コロナ禍から少しずつ日常生活に戻りつつある今、夏の旅行の計画を立てている人もいるでしょう。今やどこに行くにもスマートフォンは欠かせませんが、旅行中に電車の時刻や宿の情報を調べるだけではなく、ちょっとした時間があればSNSを開いて家族や友人とコミュニケーションを図ったり、ニュースを見てはあれこれ考える、なんて時間が多いのではないでしょうか。せっかく旅に出たというのに、観光地でもスマートフォンの画面ばかり見ていた、なんてこともありがちです。
ロンドン在住でオーストリア人のプロダクトデザイナー、Michael Strantz氏はそんなスマートフォンに奪われる時間を取り戻すツールのコンセプトを考えました。同氏立案の「DETACH」は、スマートフォンの画面にステッカーを貼って見えなくしてしまうツールです。しかしスマートフォンとしての機能はしっかりと使え、旅の思い出も残すことができるのです。
DETACHはスマートフォンの画面に貼り付けるステッカーとアプリ、そして専用ノートの組み合わせで動きます。ステッカーはスマートフォンの画面全体を覆って見えなくしてしまいますが、中央は円がくりぬいてあり、その周囲はディスプレイの光を通すようになっています。この状態にすると、もはやSNSの通知を見たりネット検索や動画を視聴することもできなくなります。旅行に集中する時間が始まるわけです。
ステッカーを貼り付けると、中央の円の部分だけは指先でタッチすることで反応するようになっています。DETACHには5つの機能があり、それぞれ円のタッチで操作ができるのです。
その5つの機能とは、ナビゲーション、通話、翻訳、音楽再生、写真です。基本的な操作は共通しています。たとえばナビゲーションでは、スマートフォンの地図アプリに目的地を入力して地図を検索するのではなく、付属のノートを使い、ノートのナビゲーションページに目的地の地名を書きます。
次にノートの右側にあるオレンジのインジケーターをその地名の位置に合わせます。
続けてスマートフォンを使ってノートの上から撮影。画面に貼ったステッカーの中央の円をタップします。この操作でカメラはオレンジの位置にある文字を読み込むわけですね。
あとはスマートフォンを手に街を歩くだけです。どちらの方向へ行けばいいかは、ステッカーから透けるスマートフォンのディスプレイに丸いライトが点くので、そちらに向かえばいいのです。これなら地図を見なくても方向が分かりますし、地図を見ながらついついSNSを開いてしまう、なんてことも無くなります。
同様に電話をかけたい場合はノートの通話ページに電話番号をペンで記入、翻訳は翻訳ページにわからない単語をペンで記入、音楽は聴きたい音楽をペンで記入。そしてそれぞれ記入したらオレンジのインジケーターを書いた文字の横に移動させて、同様にスマートフォンのステッカーの円の部分を使ってカメラで読み取ります。読み取り後は相手に電話をかけてくれ、翻訳を音声で教えてくれ、そして音楽は地元ラジオ局を聴いたり友人と音楽をシェアできるのです。
このように「機能に対応するノートのページを開く」「ペンで文字を記入する」「オレンジのインジケーターを書いた文字に合わせる」「カメラで撮影」という4つのステップで、スマートフォンのアプリを使わずともそれぞれの機能が使えるというわけです。
またカメラの操作はもっとシンプルで、被写体に向けて円の部分をタップ。これで写真が撮影できます。倍率をどうしようとか、ボケをかけようとか、フィルターをかけようとか、普段スマートフォンで写真を撮るときって、ついついいろいろなことを考えがちです。しかしDETACHを使えばシンプルに被写体にスマートフォンを向けるだけで撮影が終わります。しかも画面が見えないので撮影後の画像のプレビューもできません。「撮りたいものを見つけたらタップして撮る」それだけの作業に集中できます。
撮影した写真は専用のサーバーにアップロードされるようです。旅から戻るとそのダウンロードリンク先が表示されるので、あとはそれを印刷。そして紙のフォルダーに挟んで本棚に入れておけば、あとから旅の思い出を振り返りたいときもそのフォルダーを取り出して写真を見て楽しむことができるというわけ。
DETACHは試作の段階にありますが、今の技術があれば十分実現できる製品になるでしょう。目的地の方向を調べたりホテルに電話をしたり、翻訳したり写真を撮影するなどスマートフォンは旅行には欠かせないツールですが、旅情を削いでしまう面もあります。しかしDETACHを使えばスマートフォンの基本性能だけを利用でき、旅に気分を集中させることができるのです。どこかの企業が製品化することを望みたいものです。