Appleがこれから出すであろう新製品は常に様々な噂話が飛び交っていますが、Appleが自動車市場に参入し「Apple Car」を2025年ころに発売する、なんて話もまことしやかに語られています。ところがAppleよりも先に、すでにEV(電気自動車)を販売しているスマートフォンメーカーがあるのです。それはあのファーウェイです。ファーウェイは中国の自動車メーカー、賽力斯集団(旧小康工業集団)傘下のEVメーカー、Seres(重慶金康賽力斯汽車)と共同でスマートEVブランド「AITO」を立ち上げ、最初のEVとなる「問界M5」を2021年12月に発表しました。
AppleのCarPlayやGoogleのAndroid Autoなど、自動車のダッシュボードのディスプレイにスマートフォンを接続する機能が登場しスマートフォンと自動車の連携は年々強化されています。もちろんスマートフォンメーカーが自社で自動車を開発すればより高度な機能を提供できるでしょう。ファーウェイは業界で一足先に、自動車のスマート化を実現しているのです。
問界M5の価格は25万9,800元(約502万円)から。ファーウェイが手掛ける自動車ですから車内のスマート化は大手自動車メーカーの製品よりも進んでいます。運転席と助手席の間には15.6インチ、縦横比16:9の大型のタッチパネルディスプレイを搭載。その手前にはスマートフォンを置くスペースがあり、ここには40Wの急速無線充電台が内蔵されています。また運転席側にはUSB Type-AとType-C端子が1つずつ、助手席側にはType-C端子を2つ備えます。さらにフロントガラスの運転席側のピラー(柱)内側にはカメラを搭載、顔認証システムに対応し運転者を個別に認識できます。シートの位置など運転者ごとに設定をしておけば、乗り込んだときに顔を認識してシートの自動調整も行われます。
スマートウォッチを自動車の鍵に使う機能も最近では増えていますが、問界M5もファーウェイのスマートフォンやスマートウォッチを鍵の代わりに使うことが可能です。BluetoothまたはNFCのタッチに対応しており、車の鍵を紛失してしまったり車内に置き忘れてしまいロックされてしまった、といった心配もありません。
そしてファーウェイの自動車ならではの機能がスマートフォンとの連携です。ファーウェイが中国で販売するスマートフォンは独自開発したHarmonyOSを搭載していますが、問界M5も同様にHarmonyOSを搭載。どちらも同じOSで動いており、連携も簡単です。スマートフォンを問界M5にワイヤレスで接続すると問界M5のディスプレイは専用のデスクトップ画面が表示され、スマートフォンのアプリをこのディスプレイからタッチして操作することもできるのです。
ファーウェイは2022年7月頭にSUVスタイルの「問界M7」も発表し、EVのラインナップを早くも広げています。EVメーカーと協業したことで乗り心地など自動車の基本設計やEVとしての足回りの開発はSeresのノウハウを活用し、ファーウェイはスマート機能の強化に注力することもできるのです。そのスマート機能をさらに高めるため7月末にはOSのバージョンアップも行いました。
現在のHarmonyOSはバージョン2となる「HarmonyOS 2」が搭載されています。ファーウェイはこのHarmonyOS 2をHarmonyOS 3に引き上げ、特に機器間の接続性を高めました。
HarmonyOSではデバイス同士を接続するときに、画面に表示される機器のアイコンとアイコンをドラッグしてくっつける、というわかりやすい操作を採用しています。これは「スーパーデバイス」と呼ばれる機能で、例えばタブレットで映画を見ているときにヘッドフォンをつなぎたくなったら、スーパーデバイスから画面に表示されたヘッドフォンアイコンを自分のタブレットアイコンに接続すればいいのです。
また自動車に乗り込んだときは、スマートフォンのスーパーデバイスを立ち上げると「自動車」「ヘッドホン」「スマートウォッチ」「タブレット」「ノートPC」などのアイコンが表示されます。これらは今、スマートフォンの周りにある接続可能なデバイスです。そこで自動車のアイコンを中心のアイコン(自分のスマートフォン)にドラッグすると、そのままスマートフォンと自動車がワイヤレスで接続されるというわけです。
HarmonyOS 3では接続できるデバイスが12種類まで拡大しています。その中にはもちろん自動車も含まれます。スマートフォンの機能をそのまま車内の大型ディスプレイで利用できるのでナビゲーションやお店の検索も楽に行えるでしょう。さらに音声AIシステムにも対応。また問界M5、問界M7のバックミラーにはカメラが搭載されているので、そのカメラを使って室内を写しながらのビデオ通話も可能です。
もちろんHarmonyOS 3は自宅に戻ればスマートTVやスピーカーとの接続も簡単ですし、Harmony OS対応の家電製品ともつながります。スマートスピーカーに「コーヒーメーカーでコーヒーを入れて」「TVの電源をつけてサッカーの試合を流して」なんて指示することも可能。そして自宅にいながら自動車のバッテリーの残量や走行距離などの状態をスマートフォンやスマートウォッチから確認することもできます。
HarmonyOS 3の機器間連携機能はAndroid OSやiOSよりも進んでいます。ファーウェイ製品と対応する家電やIoT機器に連携は限られるものの、他のスマートフォンメーカーが持っていない自動車を製品ラインナップに持っていることから、朝起きて自宅を出発し、会社に移動して仕事をして帰宅するまで、スマートな生活を24時間365日サポートしてくれます。
中国以外の国ではファーウェイのスマートフォン新製品を見ることは少なくなりました。しかし、中国では自動車も発売し、さらに次世代OSも開発するなどファーウェイのスマート製品は着実に進化を続けているのです。いずれはグローバルにもこのHarmonyOSのエコシステムが広がって行くでしょう。