昨年、通信事業者を3社に再編した中国の通信業界。今年4月から、順次3Gサービスをスタートさせている。各社の特徴や強みはどこにあるのか、3社のサービスや戦略を簡単に見てみよう。

固定系コンテンツをEV-DOでも提供する中国電信

長らく固定系サービスのみを提供していた中国電信(China Telecom)は昨年中国聯通のCDMA事業を買収し、年明けから本格的に携帯電話サービスを開始している。この4月にはCDMA EV-DO方式による3Gサービスも開始したところだ。

3Gサービス開始直後から端末ラインナップも多い中国電信

中国移動などの携帯電話事業者がこの2~3年で急成長する中、中国電信の固定系サービスは加入者を減らしており苦戦状態にあった。苦肉の策として導入した移動式固定電話=PHS(中国での名称は「小霊通」)も携帯電話の低価格化によって一時の勢いは完全に失っている。そのような中で収益を上げるため、中国電信はADSLサービス上でPC向けのニュース提供や地図・お店検索などコンテンツ配信事業を強化していった。携帯電話サービスを開始した現在は、固定系で提供しているそれらの各種コンテンツをそのまま携帯電話向けに展開しており、携帯電話に新規参入したにもかかわらず豊富なサービスを提供している。

また端末は中国メーカーを中心に、2G/3Gともに「中国電信」のロゴの入った新機種を多数投入している。昨年までの中国電信の営業所と言えば固定電話機やADSLのプロモーションのためのPC、そして低価格な小霊通が置かれているだけの、全体的に地味な店舗が多かったが。この4月からは、携帯電話を中心とした華やかなものに一新されており、目新しさもあってか消費者のめをおおきくひきつけている注目を集めている。3G利用者も開始からわずか2カ月で100万人を突破しており、早くも中国3G市場の中心的存在になっているようだ。

W-CDMAで「世界のサービス」を提供する中国聯通

中国聯通(China Unicom)は、元々は携帯電話事業者だ。同社はGSMとCDMAの2方式を提供していたが、CDMA事業は中国電信に売却。そして昨年にもう1つの固定電話事業者であった中国網通(China Netcom)と合併して「固定電話、ADSL、GSM携帯電話」のマルチプレイヤーになった。3GサービスはGSMの上位規格となるW-CDMA方式を採用し、5月17日から一部都市での先行サービスを開始している。

Sony Ericssonがさっそく3G端末を中国聯通向けに投入

中国聯通の採用するW-CDMA方式はすでに世界各国で採用されており、技術も十分確立されている。端末も設備も、そしてコンテンツプラットフォームも多数のベンダーが世界中に存在しており、中国聯通としては自社で技術開発を行わなくても「お金を出して買ってくるだけ」でサービスの提供が済むわけだ。

しかし旧・中国聯通時代はCDMA事業を事業の柱としていたこともあり、現在提供している2GのGSMですらサービスのカバレッジは都市部でも若干弱い。W-CDMAを今後全土に展開するためには膨大な資金も必要だ。端末も海外メーカーからの調達が容易なものの、安価な中国メーカーのW-CDMAの数がまだまだ少ない。ユーザーを3Gへスムースに移行させるためには、5,000円程度の安価な「国産3G端末」の登場が必要だ。

とは言え中国聯通は世界で最も普及している3G方式のW-CDMAを採用したメリットが高く、今後着々と3G利用者を拡大させていくことだろう。また海外の端末メーカーはこれまで中国向けにわざわざ3Gをはずしたモデルを投入していた。今後は海外の最新モデルをそのまま中国に投入可能になることから参入の敷居がより低くなったとも言えるだろう。世界で話題のAppleのiPhoneも早い時期に中国で発売されることになるに違いない。

中国移動の「中国独自3G」は成功するか?

3G開始のスタートダッシュに成功した中国電信、世界で最も普及した3G規格を採用した中国聯通と比べ、加入者数約5億を誇る世界最大の通信事業者である中国移動(China Mobile)の3Gサービスは前途多難だ。

固定型端末とネットブックに力を入れる中国移動

同社の採用する3G規格は、中国が開発したTD-SCDMA方式である。この方式の最大の弱点は技術がまだまだ開発中であることだろう。端末の種類も少なく、昨年4月に試験サービスを開始した当時のモデルが今でも販売されている。今年4月に本サービスを開始したものの、目新しいサービスの提供もされていない。今年5月末での3G利用者は約75万人で、後発の中国電信に早くも抜かれた格好だ。

中国移動が現在力を入れているのは、携帯電話ではなく3G内蔵ネットブックと固定型3G端末である。ネットブックはDellやHPなどの海外メーカーだけではなく、LenovoやHaierなど中国メーカーの製品にTD-SCDMAモデムを内蔵した製品を10数機種投入している。また家庭向けの固定端末型TD-SCDMA携帯を「家庭で安価に通話とSMSの出来る電話機」として販売している。固定系サービスが弱い同社は固定電話やインターネット接続サービスに携帯電話回線を利用することでユーザー層の拡大を狙いたいところだ。 ただし3Gネットブックを回線契約込みで安価に販売してはいるものの、デスクトップPCよりは数倍価格が高くすべての人民に手の届くものではない。固定電話型端末も中国電信、中国聯通(旧中国網通)がこれまで注力していた分野であり、後から中国移動が参入する余地は少ない。同社が3Gを普及させるためには、やはり対応する携帯電話を続々と投入する必要があるだろう。つまりTD-SCDMAの開発動向が、そのまま同社の3Gの未来を左右するものになるわけだ。