チャレンジは3日坊主になってもいい
──就職・転職を考えている読者もいるかもしれません。そういう方へ向けてアドバイスをするとしたら?
就職や転職については、私は経験がないのでアドバイスなどができる立場ではないんですが……。もし何か申し上げられるとしたら、自分がちょっとでもやりたいことや興味のアンテナが向くことがあるなら、それにチャレンジする選択肢も、それを軌道修正する選択肢も、いつも誰もが持っているはずだということです。
チャレンジして3日坊主でやめてしまったとしてもいいんです。3日であろうと半日であろうと、やったことは経験になります。続けられないかもなんて考えてしまうと踏み出せなくなるので、とりあえずカジュアルに気軽に何でもやってみることもできるんだよ、ということでしょうか。
──佐々木さんは実際に、その「やってみる」精神で、東京大学へも進学されたわけですもんね。役立つかどうか分からなくても、挑戦すればいい。
そう思います。「役立つ」かどうかは、後にならないと分からないことですよね。無駄な経験はないと思いますし。これは自分が演技者だからそう思うのかもしれませんが。でも、何かをまだしていない今の自分が、何かをした後の自分のことを判断できるとは言い切れないと思うんです。役立つ、役立たないという基準がすべてではないので、その基準に価値をおくかどうか、その基準に則った行動をするかどうかは自分で決めていいと思います。
とりあえず挑戦してみることをお薦めしましたが、もしやってみて違うなと思ったら、やめてまた別の興味関心が向くことにトライすればいいですし、そのすべての経験が自分という人間の彩りになります。そして、自分で行動してみて初めて分かること、気づくこと、道が拓けることは確実にあると思っています。
これからもパッションの赴くままに
──彩りという点で言えば、前編での「声優の志望者はアニメ以外にも興味をもつ方がいい」というお話とも通ずる気がしました。彩りがないと表現も狭まっちゃうのかなと。
ええ。声優志望者だけでなく声優こそ、ですね。アニメのキャラクターたちは実在する人間ではないですが、私たちの役割は、彼らを、その作品の世界で本当に生きている人として演じることだと思っています。それも、演技者自身とは異なる他人をです。
そうであるなら、演技者は普段から、興味をもつ範囲を狭めずに、フィクションの人物であっても現実の人間であっても「生きている他人」に対する興味をもつことが大切だと思います。ある業界でものづくりをする人は、自分が属する業界のことだけでなく、その業界の外の世界や人や物事を知っている方が、より表現が広がり、深まる可能性があると思うんです。
──今回の話を聞いてエネルギーをもらいました。無駄なことなんてないっていうのは、「もったいないんじゃないか」「今必要なのか」とすぐに悩んでしまう私にとって、すごく刺さる言葉でした。
ありがとうございます。いつも思うんですが、「無駄」かどうかって、一体誰が、どの立ち位置から判断するんでしょうね。それに、一体いつの時点で「無駄」かどうかを判定できるんでしょう。自分で過去の自分の行動を「無駄だった」と思うことはできますが、でもそんなふうにわざわざ思わなくてもいいですよね。
「ああ自分はあの時頑張ったな」、と思う方が自然だと思うんです。「無駄なことなんてない」っていう以前に、無駄かどうかという基準自体が私には正直よく分からないですし、仮に無駄だったとしても、それはそれでいいのではと思います。結果がどうあれ、自分が何かに取り組んだ時間だったことには変わりないので。
──最後に、佐々木さんの今後の目標などがあれば教えてください。
大学卒業後も法学や語学や数学の勉強をしています。今はお話しできるほどの具体的な目標はありませんが、何であれ、興味関心をもつことに対して、これからもパッションの赴くままに向かっていくと思います。自分がこの先何に取り組むことになっていくのか、自分でちょっと楽しみにしていたりもします。
声の仕事の方は、作品や役に出会えるのは縁なので、自分で目標を立てるのとは違うかもしれませんが、日々やり甲斐を感じて楽しく演じさせていただいています。これからも様々なタイプのキャラクターに出会って、彼らが作品の中で本当に生きていくことに演技者として貢献できれば嬉しく思います。
声の表現に関しては、他にも実現させてみたいことがあって、それも構想中です。最近、取材していただく機会がいくつか続いていまして、大体は勉強や東大のお話になるんですが、この記事で私のことを知ってくださった方は、これを機に是非、声優の活動も応援していただけると嬉しいです(笑)。今後ともよろしくお願いいたします!
佐々木望 書き下ろし書籍情報
著者 : 佐々木 望
出版社 : KADOKAWA (2023年3月1日)
発売日 : 2023年3月1日
単行本 : 304ページ