9月23日にサムスンはフラッグシップスマートフォンラインナップ「Galaxy S20」シリーズの低価格モデル「Galaxy S20 FE」を発表しました。FEとはFan Editionの意味。Galaxyファン=多くの人をターゲットにしている、という意味でしょうか。価格は699ドル(約7万4,000円)で、チップセットにSnapdrgon 865を採用したパワフルな製品です。もちろん5Gにも対応。しかしディスプレイやカメラ性能を下げて10万円を切る価格を実現しています。
Galaxy S20シリーズは3モデル「Galaxy S20」「Galaxy S20+」「Galaxy S20 Ultra」が販売されています。Galaxy S20 FEはGalaxy S20の下位に位置する製品となります。他のメーカーならば「Lite」という名前を付けるところでしょうが、Galaxy S20 FEのチップセットは上位モデルと全く変わりません。
実は今年1月、サムスンは同様に上位モデルと同じチップセットを搭載した「Galaxy S10 Lite」「Galaxy Note10 Lite」を発売しています。しかし他社のLiteモデルと比べると当然ですが割高でした。現在のスマートフォン市場ではLiteと名の付くモデルは低価格モデル。派生モデルにはLiteという名前より、別の名前を付けたほうがいいということなのでしょう。
Galaxy S20 FEは6.5インチ2,400×1,080ピクセルのディスプレイを搭載しています。その上に位置するGalaxy S20は6.2インチ3,200×1,440ピクセル。性能はGalaxy S20が上ですが、すべての人が高解像度なディスプレイを必要とするわけではなく、むしろサイズが大きいほうがいいという人も多いでしょう。
またカメラもGalaxy S20 FEは1,200万画素+1,200万画素+800万画素の3つ。Galaxy S20は6,400万画素+1,200万画素+1,200万画素の3つ。これも「そこまで高画質なカメラは無くていい」と考えるユーザー向けの設計です。
ところがフロントカメラはGalaxy S20 FEが3,200万画素、Galaxy S20は1,000万画素です。つまり自撮りをよくする人には価格が安く画面が大きいGalaxy S20 FEのほうが向いているというわけです。
このようにコストパフォーマンスを重視したうえでフロントカメラ性能を高めたモデルはアジアで人気があります。また先進国でも日本のように「スペック至上主義」の消費者が多い国では、スマートフォンのチップセット(CPU)性能が重要視されます。ディスプレイやカメラ性能が高くても、CPU性能が低ければそれを生かしきれないと見ることもできます。Galaxy S20 FEはパフォーマンスは十分余裕があり、大画面と適度なカメラを搭載しつつ、自撮りだけは妥協したくない、というユーザーがターゲットであることがスペックから見えてきます。
アジアで人気の中国メーカーのスマートフォンは、低価格モデルでもしっかりとフロントカメラ性能を高めた製品を多く出しています。日本でも出ているOPPOの「Reno3 5G」(海外では「Reno3 Pro 5G」)は7万円を切る価格で、チップセットはワンランク落ちるSnapdragon 765Gではあるものの、4,800万画素+1,300万画素+800万画素+200万画素カメラを搭載し、フロントカメラは3,200万画素です。SNSで自撮りやグループセルフィーを撮ってシェアしあうことは当たり前ですから、フロントカメラも高性能な製品が求められているわけです。
このReno3 5GとGalaxy S20 FEを比べると、ディスプレイ性能はほぼ同等、メインカメラ性能はReno3 5Gが勝っています。しかしフロントカメラは同等。そしてCPU性能はGalaxy S20 FEが上回っています。「カメラ性能は魅力だけど、総合的なパワーが欲しい、そしてフロントカメラがいいならパワーのあるモデルを選ぼうか」そう考える消費者がおそらく多くいると見ているのでしょう。サムスンもGalaxy S20 FEのカメラスペックは大きなライバルと言える中国メーカーの製品を研究して決めたはずです。
ではGalaxy S20 FEは日本で発売されるのでしょうか? サムスンは日本にハイエンドモデルだけではなくGalaxy Aシリーズも複数モデルを投入しています。これから5Gの普及が始まる中で、10万円以下の5Gスマートフォンは通信キャリア側としても5Gユーザーを増やすためにもぜひとも欲しいところです。しかもCPUスペックが高いためスマートフォン単体としての性能も申し分ありません。Galaxy S20 FEが日本に投入される可能性は十分あります。
数年前までのスマートフォンは、ハイエンドモデルはすべての性能が高く、価格が下がるごとにスペックも落とされた製品が並んでいました。しかしアジアを中心としたセルフィーブームやフロントカメラを使った写真や動画のシェアが増えた結果、フロントカメラ性能が高く、そして撮影した自撮りをすぐに確認できる大きいディスプレイを搭載した製品が急増しています。Galaxy S20 FEのような製品はすでに中国やアジアではかなり出ているのです。サムスンはスマートフォンシェア1位を維持するためにも、中国メーカーの動きを見ながら消費者が求める製品をタイムリーに投入していかねばならない時代なのです。