Motorolaは、LinuxをOSに採用したスマートフォン「MOTO明」の新製品を中国市場に投入開始した。売上げ低迷が続く同社の救世主になるのだろうか?

中国で大ヒットした「MOTO明」

「MOTO明(MOTOMING)」とは、2006年にMotorolaが中国市場向けに発売したMotorola「A1200」のニックネームである。OSにLinuxを採用し、スタイラスペンを利用するタッチパネル、文字の手書き対応、PDA機能、そして透明なフリップカバーに覆われたスタイリッシュなデザインは、若いビジネスユーザーを中心に大人気となった。スマートフォンほど多機能ではないものの、音楽再生や辞書などさまざまなアプリケーションを搭載していることから、手軽に利用できる多機能携帯としてこれまでに累計300万台が販売されたほどだ。

初代「MOTO明」のA1200

Motorolaによる、手書き対応&フリップカバースタイルのPDAライクな機種の歴史は実は古い。まだスマートフォンという言葉もあまり知られていない1999年には早くも「A6188」を中国市場で発売している。手書きで文字が書けスタイラスペンで操作できるということから大きな注目を浴び、高い価格とあいまって「高機能携帯=Motorola」という認識を広め、Motorolaブランドを高めるフラッグシップ的な存在にもなっていった。

この「A」で始まる型番の製品は、その後も同社のタッチパネル対応携帯の代名詞ともなる。2002年にはAccompliという愛称が付けられた「Accompli A388」が登場。自動車のような流線型のフォルムがこれまた大人気となり、翌年にはLinuxを搭載して高機能化を図ったA760が投入されるなど、Motorolaはほぼ毎年のようにこのフリップカバータイプのPDA携帯を開発してきた。

Aシリーズの開発停止がMotorolaの不振の一要因

しかし2006年のA1200以降、Motorolaはこのスタイルの機種の投入をやめてしまった。当初中国市場向けに発売され、その後世界中のGSM市場向けにも拡販されたヒット機種であったにもかかわらず、A1200の後継機が出てくることは無かったのだ。それはどのような理由があったのだろうか。

ちょうど2004年末からMOTORAZR V3が全世界で大ヒットとなり、Motorolaは端末の開発方針をRAZRライクなデザイン重視系に移行していった。また中国市場向けといった特定地域向けの端末開発は停止してしまったのかもしれない。確かにRAZRが世界中で好調ならば、なにも特定の国向けに特別な端末を開発する必要性は無いだろう。

しかしその結果、同社の端末ポートフォリオはRAZRを中心にデザインの似通った製品ばかりとなってしまった。そしてA1200のようなフリップタイプはまるで「古いデザイン」のごとくラインナップから消え去ってしまったのだ。一方でスマートフォンや高機能機種も市場に投入はしたものの、エンターテイメント向けの「ROKR E6」、Windows Mobile OSを搭載したQWERTYキーボード搭載のビジネス向け「MOTO Q」、Symbian OS UIQプラットフォームを搭載した小型のマルチメディアスマートフォン「Z8」など数は少なく、市場での反応も鈍いのが実情だ。

RAZRが大ヒットしたために、スタイルと機能を備えたA1200はRAZRシリーズに統合していく、とMotorolaは考えたのかもしれない。しかしRAZRシリーズに機能を追加していけばいくほど、市場からの反応は冷ややかになっていた。2世代目の「RAZR 2」ではLinux OSの搭載や音楽機能強化モデルの投入を行ったが、市場からは歓迎の声は聞かれなかった。消費者がRAZRに求めていたのはデザインであり、機能ではなかったわけなのだ。スタイルと機能のバランスに優れたAシリーズという「金の卵」の後継機の開発を怠ったことが、同社の今の不振を引き起こした一要因にもなっているように思えてならない。

A1600/A1800の2機種でブランドイメージを回復

2年ぶりに復活する今回のAシリーズは3機種。そのうちA1600とA1800は、A1200に類似した透明フリップカバーを備えた手書き対応のPDAスタイルな機種だ。しかし昔の製品のデザインを復活させたところで、市場で受け入れられる自信はあるのだろうか? 実は中国ではいまだにA1200を使い続けているユーザーも多く、逆に中小メーカーからA1200ライクな製品がいくつか登場するほどになっている。また競合他社からは同じスタイルの機種が過去も現在も存在していない。

2世代目のMOTO明、A1600(左)とA1800(右)。A1800はGSM/CDMAデュアル端末でもある

つまり、A1200系のこの透明フリップスタイルは、今でもMotorolaのハイエンド携帯のイメージそのものになっていると言えそうだ。そして今でもこのスタイルの機種は市場から求められているのではないだろうか。事実、A1600/A1800が発表されるや、中国ではその復活を歓迎する声が多く聞かれている。カメラの高画質化やOCRへの対応、GPSの搭載やパケット通信速度の向上など、機能も申し分ない。RAZR以降注目すべき製品が見当たらなかった同社だが、A1600/A1800は中国市場で久しぶりのヒット商品となる可能性を秘めていそうだ。