2021年4月5日にLGはスマートフォン事業からの撤退を決めました。1月にアメリカで開催されたイベント「CES 2021」では巻き取り式ディスプレイを搭載したスマートフォン「LG Rollable」をオンラインカンファレンスの前後に登場させ「世界初のローラブルスマホ」の投入を大々的にアピールしていただけに、この撤退はあたらしい形態のスマートフォンを心待ちにしていた人たちにも衝撃を与えました。
LGのスマートフォン事業は約6年間も赤字が続いていました。ここ数年は韓国とアメリカ以外では存在感を示すこともできなかったのです。世界のスマートフォン市場は今年に入ってから回復傾向を見せており、またこれから5Gが各国で本格的に普及する時代を迎えることを考えると、LGのスマートフォンにもまだ勝算は残されていたかもしれません。今回撤退はするものの、引き続き6Gなど通信関係の研究開発は進めていくとのことで、遠い将来に再びLGのスマートフォンが復活する可能性はゼロではありません。
とはいえ今回の撤退はLGの主要販売先であった韓国とアメリカに大きな影響を与えます。韓国市場はサムスンがシェア7割、Appleが2割、LGが1割程度と、この3社がほぼ市場を握っています。日本ですら中国メーカーが多数参入していますが、韓国ではキャリアと組んだファーウェイも人気が出ず、価格勝負に出たシャオミも苦戦しています。LGが無くなればサムスンとAppleの2社しか選択肢が無く、これは好ましい状況ではないでしょう。LGが抜けた穴を埋めるべく、低価格4Gスマートフォン「Redmi Note 10シリーズ」を投入したシャオミに頑張ってほしいところです。
一方アメリカ市場を見てみると、LGは北米でシェア3位、南米では5位とのこと。カウンターポイントの調査によると、北米の順位はApple(約50%)、サムスン(約25%)、LG(約10%)、モトローラ(約5%)、アルカテル(約4%)と続きます。LGはハイエンドモデルを出していないことからサムスン、モトローラ、アルカテルがLG撤退分を出荷増に結び付けるでしょう。また南米では中小の地場メーカーも多いので、それらのメーカーの出荷が増えるでしょう。
これ以外の地域でLGのスマートフォンが目立っているのは日本くらいでしょう。日本ではカバーを取り付けると2画面化できるスマートフォン「G8X ThinQ」「V50 ThinQ 5G」「V60 ThinQ 5G」「VELVET」が相次いで発売されました。
これらの国以外ではLGのスマートフォンの存在感は、正直なところほとんどありません。しかし中東や東南アジアなどでは海外で販売されたスマートフォンが独自に輸入されて販売・使用されているところも多く、筆者の住む香港でもLGのスマートフォンは正規に販売されていないにも関わらず、最新モデルが常に輸入端末ショップで購入できる状況になっています。他の国でキャリア契約して安く入手された端末がなどが転売され輸出されているのです。
VELVETは5G対応のミドルハイレンジスマートフォンで、カメラの存在感を大きくアピールする最近の各社のスマートフォンと比べるとシンプルな背面デザインには好感が持てます。香港での価格は2,000香港ドル、約2万8,000円程度。中国メーカーの低価格な5Gスマートフォンと比べてもコスパ感は高く、2画面化するためのデュアルスクリーンケースがなくとも、単体のスマートフォンとしても十分実用的です。
またT字変形する「WING」は、変形させるとメインの6.9インチディスプレイに加え、サブに3.9インチディスプレイが現れます。動画を流しながらSNSを見る、なんてこともできるのです。さらに6,400万画素に加え1,200万画素の超広角、そして6軸手振れ補正の1,300万画素ジンバル内蔵カメラも搭載、加えてフロントカメラはポップアップ式の3,200万画素とカメラフォンとしてもかなり高性能です。香港での輸入品価格は4,000香港ドル、約5万6,000円程度ですが「2画面+高性能カメラ」スマートフォンとして考えると割安でしょう。
LGのこれらのスマートフォンは韓国やアメリカから輸入されますが、両者ともほぼ韓国からの輸入品が多いようです。しかしスマートフォン事業の撤退を発表したことから、韓国での販売量が急減しています。その結果、香港の輸入業者が仕入れることのできる端末数も減っているのです。香港には「スマホ屋ビル」があるのですが、WINGはどの店舗でも新品の在庫がほとんどなくなっています。購入するのが難しくなり値段が上がる動きも見せています。
撤退の報道が無ければVELVETもWINGも香港で人気になることは無かったかもしれません。しかし製品に魅力がなければ撤退メーカーの製品は格安で投げ売りされてそのまま市中から消えていくだけです。実は香港にはLGのミドルレンジ5Gスマートフォン「Q92 5G」も輸入されているのですが、販売価格は1,100香港ドル、1万5,000円程度。「撤退メーカー」「特徴のない製品」は、このように暴落価格で売られ、しかもほとんどの人に見向きもされないのです。それに比べれば、VELVETとWINGはまだまだ市場価値もある、魅力的な製品なのです。
広い画面で2つのアプリを同時に使える「折りたたみスマートフォン」をサムスンなどが出していますが、価格は20万円などかなり割高です。それに比べるとVELVETなどLGの2画面化できるスマートフォンは半額以下で購入できます。SNSを見ながら動画を視聴するなど、2つのアプリを手軽に利用できるのは使ってみると結構便利です。LG以外にカバー装着で2画面化できるスマートフォンを作っているメーカーはありませんから、LG撤退後は二度とこのようなスマートフォンを入手することはできなくなってしまいます。
そう考えると、2画面化スマートフォンが4機種も発売された日本は恵まれた国なのかもしれません。2つの画面が使えるLG製品は、スマートフォンを使った仕事にも便利な存在でしょう。少しでも興味を持った方は、日本でVELVETやV60 ThinQ 5Gが入手できるうちにデュアルスクリーンカバーもセットで買っておいたほうがいいかもしれません。