最近のスマートフォンは高速充電に対応しており、バッテリーが空になってしまっても数時間で満充電できる製品が増えています。例えば「iPhone 12 Pro Max」は3時間以内で満充電にすることができます。Appleは20Wの高速充電に対応した「Apple 20W USB-C電源アダプタ」も販売しています。とはいえ朝起床して出かけようとしたらスマートフォンの電池が切れていた、なんてときには数時間も待っていられません。そこで各メーカーは高速充電技術を競い合っています。

  • スマホの急速充電速度競争が激しくなっている

市販されているスマートフォンの中で最速クラスの製品は、たとえばZTE関連メーカーのNubiaが販売している「nubia Z30 Pro」が120Wという高速充電に対応しています。Appleのなんと6倍の容量です。nubia Z30 Proは4,200mAhのバッテリーを内蔵。120Wの充電器を使うと15分で満充電が可能です。寝坊してしまった朝でも目覚めてからすぐに充電器をつなぎ、洗顔と着替え、シリアルに牛乳をかけた簡単な朝食をとってから出かけるころにはもう100%充電されているのです。他にもVivoの「iQOO 7」が120W充電に対応しており、同様に15分で満充電できます。

  • nubia Z30 Proは120W充電対応、15分で満充電が可能だ

この2つの製品には及ばないものの、90Wや65Wなどの高速充電対応スマートフォンはシャオミ、OPPOなどから発売されています。1つのバッテリーに高い電力をかけることはバッテリーの劣化や発熱につながるため、最近のスマートフォンは内蔵バッテリーを2つにわけ、並列充電することで高速化を図っているモデルも増えています。PCメーカーでもあるレノボの「Legion Duel」は充電端子を2つ備え、2つに分かれた内部バッテリーそれぞれに充電ケーブルをつなぐことで合計90Wの高速充電ができるという、ちょっとトリッキーな機構を取り入れています。

  • 充電ケーブルを2本差して高速充電できるレノボのLegion Duel

スマートフォンの充電時間が短くて済むようになれば、モバイルバッテリーを持ち歩く必要もなくなるかもしれません。外出中にスマートフォンのバッテリー容量が少なくなってきても、立ち寄ったカフェで数分充電すれば満充電まで達しなくとも自宅に帰宅するまでに十分な容量を充電できるでしょう。モバイルバッテリーはスマートフォンとは別に充電が必要ですし、高容量のものはカバンやバッグの中身をより重くしてしまいます。さらに誤った使い方をした場合や、信頼のおけないメーカーの製品を使用した場合は発熱や発火の恐れもあります。

  • 誰もが当たり前に使っているモバイルバッテリーも、今後は不要になるかも

120Wの高速充電は15分での満充電を可能にしました。しかしさらにそれ以上の高速充電技術が商用化されようとしています。OPPOは2020年7月に125W充電技術を発表しています。またInfinixは2021年6月にコンセプトモデル「Infinix Concept Phone 2021」を発表、本体背面の色が変わるというちょっと面白い機能を搭載するだけではなく、160Wの充電にも対応。内蔵4,000mAhのバッテリーを10分で充電できるとのこと。

  • Infinixによるデモ。10分で満充電できる

一方、シャオミは200W充電が可能な「Hyper Charge」を6月に披露しています。このHyper Chargeはワイヤレスでも120W充電可能というとてつもなく高速な充電技術です。シャオミのデモではテスト向けにカスタマイズされた「Mi 11 Pro」の内蔵4,000mAhバッテリーを8分で充電できました。

  • シャオミは200W充電を発表。今後はこのスタイルのデモが流行るのだろうか

中国の半導体開発メーカー、NuVolta Technologiesは100W充電に対応した充電チップ「Volta NU2205」を発表しており、どうやらこれがシャオミのテストに使われたともいわれています。シャオミは本体内2つのバッテリーをそれぞれ100W充電することで、100x2=200W充電、と謳っているのかもしれません。いずれにせよNuVolta Technologiesのチップを採用すればどのメーカーも100W充電を自由に採用できることになります。

  • 日NuVolta Technologiesの100W充電チップ

さてここまでくるとこの先は250Wや300Wなど、さらなる高速充電技術が登場するのでしょうか? 高速充電を実現するためにはバッテリーにかかる負荷を検知し、充電異常が起きない安全対策が必要です。OPPOの125W充電では充電中の温度が40度以上に上がらないよう、バッテリー周りの温度センサーを10個搭載し、温度が急上昇した際は充電速度を落とす安全策が取られています。また充電用のUSBケーブルも高容量に対応した専用品が必要になります。

  • OPPOの125W充電ではバッテリーに温度センサーを10個搭載している

充電速度の向上は個々の部材だけではなく温度コントロールやケーブルの耐性などクリアする点も多く、倍々ゲームで速度が右肩上がりに増えていく、とはならないでしょう。しかし「スマホの充電は5分でOK」は1年もすれば当たり前になるのでしょう。今後各社の高速充電技術は、スマートフォンだけではなくタブレットやノートPC、さらには電気自動車(EV)などより大型な製品向けに応用されるようになっていくと思われます。