲットユーザーも絞られているわけです。
運転席のダッシュボードを見ると、タブレット型端末も設置してありそこにはアンテナマークも表示。4Gか5Gの通信回線を搭載しており、地図情報なども表示できそうです。またおそらくスマートフォンとの連携もできるでしょうから、自宅の部屋の中にいながら車の充電状態を確認したり、今日までのドライブ履歴を閲覧する、といったこともできるでしょう。ドアロックはオートではなく手動式だったのでスマートキーは使えないようですが、エンジンONがスマートフォンでコントロールできればシェアユースもできそうです。
さて自動車は人を乗せて高速で走るものですから、安全性が重要視されることもあり、開発には時間がかかります。City Transformerも2021年に発表されましたが、市場に製品として出てくるのは2024年の予定です。今回、IFAの会場で体験できた製品もまだ開発途中のもの。今後は運転席周りがよりデジタル化されるなど、改良がくわえられることでしょう。
実際にこのCity Transformerを見て、東京などの大都市での利用によく向いた自動車だと感じました。家から駅までの移動用途なら、1メートルの幅で駐車できるので駐輪場と同等の広さを用意すれば10数台のCity Transformerを停めることもできるでしょう。またデリバリー用途でも配達先に狭い駐車スペースしか無い場合も停められます。
City Transformerは日本の道路交通法で運転できるかどうかはわかりませんので、日本での販売予定や輸入して利用できるかは不明です。しかし私有地内の移動用としての用途などなら使い道もありそうです。たとえば広大な大学の敷地内の移動用にする、といった使い道もあるでしょう。誰もがスマートフォンを手に情報を集めたりコミュニケーションを図ることができるようになったように、City Transformerは都市内のあらゆる人に手軽な移動手段を提供できます。スピードや快適性といったこれまでの自動車の進化とは異なる、都市のモビリティーを高めるというCity Transformerのコンセプトは、今後ほかのメーカーにも広がっていくかもしれません。