新幹線や飛行機に乗るときは早めに駅や空港に行く人も多いでしょう。余裕を持って到着したならレストランやカフェに入って食事でもしたいもの。でも時間によってはお店が混んでおり、ベンチに座って時間を過ごすしかやることがない、なんてこともあるでしょう。特に混んでいる時間にせっかく確保したベンチの椅子を空けて施設内の売店やコンビニに食料を買いに行くのもためらわれます。
韓国のインチョン国際空港では、搭乗口付近の待合室などに無人の自走式ロボット「エアデリー」を使った飲食物の配達サービスを7月18日から開始しました。空港でチェックインを済ませたら、出国を済ませたあと搭乗口でスマートフォンでゲームでもしながら食事や飲み物が届くのを待つことができるのです。
このサービスは韓国のフードテック企業、Woowa Brothersと協業し、2022年7月18日から12月30日までインチョン国際空港ターミナル1の免税エリア、すなわち出国後のフロアで試験運用されます。1日8時間のみ営業し、フロアにある4つの飲食店に合計6台のロボットを配置するとのこと。乗客はベンチや案内書にあるパンフレットのQRコードをスマートフォンで読み取り、ブラウザから利用できる飲食店のメニューを見ながら注文と支払いを済ませることができます。韓国人は韓国国内のモバイルペイメントサービス、外国人はクレジットカードが利用可能。支払いが終わればロボットが注文したものを自分のところに届くのを待つだけです。
このサービスのメリットは空港内で飲食店を探すために歩き回る必要がなく、またせっかくお目当ての店に行ったのに満席で座れなかったり、行列が長くて並ぶのが面倒だった、といったことが無くなることです。スマートフォンを使えばどんな店があり、価格はいくらなのかもベンチに座っているだけでわかるのは便利でしょう。韓国語と英語のページが用意され、外国人でもアプリを使って手軽にオーダーができます。乗客サイドだけではなくお店側にとっては立地が悪くともリモートで集客することが可能になるのです。
乗客数が多く注文が集中した時や、店舗が遠くにあるときはオーダーしてから手元に届くまで結構時間がかかってしまうかもしれません。なお今回の試験サービスではお店と搭乗口の最も遠い距離は250メートルとのこと。おそらく注文時にスマートフォンの画面に目安の配達時間が表示されると思われますが、今回はそのあたりの使い勝手や問題点を洗い出すために試験サービスとして展開されるわけです。
ちなみにインチョン国際空港ではすでに別のロボットが活躍しています。「エアスター」と呼ばれる案内ロボットで、航空券のバーコードを提示すると搭乗ゲートなど最新のフライト情報を知らせてくれます。多言語対応で日本語にも対応しており、空港に不慣れな外国人をしっかりとサポートします。インチョン国際空港はロボットが走行できるように段差などをなくしたフラットな床の構造になっており、配達ロボットも空港内を自在に走り回ることが可能なのです。
実はエアスターとエアデリーはLGエレクトロニクス製のロボット。LGはロボット分野にも力を入れており「CLOi」のブランド名で製品を展開しています。エアスターは「LG CLOi ガイドボット」を、エアデリーは「LG CLOiサーブボット(引き出し型)」をベースにしています。今回投入されるエアデリーは2か所の引き出しを備えており、最大積載量は17kg。飲食物の配送に困ることはないでしょう。また上部に9.2インチのタッチパネルディスプレイを搭載しているので、乗客に飲食物を届けたときに情報表示や確認操作を行うこともできます。なお万が一の事故に備えて対人1億ウォン(約1,500万円)の保険にも加入しているとのこと。
世界各国・都市の空港は使いやすさを競うようにIoTを使った様々なサービスを展開しています。チケットレスはすでに当たり前のものになっていますが、乗客の荷物が飛行機に積み込まれたときにスマートフォンにメッセージを届ける、また国際線であれば顔認証による入出国チェックなどの導入が進んでいます。しかしこれら空港のDX(デジタルトランスフォーメーション)はどちらかと言えば乗客や荷物の「動き」に対しての改善です。
もちろん空港内で乗客が最もストレスを感じるのはチェックインを含む様々な場所での行列だったり、荷物の搭載の不安や受け取り時の待ちなどで時間がかかることです。しかしそれらの問題はIoTの進化により、空港内に配置した多数のセンサーからのデータをクラウドで処理し、AI解析を行うなどして解決が進んでいます。インチョン国際空港も空港に到着してから飛行機に乗るまでの間にストレスを感じずスムーズな搭乗ができるソリューションを次々と投入していますが、その次のステップとして今度は「乗客に快適な空港滞在サービス」を提供しようとしているわけです。
将来このロボットによる飲食配送サービスが正式にサービスインされれば、空港内のカフェやレストランも個別に座席を用意する必要が無くなります。一方でゆっくり食事をしたい乗客には落ち着いた空間を提供してプレミアムなサービスを提供する、という新しいビジネスも展開できるかもしれません。空港はまだまだこれからもスマート化が進んでいくでしょう。