自ら会社を立ち上げ、これまでに8社のベンチャーキャピタルと事業会社2社の合計10社から、総額3億円を超える資金を調達してきた伊藤一彦氏。自社の経営だけではなく、中小企業診断士として企業支援やベンチャーキャピタルの資金調達にまつわる執筆もされています。
今回から始まる新連載では、そんな現役経営者である伊藤氏が、これまでの経験をもとに、ベンチャーキャピタルからの資金調達についてリアルな現実を語ります。
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まず、最初に、投資を受けるまえの心境を一言でいうと「怖い」という感情であった。何が怖かったのかを振り返ると、ベンチャーキャピタルという存在が何なのかわからないがゆえの漠然とした不安である。
今でこそ、ベンチャーキャピタルからの投資が増えて、情報も身近になったが、我々がはじめて投資を受けた2005年には、まだまだ投資を受けた企業も少なく、情報も乏しかった。そんな中で私が持っていたイメージは、当時流行っていた企業の債権や株式を買い漁って莫大な利益を得る「ハゲタカファンド」であり、投資を受けるまではそのような勝手な先入観を持っていた。
ベンチャーキャピタルとは、企業から見てどのような存在なのか。その本質を理解することが投資を受けるための最初の第一歩である。
まず、ベンチャーキャピタルとは営利目的をもった民間企業であることを認識する必要がある。ベンチャーキャピタルは、上場を目指す企業に投資をおこない、投資先の企業が上場したときに株式を売却して利益を得る民間企業である。
例えるならば、1つ80円のリンゴを仕入れて、100円で売ると20円儲かる。同じように80万円で株を買って、100万円で売れば、20万円儲かる。というように非常にシンプルに考えることができる。しかし、仕入れるものが未上場企業の株式であり、売却するのは、株式上場したときに市場で売るか、もしくは他の企業にM&Aなどを通じて売ることになる。この未上場企業の株式であるという点が大きな特徴である。
企業が創業してから上場するまでのどのタイミングで投資をするのかということがベンチャーキャピタルでは重要になる。再び、リンゴで例えてみると、(1)タネ (2)苗木 (3)実がつき始めた木の3つぐらいの段階で買う時期を考えてみる。
(1) タネを100円で買う。水を与え、肥料をやり、何年か経つとリンゴの木が育ち実を付ける。1つ100円で売れるリンゴが50個なると、100円×50個=5000円なので、5000円-100円=4900円が儲かることになる。しかし、実がなる木に成長するタネは100個に1つぐらいしかない。
(2) 苗木を1000円で買う。同じように、水を与え、肥料をやり、何年か経つとリンゴの木が育ち実を付ける。1つ100円で売れるリンゴが50個なると、100円×50個=5000円なので、5000円-1000円=4000円が儲かることになる。しかし、実がなる木に成長する苗木は10個に1つぐらいしかない。
(3) 実がつき始めた木を4500円で買う。1つ100円で売れるリンゴが50個なると、100円×50個=5000円なので、5000円-4500円=500円が儲かることになる。しかし、時々、実が不味くて全く売れないこともある。
みなさんは、「タネ」「苗木」「実がつき始めた木」のどのタイミングで購入しますか?
この「タネ」「苗木」「実がつき始めた木」を、未上場企業の株式に置き換えると、ベンチャーキャピタルの本質が見えてくる。もちろん、早い段階で投資をした方が儲かる。しかし、リスクは大きくなるし、回収できるまでの期間も長くなる可能性がある。
なお、ベンチャーキャピタルの方々は、我々ベンチャー企業のステージを、シード、アーリー、ミドル、レイターと分類する。このシード(=seed:タネ)という呼び名からもリンゴの例えを想起させるのである。
また、タネを買ってほったらかしているよりも、水をやったり、肥料をあげたり、ときには農業の専門家にみてもらったりする方が育つ可能性も高くなる。同じように、ベンチャーキャピタルも投資をした後にほったらかすよりも、積極的にベンチャー企業の支援をしていくことで上場に向けて育てていくのである。
したがって、ベンチャーキャピタルとは一緒に上場を目指すパートナーであり、怖がることは何もない。しかし、一方で株主としての側面も持ちあわせていることは次回以降で述べていく。
伊藤一彦
1974年大阪生まれ。1998年大阪市立大学を卒業後、日本電気(NEC)入社。ベンチャー企業を経て、2002年営業創造を設立。2012年スマイル・プラスをグループに迎える。2016年にグループ全社を統合し、BCC株式会社代表取締役社長に就任。経営の傍ら中小企業診断士として公的機関での中小企業支援をおこなう。著書「【新訂3版】バランス・スコアカードの創り方(同友館、共著)」「ベンチャーキャピタルからの資金調達〈第3版〉(中央経済社、共著)」