ZTEが9月1日に発表した「AXON 20 5G」は世界初のアンダーディスプレイカメラ技術を採用したスマートフォンです。この技術はフロントカメラを有機ELディスプレイの中に埋め込み、カメラを使わないときはディスプレイの前面を表示エリアとできるものです。つまりスマートフォンのディスプレイの上部にあって当たり前だったカメラが見えないのです。

  • ZTEのAXON 20 5G。フロントカメラが見えない

ディスプレイの下に埋め込まれたカメラが果たしてどれくらいの撮影性能を持っているか、実際に触ってみたいものですね。ZTEの撮影サンプルを見る限りは普通のフロントカメラと画質は変わらないようなので、SNSにセルフィーをアップする用途くらいなら十分使えるかもしれません。フロントカメラの画質は3,200万画素とのことです。

  • AXON 20 5Gのフロントカメラの作例

スマートフォンのフロントカメラ画質は年々向上していますが、最近ではセルフィー用途だけではなく顔認証にも使われるようになっています。iPhoneのように複数のセンサーを搭載し、顔認証の制度を格段に高めた製品もあります。しかしセンサーを多く配置すればそれだけディスプレイの上部は欠き取り部分、いわゆるノッチが必要となります。もはやiPhoneのノッチは見慣れたデザインでしょうが、他社のスマートフォンは次々と「非・ノッチ」デザイン採用へと動いています。

  • 当たり前となったiPhoneの「ノッチ」

フロントカメラを1つにして、ディスプレイの上部中央に配置する「水滴型」と呼ばれるデザインのスマートフォンは今や一般的になっていますが、2020年に入ってからはディスプレイの右上または左上に丸い小さな穴をあける「パンチホール」デザインが増えています。どちらもフロントカメラをディスプレイ上で目立たないようにするためのもの。カメラの部分は表示が隠れますが、ノッチよりは小さくできます。

  • 最近増えているパンチホールデザインのディスプレイ(OPPO Find X2 Pro)

とはいえどのフロントカメラデザインもディスプレイに非表示エリアが生まれることには変わりありません。せっかく全画面で映画を見ることができるのに、ディスプレイの一か所に穴が開いていれば没入感も損なわれます。そこでZTEはフロントカメラそのものを隠すスマートフォンを生み出したのです。なおアンダーディスプレイカメラ技術はサムスンなど大手のディスプレイメーカーが研究中。OPPOは2019年6月に試作モデルを展示したことがあります。またシャオミが近々このディスプレイを採用したスマートフォンを出すと言われています。

  • OPPOのアンダーディスプレイカメラ搭載スマホの試作機

フロントカメラを完全に見えなくするアイディアとしては、収納できるカメラを本体上部に内蔵し、モーターで上下させるポップアップ式カメラを搭載するスマートフォンもあります。しかしコストがかかることや故障しやすいことなどからか、採用は一部のモデルに留まっています。ポケットにスマートフォンを入れているときに誤作動でカメラが出てしまう、といったトラブルもありうるのでしょう。

  • ポップアップ式カメラは主流にならず、一部モデルの採用に留まっている

アンダーディスプレイカメラ技術の成熟度は未知数ですが、フロントカメラの省スペース化技術として現時点では最も有力なものといえるかもしれません。しかし完全に実用化され各社が採用するようになるまではまだ数年かかるかもしれません。そこで他の方法でフロントカメラをなくした製品も出てきています。

ASUSやサムスンはカメラを回転させることで、リア・フロントを共用としフロントカメラレスを実現しました。8月発表のASUS「ZenFone 7」は、背面のトリプルカメラが必要な時に前面側に回転してフロントカメラになります。これは昨年発売の「ZenFone 6」でも採用された技術です。ZenFone 7のカメラは8Kビデオ撮影に対応しますが、この機構のおかげでフロントカメラとしても8Kに対応。現時点で8K対応のフロントカメラを搭載しているスマートフォンはZenFone 7だけになります。

  • ZenFone 7はリアカメラを回転させフロントカメラとしても使える

日本では、通販ベースでゲーミングスマートフォンなどを展開しているNubia(ヌビア)から、ディスプレイ上部のベゼルを狭くして、その狭いエリアに小さくフロントカメラを搭載した「Red Magic 5S」が販売されています。ゲーミングスマートフォンと謳うからには、ゲーム中のあらゆる動きを高速でディスプレイに表示する必要があります。ゲーム内の敵の動きがフロントカメラに隠れてしまうことは許されません。とはいえ没入感を高めるためにはフロントカメラは無いほうが有利ということで、Red Magic 5Sはカメラを極限まで小型化したのです。

  • Red Magic 5S。フロントカメラは見えないがディスプレイの右上側に小さく配置されている

ゲーミングスマートフォンとしてレノボが初めて投入した「Legion Pro」「Legion Duel」もフロントカメラを大胆な機構で隠しています。ゲームプレイはスマートフォン本体を横向きにして持ちます。レノボは本体の側面にポップアップ式のカメラを内蔵させ、ゲームプレイ中に自分の姿を撮影するときだけ使えるフロントカメラを搭載しているのです。

  • レノボのLegion Pro(Duel)は側面にポップアップカメラを搭載

スマートフォンがおサイフ代わりとして使えるようになって以来、セキュリティー対策は年々重要になっています。本人認証技術としてAppleは指紋を避け顔認証を強化しています。一方他社は顔+指紋というデュアル認証を採用するところがほとんど。そのためフロントカメラはなるべく目立たず小型化し、顔認証でカバーできないときは指紋認証を使ってもらう、としています。どちらが優劣があるとは言えませんが、Appleの技術もいずれセンサー類が小型化・統合化されればノッチをなくせるはずです。

ノッチを今すぐ廃止するか、セキュリティー対策を万全にしてからなくすか。Appleとそれ以外のメーカーでは異なる思想でフロントカメラ周りのデザインを開発していると言えるでしょう。スマートフォンメーカーだけではなく、ディスプレイメーカーやセンサーメーカーなど部品を開発するメーカーの技術開発力が今後スマートフォンの本体デザインに強い影響を与えるものになるのです。