人間のように二本足で歩くロボットの実用化は誰もが夢見ているところです。ソフトバンクが以前開発した「Pepper」も人のような形をしていますが、移動は足ではなくタイヤ走行でした。補助もなく二本足で歩く自立歩行可能なロボットは2000年にホンダが「ASIMO」を披露して以来、ロボット技術者たちの重要な開発テーマになっています。

ところがそんな人型ロボットをシャオミが突如発表しました。2022年8月11日に行われた同社CEO、レイ・ジュン(雷軍)氏の年次講演会で、最後の最後に「One More Thing」として発表されたのが「CyberOne」です。

  • シャオミの人型ロボット「CyberOne」

CyberOneは身長が177cmで人間とほぼ同じ大きさです。体重は52kgと身長の割には軽量。ニックネームは中国語で「鉄大」、生年月日は不明ですが獅子座とのこと。このあたりはシャオミが洒落を効かせたのでしょうが、人間同様に親しみを持ってもらうためにキャラクター設計を行ったようです。なお獅子座の性格は星座占いを見るとポジティブで明るくリーダーであり、社交的など。人型ロボットとして最適な性格かもしれません。発売時期などは未定ですが、価格は60万元から70万元(約1,100万円から1,400万円)の間レベルを目標にしているそうです。

  • ニックネームに加え星座の設定もされている

CyberOne、いや鉄大には顔の代わりにカーブガラスの有機ELディスプレイが搭載されています。内部には脳のようなグラフィックが浮かび上がり、このあたりはいかにもロボットといった表情でしょうか。内部には外部をモニタリングするセンサーとしてシャオミ開発の「Mi Sense深度感知システム」を搭載し、8メートル以内のものを1mmの精度で見分けられるそうです。

  • CyberOneの主なスペック。身体性能、と言ったほうがいいかもしれない

また人の45の表情や85の環境音を認識することもできます。人の動きと合わせて、対面した人物の「幸福度」を感知して、悲しいときにはなぐさめる、といったこともできるなど福祉や子供相手のロボットとしても使えるかもしれません。このあたりの認識は「Mi AI音声認識」を用いており、シャオミのスマートフォンやAIスピーカーで培った技術が応用されています。

  • 人間の感情を読み取り、それに最適な対応もできる

技術面の説明をもう少しすると、肩や腕(上肢)関節のモーターは500gの質量で最大30Nmの定格出力トルクを出し、股関節のモーターも最大300NMの瞬間最大トルクを発生させることができます。片手で持てる重さは1.5kgまで。身体全体の動きは最大0.5ミリ秒の遅延速度で人間の動きを再現します。ただし歩行速度は発表会のデモを見る限りあまり速くはなく、まだまだ開発中の製品であることをうかがわせました。

  • 関節を動かすモーターの開発も行った

なお鉄大の手のひらに指はありませんが、花などの細く柔らかいものもやさしく握って持つことができます。人間の手のひらのように動く5本指の腕のロボットはすでに多数の企業が開発していますから、いずれ鉄大の手の先も指が取り付けられるでしょう。

  • 現時点では手のひらに5本の指はないが、花をやさしく握ることも可能

シャオミが人型ロボットを開発するのは、他のロボット技術者同様に「あらゆるロボットの究極の形」を実現化するため。たとえば自動車工場などではすでに産業用ロボットが実用化されていますが、特定の作業に特化したものであり、突発的なニーズには対応できません。それに対して人型ロボットはセンサーを使って周りの環境データを取得し、AIにより意思決定を行い、さらに自律して目的の場所まで遅延なく動く必要があります。ITの最高の技術だけではなく、スムーズに動く軽量モーターや倒れても関節が外れたりボディーがへこまないという製造技術も求められるのです。つまり様々なスマート製品を開発しているシャオミにとって、人型ロボットの開発は当然の目標であるわけです。

  • ロボット開発はIT企業にとって最終目的になる

人型ロボットはテスラも2022年9月30日に開催予定という「Tesla AI Day」で同社が開発した「Optimus」と呼ぶロボットのプロトタイプを公開する予定です。自動車メーカーであるテスラも「ポスト・EV」としてロボットの開発に取り組んでいるわけです。

シャオミはスマートフォンだけではなくスマートウォッチなどすでに多くのIoT製品を出しており、また多数のスマート家電も出しています。それに加え自動車への参入もすでに公に発表しており、現在開発を行っています。Appleも自動車の開発を行っていると言われていますが、家電やロボットまでは展開していません。IT関連製品をここまで広範囲に1社で開発しているメーカーはシャオミ以外には無いかもしれません。

  • シャオミのビジネスはスマートフォンだけにとどまらない

1年前の2020年8月にはシャオミは犬型ロボット「CyberDog」を発表しています。こちらは内蔵カメラを使った監視用途など産業向けであり、またロボット開発のプラットフォームとして提供されています。しかし数年後に、人型ロボットのCyberOneが犬型ロボットのCyberDogを連れて街を歩き、警察官のように市民の安全を常に監視する、なんて世界も実現するかもしれません。シャオミの名前を聞くと「低コスパの優れたスマホメーカー」というイメージが湧きますが、人々をわくわくさせるような、次世代技術の開発にも大きく力を入れているのです。

  • 1年前にはCyberDogも発表。シャオミのロボット開発はまだまだ続く