Intelの現行チップセットで、例えばIntel Q45 Expressなど、型番に"Q"が付いた製品があることは、自作ユーザーであればご存知かと思う。これはビジネス向けPC、つまり企業単位で購入するPCに向けたプラットフォームブランドとして展開されている「Intel vPro Technology」に対応したチップセットである。

秋葉原でも入手が可能なIntel Q45チップセット製品。写真はインテル製の「DQ45CB」で13,000~15,000円程度で購入できる。統合型チップセットとして見ても極端に高価ではないことが分かる

個人ユーザーにとっては馴染みがなさそうに思えるが、実はこの"Q"のチップセットを搭載したマザーボード、秋葉原のパーツショップなどでも普通に入手でき、もちろんこれでパソコンを自作してしまうことも可能だ。ただ、意識して"Q"のマザーボードでvProを自作したことがあるユーザーは、さすがに少ないだろう。個人ユーザーであれば、「よく見たら、勤め先のパソコンに"vPro"シールが貼られていた」といったあたりが、せいぜいではないだろうか。

そもそもvProとは、数十~数千単位で導入される企業ユース独特のニーズに応えるための性能、機能を盛り込んでいることを示している。ビジネスの観点において重要な、ROI(投資コストがどのぐらい利益に結びついたかを示す指標)を高めることに重きをおいて提案されているプラットフォームだ。

……と、説明すると小難しいプラットフォームという印象を持たれるかも知れないが、あくまでパソコンである。コンシューマ視点でvProを大雑把にまとめると「"普通のパソコン"として使える上に、さらに機能を追加した"特別なパソコン"」といっていい。vProの性質上、追加機能はビジネス向けの機能となるが、007シリーズの"Q"が生み出した数々の秘密兵器のごとく、インテルの"Q"の機能も非常にユニークで個人ユーザーにも有用なものだ。

さて、本連載は、このvProに準拠したパソコンの自作をメインテーマに進めていきたい。「特別な機能が追加されている」というだけでワクワクしてしまうわけだが、そういった趣味的な楽しみ方以外にも、SOHOをはじめとする小規模な環境であれば、こうしたvPro準拠PCを自作して導入するメリットは大きいだろう。まぁ"本筋は趣味"だったりしないでもないが、一応でも知識として備えていれば、ビジネスユースで役に立つ場面があるかもしれない。

では、さっそく話を進めたいと思う。まずは事前準備として、「そもそもvProとは」の部分をもう少し具体的に説明しておきたい。自作するうえでも、ある程度は全体像をつかんでおいた方がわかりやすいだろう。連載は全4回を予定しており、前半でvProの概要、後半でvPro準拠PCの自作と利用方法といった実用面を紹介していく予定だ。

高性能と低消費電力のバランスに優れたプラットフォーム

まず、はっきりさせておくべきなのは、Intel vPro Technologyは、デスクトップPC向けブランドであるという点で、ロゴマークには「Core 2」の文字が躍る。インテルは、ノートPC向けにもvProを展開しているが、そちらは「Centrino 2 with vPro Technology」と呼ばれ、ロゴマークも異なっている。ここでは、基本的にデスクトップ向けvProを中心に紹介していくが、ノートPC向けvProも同じような効果が得られると考えて構わない。

Intel vPro Technologyのロゴ。CPU、チップセット、LANコントローラの三つの条件を満たしたPCに貼付される。このロゴはデスクトップPCに貼られるものだ

ノートPC向けのビジネスプラットフォームである、Intel Centrino 2 with vProのロゴマーク。スペックに準拠したノートPCに貼付されている

さて、インテルがvProブランドを立ち上げたのは2006年に遡るが、今年10月には第3世代のプラットフォームが投入された。vProは、CPUであるCore 2、対応チップセット、LAN機能の3点セットで構成される。そして、下表にも示したとおり、そのCPUはいずれもCore 2ブランドのものだ。実は、vProブランドが立ち上がった2006年はCore 2ブランドの立ち上げと時を同じくしており、vProブランドがそもそもCore 2の存在を前提としている側面がある。

■表: Intel vPro Technologyの変遷
第1世代 第2世代 第3世代
リリース時期 2006年9月 2007年8月 2008年10月
コードネーム Averill Weybridge McCreary
CPU Core 2 Duo(Conroe) Core 2 Quad(Kentsfield)
Core 2 Duo(Conroe)
Core 2 Quad(Yorkfield)
Core 2 Duo(Penryn)
プロセスルール 65nm 65nm 45nm
チップセット Intel Q965+ICH8DO Intel Q35+ICH9DO Intel Q45+ICH10DO
LANコントローラ Intel 82566DM Intel 82566DM Intel 82567LM
利用可能なテクノロジ Intel AMT2.0 Intel AMT3.0 Intel AMT5.0
Intel VT Intel VT Intel VT
- Intel VT-d Intel VT-d
- Intel TXT Intel TXT

それは、Core 2を中心としたプラットフォームの、性能と消費電力のバランスの良さから来るものだ。マイコミジャーナルのレビュー記事などの例を挙げるまでもなく、Core 2各製品のパフォーマンスと消費電力のバランスの良さ、つまり消費電力あたりの性能の良さに定評がある。ビジネスにおいて、PCの性能はコストに大きな影響を及ぼす。

直接的なコストは電気代である。極端な例を挙げれば、50処理/時の性能と50ワット/時の電力を消費するPCと、100処理/時の性能と25ワット/時の電力を消費するPCにおいて、100処理を実行したとする。前者のPCでは2時間で100ワットを要するが、後者なら1時間で25ワットで収まる計算になる。消費電力当たりの性能が、消費電力に対して非常に大きな影響を及ぼすことが分かるだろう。

また、性能が高いPCへ置き換えることで、処理に要する絶対的な時間が短縮され、従業員の生産性が向上する。生産性の向上は人的コストの抑制にもつながるわけで、やはりここでもコスト削減効果が期待できる……というのがビジネス的な考え方である。

さらに、間接的な効果が期待できる点も忘れてはならない。昨今、環境問題への取り組みも企業イメージにとって重要なファクターとなっている。消費電力当たりの性能が良いITシステムを導入することは、環境へ配慮したシステムを導入するということにもなる。企業によっては、こうした姿勢を示すことがイメージアップに繋がることもあるだろう。むしろ、将来的に見れば、いわゆる"グリーンIT"への取り組みが当たり前のものとなっていき、地球環境に何の配慮もしていないシステムを使い続けている企業のイメージがダウンするだけ、という減点方式的な見方をされるかも知れない。

このことは企業のみならず個人ユーザーにもそのまま当てはまるはずだ。消費電力と性能のバランスについてはCore 2シリーズが高い人気を集めていることが物語るように、個人ユーザーにとっても非常に重要なファクターといえるだろう。また、地球環境保護への取り組みは、世界中の市民が意識しなければならない問題だ。

もっとも、今回の内容は、vProの特徴のなかでも、もっとも基礎的な話で、このプラットフォームの前提となるものだ。追加機能の部分にはまだ到達していない。次回は「可用性(アベイラビリティ)」という点に着目した運用面や、セキュリティに関するvProの機能を紹介したい。実は、vProの本当の凄さはそこにある。