7月26日のことになりますが、参議院の「社会保障と税の一体改革に関する特別委員会」に参考人として招致されました。今回と次回、その際にお話しした内容を掲載したいと思います。と言うのも、今回の参議院での発言は予てから私自身が執筆活動を通じて訴えてきたことでもあり、こちらの連載を読んで下さる皆様にも、持論をお伝えできればと思った次第です。

実際に話をしている内容は、参議院のサイト(http://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php)で7月26日に入っていただいて、『社会保障と税の一体改革に関する特別委員会』の発言者一覧のボタンをクリックしますと岩本沙弓が出て参ります。よろしければご覧下さい。

委員会での時間は15分と決められていましたので、実際の発言は今回ここでご紹介するオリジナル原稿よりも短めのバージョンとなっています。詳しい説明を時間の都合で省いた部分については( )内に注釈として、つけておきました。


大阪経済大学 経営学部で現在客員教授をしております岩本沙弓と申します。現職の前はアメリカ、カナダ、オーストラリア、日本の金融機関において、国際金融取引に16年間ほど従事して参りました。為替取引の他、先物為替取引、短期金融市場取引、通貨オプション取引、日本国債先物取引などの経験がございます。

そういった経緯を踏まえまして、本日は国際金融の現場からの切り口として、日本の国債がデフォルトする可能性があるのか、そして財政危機とされる数値が正確なのか、という点についてお話をさせていただければと思います。

1000兆円は「『政府の借金』であって国全体の借金を示しているものではない」

本年5月、新聞紙上、あるいはテレビなどで、一斉に「国の借金は昨年度末960兆円、今年度末に1000兆円突破へ」というニュースが伝わったのは記憶に新しいこと思います。960兆円に関しましては、資料(1)の2012年5月10日に財務省から発表されました平成24年3月末時点での「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高」の報道発表を受けてのことでございます。合計金額の欄に960兆円が確認できます。

資料(1) http://www.mof.go.jp/jgbs/reference/gbb/2403.html

(出典 : 財務省Webサイト)

1千兆円を突破する見込みという点につきましては、資料(2)の「平成24年度末(見込)の国債・借入残高の種類別内訳」で示された合計1086兆円の見込みを指しているものと思われます。

資料(2) http://www.mof.go.jp/jgbs/reference/appendix/23zandaka02.pdf

(出典 : 財務省Webサイト)

以来、国の借金の論拠とされています1000兆円ですが、ここで線引きをさせていただければと思います。メディアなどでは「国の借金」と報道されますが、「国」と言いますと政府も国民も民間企業も日本の全ての経済主体を含んだ表現になってしまいます。財務省自身も「国の借金」とは発表しておりません。それは、この数字が「政府の借金」であって国全体の借金を示しているものではないからです。

日本国債デフォルトの可能性「『あり得ない』という認識でございます」

まず、日本国債のデフォルトの可能性ですが、先に結論を申し上げますと、それは「あり得ない」という認識でございます。既に広く知られている通り、日本政府の借金は日本国民によって賄われています。最新のデータではその比率は92%です。自国内で借金の貸し借りが成立している限りは、政府が自国民から借金をしているだけなので、国家全体が負担を背負うことにはならない、という考え方をいたします。言うなれば、家庭内でお金の貸し借りをしているだけなので、さほど深刻な状況ではない、という見方です。

しかし、もし、政府の借金が海外からの借り入れだとするならば、状況は180度違ってまいります。この場合は国民が働いて、海外に対して借金を返済しなければなりませんので、国民の負担となります。ギリシャなどがその典型的な例となります。

政府が自国民から借金をしている日本の場合、国債のデフォルトの心配は無用である、という点については先日来、本会議でも取り上げられている財務省が10年前に公表した「外国格付け会社宛意見書要旨」の中に書いてある通りでございます。

http://www.mof.go.jp/about_mof/other/other/rating/p140430.htm

(※注釈:2002年に格付け会社が日本に対する格下げを発表、ボツワナ以下となったことを受けて、当時の財務省が格付け会社に対して抗議の意味も含めて送った意見書)

「日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない」、「国債はほとんど国内で極めて安定的に消化されている」、つまり自国民に賄われている点を根拠として財務省ご自身が訴えておられることです。国際金融の現場におきましても財務省の見解と同じ認識であり、日本の場合は「政府の借金=国民の資産」である以上、今の状況での日本国債のデフォルトは考えられません。

(※注釈:日本もギリシャのようになる、とよく引き合いに出されますが、ギリシャの場合は「政府の借金=海外の資産」ですので、全く別の話です)

10年前と状況は違っている、あるいは海外勢の動向を心配される向きもありますが、例えば、債券ファンドとして最も有名な米パシフィック・インベストメント・マネジメント(通称PIMCO)は今年の5月の時点で、日本の場合は経常黒字を当面維持できるため、各国と比べて相対的にはマシな状況である。デフォルトも考えにくいとしています。

また政府の借金1000兆円はGDP比では200%を超えているという点も財政破綻へと結びつき、増税は待ったなしの理由に使われております。しかし、政府債務がGDP比で何%の水準を超えたら財政破綻となる、という基準はございません。例えば2008年にノーベル経済学賞をとったポール・クルーグマン教授などは過去のイギリスが250%以上の債務残高があっても破綻しなかったことを例にあげ、日本が債務危機に直面している考え方は間違っているとインタビューでも答えております。

(※注釈:PHP研究所『Voice』2012年2月号)

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執筆者プロフィール : 岩本 沙弓(いわもと さゆみ)

金融コンサルタント、経済評論家、経済作家。大阪経済大学 経営学部 客員教授。1991年東京女子大学を卒業し、銀行在籍中に青山学院大学大学院国際政治経済学科修士課程終了。日、米、加、豪の大手金融機関にて外国為替(直物・先物)、短期金融市場を中心にトレーディング業務に従事。その間、国際金融専門誌『ユーロマネー誌』のアンケートで為替予想部門の優秀ディーラーに複数回選出される。現在は、為替、国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、英語を中心に私立高校、及び専門学校にて講師業に従事。新著『世界恐慌への序章 最後のバブルがやってくる それでも日本が生き残る理由』(集英社)が発売された。