サムスンのフラッグシップスマートフォン「Galaxy Note20」が発売になり、来月には新型iPhoneの発表が期待される2020年8月中旬、海外からちょっとしたニュースが飛び込んできました。ブラックベリーのスマートフォンが復活するという話です。ブラックベリーといえばキーボードのついたビジネス向けスマートフォンとして有名でした。しかしスマートフォンのディスプレイサイズが大型化することにより、画面上に表示するソフトキーボードでも自由に文字入力できるようになったことで、キーボード付きスマートフォン需要は落ち込んでしまいました。
日本ではブラックベリーの代理店、FOXから7月1日に「最後のブラックベリー」として「BlackBerry KEY2 Last Edition」が299台限定で発売されて、ブラックベリーはいよいよ市場から姿を消そうとしているところでした。
ブラックベリーはカナダの会社ですが、現在は中国の家電大手メーカーTCLがブラックベリーからブランド権を得てスマートフォンを製造・販売しています。現在日本で販売されているブラックベリーのスマートフォンもすべてTCL製です。しかしその契約も今月限りで切れてしまいます。ブラックベリーはついに市場から姿を消してしまうことになるはずでした。
ところがここにきてインドのソフトウェア企業、OnwardMobilityがブラックベリースマホを2021年から販売すると発表しました。スマートフォンの製造はシャープを買収したことでも知られるフォックスコンの子会社のFIH Mobileが行います。このFIH Mobileは現在ノキアブランドのスマートフォンを展開するHMD Globaに出資しており、スマートフォンのOEM製造の大手でもあります。
日本でブラックベリーがまだ売られていたことを知らない人も多いでしょう。海外でもブラックベリーの最新モデルは2018年8月に出た「BlackBerry KEY2 LE」が最後で、それから2年間新製品は出ていなかったのです。キーボード付きスマートフォンはその後クラウドファンディングでPlanet Computersなどが数モデルを出すものの、ニッチなユーザー向けにとどまっています。「キーボードは不要」そう考える人も多いことでしょう。
ではOnwardMobilityはどうして今になってキーボード付きスマートフォンであるブラックベリーを復活させようと考えたのでしょうか。それは新型コロナウィルスにより「ニューノーマル」と呼ばれる生活スタイルが普及を始めたことと関係あるのではないでしょうか。ニューノーマルでは従来のように毎日会社に出社するのではなく、オンラインで好きな時間や場所で仕事をするようになっていきます。会議もオンラインで行うようになり、会社に出社するのは月に数回で済むようになるでしょう。
ニューノーマルでは自宅のみならずカフェで仕事したり、公園に出かけて芝生で寝ころびながら仕事をする、といったことも当たり前になります。また旅行先でもオンラインで顧客対応を行うなど、休暇と仕事を組み合わせたワーケーションの普及も進むでしょう。平日のまっただ中に温泉地に出かけ、観光がてら数泊しながら仕事をこなすことも普通のことになるのです。
そうなれば今まで以上にスマートフォンを使って仕事をする機会は増えます。ところがスマートフォンの画面で仕事をする際、文字や数字入力を多用する場合は向いていないこともあります。文字を打つときにソフトキーボードを表示すると画面が隠れてしまうからです。例えば表計算アプリで数字を入力するとき、ソフトキーボードがあると全体を見渡せません。
ちょっとしたメッセージの返答程度ならソフトキーボードでも十分でしょう。しかし業務内容によってはキーボードスマートフォンのほうが仕事の効率が高まるケースもあるわけです。ノートPCの代替としてスマートフォンであらゆる業務をこなそうとするとなおさらでしょう。OnwardMobilityはテレワーク時代にキーボード付きスマートフォンを必要とするビジネスパーソンが増えると考えたのでしょう。
しかもブラックベリーというブランドの力は今でも健在です。無名メーカーが新たにキーボード付きスマートフォンを出しても勝負は知れていますが、ブラックベリーの名前を冠したスマートフォンが出てくるだけで、多くの消費者は「キーボードが付いたスマホだな」と認識してくれるわけです。
OnwardMobilityは2021年上半期にアメリカとヨーロッパでブラックベリースマートフォンを発売するとのこと。この2つの地域はキーボード文化が根強くブラックベリーを今でも使っているユーザーも多く残っています。販売が好調であればいずれは他の国でも製品を展開してくれるでしょう。
現時点では、5Gに対応しキーボードを搭載する以外に、どんなモデルが出てくるかはわかりません。ブラックベリーといえば縦型ディスプレイの下部にキーボードを搭載したスタイルを続けてきましたから、同様な形状となることは明らかでしょう。またビデオ会議利用を考えフロントカメラを高画質なものにするとも考えられます。
スマートフォンの機能やデザインは時代とともに変わってきました。ニューノーマル時代の到来によりブラックベリーが復活するだなんて誰も予想もしていなかったでしょう。もしかすると来年以降、ブラックベリー以外からもキーボード付きスマホが復活するかもしれませんね。