社会人は体が資本。健康維持ために日頃から適度な運動や食事で体調管理を心がけ、定期的に検診を受けている人も多いでしょう。でも、予防接種にまで気を配れている人は少ないのではないでしょうか。
今、世界各地で様々な感染症が流行しています。そうした実状を踏まえ、今この時代を生きていく社会人に必要な予防接種についての知識や情報を、『ナビタスクリニック』理事長で医師でもある久住英二氏に教えていただきました。
駅ナカクリニックが生まれた背景
「我々は、忙しい都市生活者が朝晩に必ず通る駅という場所、改札を出て雨に濡れずに来られる広義での"駅ナカ"に特化した立地で、近隣で働く人々や地域住民のニーズに寄り添った医療提供を目指しています」。
そう話すのは、新宿、立川、川崎の駅ナカで平日夜9時まで診療を行う、『ナビタスクリニック』理事長の久住英二氏。
そもそも、人々の生活動線に合わせた立地展開というのは、コンビニなどの流通業界では30~40年くらい前から当たり前にやってきていること。男性も女性も忙しく働いている今、医療機関もそうあるべきではないかと考えたと久住氏は言います。
「日常の生活動線上に医療機関があれば、わざわざ受診するという感覚が減ります。駅ナカで、平日夜9時まで診療することで、仕事に穴を開けずに医療を受けたいという人々のニーズに応えているのです。
例えば、ナビタスクリニック新宿の診療時間は、平日は夜9時まで、土曜は14時まで、日曜祝日は17時まで。インターネットでの予約受付も行っています。平日訪れるのは主に近隣の会社員の方。予約は8時48分枠が最後なのですが、その時間ギリギリに駆け込んでくる方も結構いらっしゃいます。
患者さんの7割が女性で、風邪や月経にまつわる体調不良のほか、貧血やアフターピルに関する相談もあります。とにかく、求めている人がいるものは全て提供するのが我々のスタイルです」。
さらにもうひとつ、ナビタスクリニックで力を入れているのが予防接種。トラベルクリニックも開設し、様々な予防接種に対応しています。
「ニュースなどで耳にしたことがある方も多いと思いますが、今、世界的には麻疹(はしか)が、日本国内では風疹が流行しており、国はワクチン接種を推奨しています。でも、ただ『予防接種を受けてください』といったところでなかなか人は動きません。だって、本人は痛くもかゆくもないし、悪いところもないのですから。
どこかの誰かのために受けてくださいという呼びかけでは、忙しい社会人が半日つぶして予防接種を受けには行かないのです。
こうした感染症の対策には、いかに予防接種のハードルを下げるかが重要です。そういった点においても、夜の時間帯も受診できる医療機関が、日常の生活動線上、もしくは電車で駅まで来ればすぐに受けられる所にあるということが、医療ニーズを満たす上でのハードルを下げることにつながると我々は思っています」。
グローバル化で感染症が流行する
ところで、なぜ今、はしかや風疹が流行しているのでしょうか。こうした感染症の流行は、グローバル化が一つの要因であると久住氏は言います。
「世界的なワクチンの接種率には地域格差があり、接種率が低い国や地域があります。そうした中、グローバル化で人々が世界中を行き来するようになったことで、免疫のない人を媒介とし、流行が世界中に拡大しているのです。
日本には今、年間3,000万人以上の外国人渡航者がいますから、海外から感染症が持ちこまれるケースも十分にあります。今流行っていないから大丈夫という考えを無くし、社会全体の免疫の獲得率を上げなければいけないですね」。
一方で、予防接種で気になるのが、ワクチン接種に伴う免疫の付与以外の「副反応」について。ネット上には接種に対する賛否両論が、さまざまに流れていますが、実際のところはどうなのでしょうか。久住氏に聞きました。
「ワクチンによる害というものはほとんどありません。アナフィラキシー反応が起きることはごく稀にありますが、ワクチンによる発病はゼロ。はしかのワクチンを打ってはしかになることはありません。ワクチンは十分安全なんです。
それでも、10万分の1のリスクも避けたいという場合、周りの人がみんな予防接種を受けていて、その病気が流行していない状態だったら、自分だけ受けないというフリーライドは可能です。ところが、そんなフリーライダー、つまり免疫のない人が5%を超えてくると、流行は起きてしまいます。
実は、カリフォルニアで2015年に起きたはしかの流行はまさにそれでした。フリーライドしていたのは高学歴で高所得な人々。なぜなら彼らは病気になっても医者にかかれるし、自分でネットなどを通じていろいろ勉強した結果、誤った結論に達してしまったんですね。
このように、合成の誤謬(※)というか、受けない方が害がないという人が積もってくると、とたんに前提条件が変わってしまう。こうした状況が、実は今、全世界的に起きています。それも、はしかが世界的に流行している一因なんです」
(※)個人 (もしくは部分) にとって真実であることは、集団 (もしくは全体) にとっても真実であると誤って認識すること
予防接種は、自分のみならず、身近な人や大切な人を感染症から守る手段。それは、疑う余地のない明らかな真実であると久住氏は言います。
東京2020を来年に控えた今こそ、予防接種に関する正しい知識を入手したり、過去の自分の接種歴を見直してみたり、新たに必要なワクチン接種を検討してみてはいかがでしょうか。
取材協力: 久住英二(くすみ・えいじ)
医療法人社団 鉄医会 ナビタスクリニック(新宿・立川・川崎)理事長/内科医
1999年、新潟大学医学部卒業。虎の門病院内科研修を経て、2004年に同病院血液科医員。2006年から東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム部門研究員。2008年に「ナビタスクリニック立川」を開業。2012年には川崎駅、2016年には新宿駅にもクリニックを開設。"すべての人にとっての良い医療"を追求し、先進的な取り組みを積極的に行っている。