8月22日、AppleはiPhone 3Gの販売国を20カ国追加した。これにより、世界約40カ国でiPhoneが発売されることになる。今回追加された販売国には、市場の成長が著しいインドや東南アジア各国が含まれる一方、大国であるロシアや中国は含まれていなかった。今回漏れたこの両国でのiPhone発売はいつごろになるのだろうか?
ロシアは3G利用の起爆剤として期待が高まる
8月21日、関係筋の話としてロシア最大の携帯事業者Mobile TeleSystems(MTS)が、AppleとiPhone 3Gの販売契約を結んだとのニュースが飛び込んできた。両社からコメントは無いものの、過去のiPhoneの発売状況を見るとこの手の噂はかなり信憑性が高く、MTSからのiPhone発売は、ほぼ確定したものと見ることができそうだ。また同じくロシアのVimpelcom、MegaFonとも契約合意に達したとの情報もあり、ロシアでは複数の通信事業者からiPhone 3Gが発売されることになりそうである。
ロシアの携帯電話方式は2GのGSM方式が主力であり、3Gは2社がW-CDMA方式を提供している。しかしプリペイド方式の利用者が多いロシアでは、3Gを開始しても新しいサービスの登場や利用者への普及が爆発的に進むとは考えにくい。SMSベースのコンテンツ配信が中心である現状からすると、あえて3Gを利用せずとも2Gの利用で十分だからだ。3Gを提供する事業者のMegaFoneとMTSは、既存の2Gユーザーを3Gへ移行させたいものの、目玉となるキラー・サービスに欠けているのも実情だろう。
しかしiPhoneのようなモバイルインターネットを容易に利用できる端末の登場は、ロシアのユーザーに3G利用を促す起爆剤になりそうである。たとえば今年5月末に3Gサービスを開始したばかりのMTSは、年内に10都市以上、来年には40都市以上を3Gカバーエリアにする予定だ。エリア拡大と同時にiPhone 3Gをユーザーに提供すれば、iPhone人気がそのまま3Gの利用を牽引することになるのは間違いないだろう。ちなみに海外では大手メーカーから多数の3G端末が発売されているものの、2G契約のまま3G端末を使うユーザーも多い。これは3G端末が基本的にW-CDMAとGSMのデュアルモード端末であるからだ。一方iPhoneの販売形態は3G契約を結ぶことが基本となっていることから、iPhoneの利用はそのまま3Gサービスを利用するということになる。
Appleから次のiPhone販売国拡大のアナウンスはまだ無いが、今の時期からするとクリスマスシーズンを迎える10月ころが妥当であろう。この冬は、ロシアの各地でiPhone 3Gの販売光景が見られるようになるのではないだろうか。
複雑な思惑が絡む中国市場
世界最大の携帯電話市場である中国市場は業界再編の真っ只中であり、政府の意向もあることから簡単にはiPhoneを発売できないのが実情だ。特に中国は現在、W-CDMA方式の端末の国内販売を許可していない。これは自国技術によるTD-SCDMA方式の普及のためとも言われている。そのため同方式に対応したiPhone 3Gを発売するためには、政府や関連機関の許可を受ける必要が出てくる。
しかし仮にiPhone 3Gだけが発売解禁となれば、ほかの大手メーカーからも自社の3G端末発売解禁を求める声が出てくるだろう。現在、各メーカーは海外で販売している3G端末を中国向けにカスタマイズし、2G専用モデルとして中国国内で販売している実情がある。Appleだけが特別扱いを受ける正当な理由がなければ、iPhone 3Gを中国で販売するのは難しい。
また中国ではSIMロックビジネスは成り立たない。SIMロックをかけて安く販売した端末は、結局はロックの解析や改造により、SIMロックの無い状態として転売されてしまうからだ。実際、通称「下駄」と呼ばれるアダプターを使うことで、iPhoneのSIMロックを回避して別の事業者のSIMカードを利用することが実際に行われている。強力なSIMロックは、それをはずそうという研究解析の動きを加速してしまい、結果として端末を安価にばら撒くようなビジネスを崩壊させてしまう。iPhoneのSIMロックが強力であったとしても、無料に近い価格で流通されてしまえば国内メーカーを脅かす存在になってしまうだろう。中国政府や中国国内メーカーが、その動きを歓迎するとは思えない。すなわち、Appleが各国で行うiPhone販売方法は、中国向けには見直しが必要になるわけだ。
中国の業界再編は来年には完了する。再編後はGSM/TD-SCDMA方式を提供する中国移動か、GSM方式を提供する中国聯通のどちらかの事業者がiPhoneの販売権を得るものと考えられる。そしてTD-SCDMAの普及がある程度進む来年中に、おそらくW-CDMA端末の国内販売も解禁されるだろう。そのころが、中国におけるiPhone 3Gの発売開始時期になるかもしれない。ただしそれでは遅すぎるだろうから、今後Appleと通信事業者、政府関係機関の間で様々な駆け引きが行われる可能性も有る。さらに体力の強い中国移動にiPhoneの販売権を与えることは、同社の一人勝ち状態を是正するために行った業界再編の意味を無にするものにもなりかねない。そのため最終的には政府がiPhoneの販売事業者の決定に関与する可能性もありうるだろう。