2年目となってしまったコロナ禍の夏。エアコンの使用で、室内を締め切りにしがちだが、換気の大切さは今夏も変わらず。換気の大切さが盛んに言われていた昨年に比べて、今年はその意識が薄れてはいないだろうか。
そこで今回は、国内の空調機専業メーカー大手のダイキン工業で、事業者向けの換気セミナーなどで講師も務める、同社空調営業本部テクニカルエンジニアリング技術担当課長の髙橋弘史氏を訪ねて、改めて換気の基本の解説と、換気にまつわる素朴な疑問に答えてもらった。
厚労省の基準による「換気」の定義
まずは「換気」の定義について。ひと言で換気と言っても、素人にとっては、とりあえず窓を開けて室内の空気を入れ替えるという漠然としたイメージだったりする。
専門家目線で換気とは、まずは厚生労働省(以下、厚労省)がコロナ対策として発表している「『換気の悪い密閉空間』を改善するための換気の方法」という基準が参考になるという。
厚労省の基準では、窓の開放による換気をする「自然換気」の場合は、30分に1回以上、毎時2回以上、数分間程度窓を全開にすることが目安。機械換気設備による換気を行う場合は、1人あたりの必要換気量は毎時30m3を確保することと示されている。
一方、建築基準法に基づいて定められた、機械換気設備に関する法律では、居住空間における1人当たりの必要換気量は毎時20m3。
これは成人男性が静かに座っている時のCO2排出量に基づいた値で、実際のオフィス等では活動している人もおり、厚労省の基準よりも下回り、最低限の基準と言える。
多数の人が利用する商業施設等については、ビル管理法による基準もあり、厚労省基準の1人あたりの必要換気量毎時30m3以上の装置が導入されているケースがほとんどだそう。
ただし「あくまで引き渡し時の条件であって、オフィス等で入居後に間仕切りをしたり、建築当初と構造や設計を変えてしまったりすると、当初の基準を満たしきれていない可能性もある」と注意を促した。
しかし、髙橋氏は「コロナに限らず、ウイルスの感染対策においては、第一はやはりマスクの着用です」と強調する。「ウイルスというのは、飛沫と一緒に拡散しますから、それを阻止する第一の防御策としてマスクが最も有効な方法です」と続けた。
そのうえで、「空気中に一度飛散したウイルスは、大きな飛沫は重力にしたがって下に落ちていきます。しかし、小さく軽い飛沫は一旦天井面へ上昇し、その後、数日間浮遊したり滞留したりしており、換気によってこれを排気することで、感染のリスクを下げられるのです」と髙橋氏。
大型商業施設の換気対策
「前述のとおり、建築基準法やビル管法に基づき、飲食店をはじめ、商業施設、劇場といった建築物は、定められた要件を満たしていなければ引き渡しができないため、換気設備自体は相応のものが導入されていることになります」。基準を満たしていれば、30分に1回のペースで空気自体は完全に入れ替わっているはずなのだ。
映画館や劇場に関しては、ビル管理法に基づいた換気設備が設けられています。このような面積当たりの人数が多くなる場所では、換気の風量を大きく設計する必要があるため、毎時3回転程度の換気量となります。そのため、結果的に厚労省が出している、1人あたりの必要換気量毎時30m3という基準を満たした換気設備となっていることがほとんどです。特に映画館では観客が黙ってマスクをしている状態なので「感染リスクは低いと考えています」とのことだ。
ドーム等の大規模な屋内スポーツ施設についても「極めて安全な施設だと思っています」と話す。
「例えば東京ドームの場合は、屋根膜の膨らみを保つため、ドーム内の気圧が外よりも高くなるように常に空気を押し込んでいる構造なので、観客席付近は1時間に3~4回程度空気が入れ替わり、換気レベルは高い設計となっています」と説明する。
飲食店の換気対策
一方、飲食店に関しては、ケースバイケースとのこと。「基準を満たす換気設備があっても、厨房にしか備わっておらず、客席の換気が十分でないことがあります。また、レンジフードが回っていない、メンテナンス不足で十分に機能していないというケースもある」と言う。
「ひと頃、『夜のお店』がクラスターの発生源になっている例が報道されましたが、そうしたお店は食事の提供と言っても、電子レンジを使った調理程度であったりして、本格的な調理を行わない場合が多いため、十分な換気設備が備わっていないケースがあるためだと思います」と指摘した。
また、ウイルス対策で空気清浄機を設置しているところも少なくないが、「換気というのはあくまでも空気を入れ替えること。空気清浄機は室内の空気を入れ替えることはできませんが、吸い込んだ空気を中のフィルターで濾過させて排出することができるので、換気に近い状態を作ることができ、ウイルス対策の効果はある程度期待できます」と話す。
ただし、空気清浄機を設置する場合には、風量が重要。
「短い時間で空気を濾過することが重要なため、風量が十分なものを設置してください。HEPAフィルターによるろ過式で、風量が毎分5m3程度以上のものを、人の居場所から10m2(6畳)程度の範囲内に空気清浄機を設置することが目安とされています」とのこと。
エアコンのフィルターではウイルスは防げない
ダイキンのエアコンは換気まで行うことができるとしてコロナ禍以降脚光を浴びたが、冷房の場合、通常はあくまで吸い込んだ空気から熱や水分を奪って室内に戻す仕組みなので、空気の入れ替えは行っていない。
エアコンに取り付けられたフィルターはホコリが中に入り込むのを防ぐ目的のもので、ウイルスにとっては目が粗く簡単に通過してしまう。
いずれの場所においても、ウイルス保持者がマスクを外した状態で、くしゃみをしたり咳をしたり、直接曝露を受ければ感染のリスクは高まる。
換気100%の屋外のBBQなどでクラスターが発生した例は「完全に距離の問題です。マスクを外して密接した距離で話したり、飲食したりすることで感染が広がってしまいます。飛沫は前方だけでなく、横方向にも拡散しますので、やむを得ずマスクを外さなければならない時には、ソーシャルディスタンスを守ることが重要です」と髙橋氏。
換気が十分な屋外だからこそ油断をしがちだが、気を緩めないようにしたい。