11日にソフトバンクモバイルから発売開始されたAppleの「iPhone 3G」。香港でも同日に販売開始となったが、日本とは違い初日の販売は抽選方式となった。一体なぜこのような販売方法が取られたのだろうか?

香港では"3"(スリー、Hutchisonのブランド名)からiPhone 3Gが販売される

SIMロック端末は"無用の長物"の香港

香港のiPhone 3Gはシェア2位の通信事業者、Hutchison(ハチソン)から販売される。他国同様、iPhone 3Gの購入には同時にiPhone専用プランの契約が必要だ。しかし香港のiPhone 3Gには他国にない大きな特徴がある。それはSIMロックフリー、すなわちどこの通信事業者のSIMカードでも利用できる状態で販売されているのだ。

これは、Hutchisonで契約を行いiPhone 3Gを入手した後、香港のほかの通信事業者のSIMカードを装着して利用できるということを意味する。ソフトバンクやNTTドコモのSIMカードを入れて使うこともできてしまう。SIMロックフリーはGSM/W-CDMA端末の本来の販売形態であり、他の事業者のSIMカードを入れて利用することに関して何のおとがめもない。実際、11日のHutchisonのiPhone 3Gラウンチイベント会場ではその場でHutchisonとの契約を行ってiPhoneを購入・アクティベーション後、それまで自分が使っていた他社のSIMカードを装着してさっそく利用している購入者の姿を見ることができた。Hutchison側のスタッフも見慣れた光景なのか、特に何も言うこともなく、逆に購入者にSIMカードの入れ替え方法を教えていたくらいだ。

iPhone 3Gを購入するや否や、自分の利用しているSmarTone-Vodafone(iPhone販売元のHutchisonではない)のSIMカードを入れている購入者。Hutchisonのスタッフもそれをとがめたり苦笑するわけでもなく「どうぞご自由に」といった対応をしていた

つまり、たとえ通信事業者と契約を行って購入した端末であろうとも、購入者がその後何をしようが一切自由であるのがGSM/W-CDMA方式の本来の姿である。日本のように、各事業者ごとにコンテンツサービスが機種によって左右されることもないし、事業者が契約時に販売し機種以外の利用を認めないような風潮もない。そもそも、SIMカードを自由に入れ替えできるのがGSM/W-CDMA方式の最大のメリットであるし、通信事業者はメーカーブランドの端末を自社で販売しているに過ぎない。

これは日本のiPhone 3Gを見てみれば判るだろう。ソフトバンクが販売しているが、ソフトバンクの型番もないし、ロゴもついていない。iPhone 3Gはアップルの製品であり、ソフトバンクの製品ではないのだ。販売先がソフトバンクなだけであり、他社のSIMカードが利用できないようにSIMロックがかけられているだけであり、ハードウェアであるiPhone 3Gそのものは、他国で売られているものと全く同じものである。海外での通信事業者とメーカー端末の関係は、まさにこのiPhone 3Gと同様のものであることが基本なのだ。

一方で香港は都市国家である。隣の都市へ出かけることがそのまま海外へ出ることになる。毎日のように香港と中国大陸を行き来する香港人の姿も珍しくない。しかし、そのたびに中国で国際ローミングサービスを利用していたら携帯料金が青天井となってしまう。香港(や隣国のマカオ)は中国に返還後も政治経済が独立した"特別行政区"であり、通信事業者も香港と中国では全く別の企業が運営しているのだ。そのため中国滞在中は携帯電話から香港のSIMカードを取り外し、中国のSIMカードに入れ替えて利用するといった使い方も一般的である。

このような背景から、香港で発売される携帯電話はほぼ100%がSIMロックフリーである。もちろん、SIMロックがかけられている端末より価格は割高(これが本来の定価であり正しい価格だが)になるものの、ロックがある端末では結局香港外での利用に多大なローミング費用がかかってしまう。香港ではSIMロックは無用の長物であり、端末価格が安かろうがそれは「見かけ倒し」である、と認識されているのである。

香港のiPhoneが世界中から狙われている?

11日には日本を含む香港以外でもiPhone 3Gが発売開始されたものの、ほぼ全ての国のiPhoneがSIMロックありだ。これに対して香港のiPhone 3GはSIMロックがない。よってiPhone 3Gの発売がまだ始まっていない国などから、香港モデルを入手して転売しようとする動きが販売前から広がっていた。このため、香港では日本のような「行列方式」は一切とらず、抽選販売方式が採用されたのだ。

しかも、抽選の登録には香港居民のIDカード番号が必要であり、同一人物による複数の登録も不可とされた。仮に行列方式やID番号不要での抽選方式を行えば、おそらくHutchisonの各店舗には数日前からアルバイトの行列屋が数百名以上列をなしたであろうし、抽選受付けを行うHutchisonのサーバーは購入希望者1人あたりから1,000以上の応募を受付けてパンク状態となったであろう。

iPhone 3Gは香港のみならず世界中から注目を浴びている製品であり、契約・購入後すぐに転売される恐れがあるだろうとHutchisonが判断したと考えられる。また、Appleとの販売契約でも、おそらく販売初日にiPhoneが転売目的で購入されることは避けるべし、という項目が明記されていたと考えられる。メディアに取り上げられる初日の購入者のほとんどが転売目的というのは、iPhone 3Gのデビューに相応しいはずがないだろう。

携帯電話の転売という行為が一般的ではない日本では考えにくいだろうが、香港では消費者が購入したものをどうしようと何の規制もない。すなわち携帯電話の転売についても、販売する側も購入する側も単純に「欲しい人がいるから転売する」「欲しいものがあるからお金を余計に払って購入する」というだけの行為にすぎない。逆に行列させることは「行列できる人だけが買える」という販売方法であり、香港では不公平と考えられてしまうだろう。日本では行列方法により大いに盛り上がったようだが、香港では逆に抽選方式による販売がイベント会場を大いに盛り上げていた。携帯電話の販売方法が国によって異なれば、話題となる新製品のラウンチイベントもこのように大きく異なる手法が取られるのである。