11月3日、世界各国でiPhone Xの販売が開始された。筆者の居住する香港でも各地にあるApple Storeは朝から大行列の光景が見られた。だが混乱を避けるため数年前から当日売りは無くなっており、前日夜から並ぶ徹夜組の姿は皆無。香港のセントラルにあるフラッグシップストアには朝から続々と人が集まったが、いずれも事前に予約し当日受け取りを選んだ客だ。

11月3日は香港でもiPhone Xが発売になった

Apple 香港のスタッフが行列を整理し、列に並ぶには予約番号を見せる必要があることから割り込みなどの混乱もなく、1,000人近い来客者が整然と並ぶ姿は壮観でもあった。自分のiPhone Xを受け取った客がその場で開封してさっそく動作を試す姿も見られたが、開封せずに店を出て付近にたむろしている人間と交渉する姿も目立った。そう、買い取り人にiPhone Xを引き取ってもらうのだ。香港では1人2台まで購入できるため、自分用だけではなくもう1台を転売用として買うケースも珍しくはない。

1,000人近い来客が静かに並ぶ。日本とは全く違う光景だ

しかし店の付近はショッピングモールの中であるため、勝手な商売は禁止されている。買い取り人たちは警備員の目を盗みながら出てくる客に声をかけ買い取りを持ちかける。一方、客の方もすぐには売らず数名の買い取り人と値段交渉を行っている。実はここでは買い取り人よりも、売る側の客のほうの力が強いのだ。香港ならiPhoneの買い取り先はそれこそ町中どこにでもあるような状況で、どこで買い取ってもらうのが一番高いかをSNSを通じて情報交換しあうのも当然だ。

店の出口を出ると、怪しげな集団が。現金片手に買い取りを行っていた

その香港でiPhone買い取りが最も熱く行われているのがスマホビルこと先達廣場。店内は携帯電話ショップが100店舗以上入っていることに加え、ビルのそばでは道端に買い取り人たちがずらりと並んで客を待っている。Apple Storeからわざわざここまで直行して買い取りを希望する客も多いのだ。

その路上で話を立ち聞きしていると、午前11時の時点でとある買い取り人が提示した価格はiPhone X 64GBで10,300香港ドル。定価が9,888香港ドルなので売り手は412香港ドルの儲けになる。ところがその値段を聞いた客は「じゃあ他に行く」と言って隣の買い取り人に声をかけようとした。あわてて「では10,400香港ドル」と100の上乗せ。客はこれに納得したのか、iPhone Xを渡すや現金を受け取って消えて行った。

奥のベージュの建物の手前に人が群がっている。買い取り人と客が集まっているのだ

わずか15メートル前後の路上に立ち並ぶ買い取り人は10数名。こんな光景がここでは1日中見られるのである。しばらく見ているとiPhone Xを2台持ってきた青年がいたが、200香港ドルを受け取るとそのまま姿を後にした。これは代理で購入して受領し、それをここに持ってきた、つまり運び屋としての駄賃なのだろう。このように香港は「金でなんとかする」という習慣がごくごく普通に根付いているのだ。ちなみに筆者の知り合いもApple Storeで予約などせず、先達廣場で転売されたiPhone Xを購入した。定価より高いものの、お金を出せば必ず買えるのだ。

香港のスマホビルとも言われる先達廣場

さて先達廣場では買い取ったiPhone Xの販売も即座に行われていた。どの店も価格は大体横並びだが、早い時間ほど値段は高い。すぐに受け取りたい客はタイム・イズ・マネーとばかりに高値でも飛びつくからだ。しかしその値付けも時間を追ってみているとなかなか面白い状況になっている。とある店舗の販売価格を追いかけたところ、1日で下落するだけではなく夕方には値段が上がるケースもあったのだ。

どの店にも在庫があるが、価格は時間とともに変わる

Appleの定価(1香港ドル=14.62円)
64GB:HK$8,588
256G:HK$9,888

某店舗価格:午前11時
64GB:HK$10,800
256GB:HK$12,500

某店舗価格:正午12時
64GB:HK$9,500
256GB:HK$10,800

某店舗価格:夕方4時
64GB:HK$9,400
256GB:HK$11,200

Appleの定価と比べると、たとえば64GBモデルは定価HK$8,588(約12万5,520円)に対し、この店ではHK$10,800(約15万7,850円)と、HK$2,212(約3万2,330円)も上乗せしている。しかしこれでも買う客がいるからこの値段を出しているのだ。午前中の先達廣場内のお店は、どこもこのような価格だった。

ところがビル内を一回りしたあと、お昼時に店主が値段表を書き換えるシーンを目撃した。価格はHK$9,500(約13万8,850円)と、1時間でHK$1300(約1万9,000円)も値下がりしていた。午前中の価格設定が高すぎて仕入れた分が思ったより捌けなかったのかもしれない。あるいは先達者廣場の他の店が値下げしたので、それに追従したのかもしれない。そして夕方になると64GB版はさらにHK$100の値下がりとなったものの、256GBの売れ行きが好調なことからこちらのモデルは逆に値段をあげている。需要と供給のバランスがリアルタイムで動いているのだ。

値段はマーカーですぐに書き換えできるようにして表示されている

iPhone Xの品薄状態が続く限り、香港では買い取り業者と売却客との駆け引きが日常的に行なわれ、各店舗が毎日・毎時間ごとに値付けに頭を抱えるのである。香港のiPhone Xフィーバーはまだしばらく続きそうだ。

先達廣場にはプロのバイヤーも来る。数十台をまとめ買いする姿もよく見かける