「低消費電力」「目に優しい」ディスプレイとして注目を浴びている電子ペーパーディスプレイ。アマゾンの電子ブックリーダー「Kindle」などにも採用されているが、そのKindleも最近はカラー液晶を採用したタブレット「Kindle Fire」のほうに人気が集まっている。モノクロ表示しかできない電子ペーパーは、写真や動画の表示には向かないために、用途が限定されると思いがちだ。

しかし電子ペーパーの特性を生かした端末は今でも開発が進んでいる。ここ数年、複数のメーカーが製品を出しているのが「両面スマホ」。片側は普通のスマートフォンと同じディスプレイを搭載しているが、裏側側は電子ペーパーを搭載しているのだ。

両面スマホは毎年どこかのメーカーがリリース。これはハイセンスのA2

この両画面化のメリットは、電子書籍やコミックを読むときは裏側を使えば消費電力が少なくて済むため、スマートフォンの利用時間を延ばすことが出来る。また目に優しいので長時間の読書も疲れないだろう。電子ペーパーは液晶などと違ってディスプレイそのものは発色しない。そのため一度表示した内容は、電源を切ってもそのまま表示することができるのだ。

たとえば電子ペーパー側に模様を表示しておけば、スマートフォンの裏面にカバーをかけたようなルックスにもなる。その日の予定などを表示しておけば、メインの液晶側の電源が切れていても裏を見れば常に表示されたままで忘備録にもなるだろう。飛行機に乗るときなどは、電子ペーパーにEチケットを表示しておけば、万が一スマートフォンの電池が無くなってしまっても、チケットは表示されたままと、便利に使えるのだ。

電子ペーパーは電源を切っても表示はそのまま残る

このように使い方によっては便利な両画面スマートフォンではあるものの、アプリやサービスごとに表と裏を使い分けるのも面倒なもの。そのため毎年1機種がリリースされるくらいで、普及には至っていない。そこでディスプレイも何もない端末に、電子ペーパーを搭載して付加価値を高めようとしている製品が登場した。

このモバイルルーターは中国の「YouYou WiFi」のもの。世界各国で利用できるルーターで、電源を入れるだけで使うことが出来る。このルーターの片面に電子ペーパーが搭載されているのである。ここには訪問した都市の観光情報などが自動的に表示されるようになっているとのこと。前述したように電源を切っても画面は表示されたままなので、ルーターを使わない時でも現地の観光ガイドブックのように使えるというわけ。

モバイルルーターに電子ペーパーを搭載。観光案内などを表示する

将来はGPSと連動させて、その場所の付近にあるレストラン情報や駅の乗り換え案内などを表示する、なんて機能も検討しているらしい。現地のお店のクーポンを表示する、なんてことも電子ペーパーならではの応用として可能性はありそうだ。

また紙のように書いたり読んだりできる、ノートタイプの製品もいくつか商品化されている。ソニーがこの4月に発売したA4サイズ、13.3インチ(1,650×2,200ドット)ディスプレイの「DPT-RP1」はペンも付属し、電子ブックリーダーとしても使える、自由に手書きできる紙のノート代わりにもなる製品だ。7万9,800円と高価なので一般消費者向けと言うよりもB2B、企業向けとなるだろうが、オフィスのペーパーレス化にも適した製品になるだろう。利用可能時間は無線LANがONでも1週間、オフなら3週間と、電子ペーパーならではの長時間駆動を実現している。

ソニーのDPT-RP1はA4サイズの紙のノートの代替になる

ソニーは過去にも電子ペーパー搭載端末を複数製品化しており、このDPT-RP1の発表に合わせて電子ペーパーの最大手、E-Ink社と合弁会社を設立すると発表。電子ペーパーを使った端末や、関連アプリやプラットフォームの開発まで、総合的なソリューションを開発していく予定だ。高機能な電子ペーパー搭載タブレットなどが登場することに期待したいところである。

E-Inkとソニーは合弁会社を設立

なおE-Inkの電子ペーパーは「Carta」と呼ばれる新世代技術を使っており、画面のコントラスト比が従来品よりも高まっている。画面はより白く、インクはより黒く、そして画面の反射率も高まり見やすさが増している。より紙に近づいたことで、学習用のノートの試作品もと作られている。こちらは1枚あたりのディスプレイの大きさは9.7インチ(825×1,200ピクセル)、A4程度。

学生向けのノートの試作品。ペンで手書きもできる

この2画面電子ペーパー端末は本物のノートのように見開きで使ったり、ノートPCのようにしてメイン画面と手前の画面、のような表示方法も可能だという。手前の画面にソフトキーボードを表示すれば文字入力もできそうだ。スマートフォンの利用者の低年齢化により子供の視力低下が問題になりつつあるが、学校に配置するタブレットは液晶を使う製品よりも、このような電子ペーパー搭載品のほうが視力対策に向いているかもしれない。

ノートPCのような使い方もできるらしい

長時間画面と向き合う記者やライター向けの製品も登場しそうだ。Onyxの「BOOX」はノートPCスタイルのタブレット。いわゆる2in1と呼ばれる形状で、ディスプレイ部分だけを取り外してタブレットとしても利用できる。そしえキーボードと合体させれば、ノートPCのように長文も楽に打てるというわけだ。Android OSで動くのでアプリもインストールできる。

記者などをターゲットにしたBOOX

電子ペーパーには利点が多いものの、それを十二分に生かし切れる製品はまだあまり出ていないのが実情だ。しかしファッション分野など新しい用途展開も始まっている。今後さらに見やすいディスプレイの開発や、カラー化の研究が進めば、ウェアラブル端末などへの応用も進むだろう。電子ペーパーを使った新しい製品が次々と出てくることに期待したい。