「もう3年目なのに主体性が低いのですよ。言われたことしかやらない若手が多くて……。口を酸っぱくして自分から考えて動くよう気合いを入れているつもりなのですが、なかなか変わってくれません」
管理職研修の現場でこういった声を非常によく耳にします。
しかし課題解決には「気合いを入れる」ことよりも、まずは、自身がリーダーとして作りあげている「環境」に目を向ける必要があるのです。
人間は成長する動物
というのは、
・「受け身」から「能動」へ
・「他者への依存」から「自立を目指す」へ
・「単純な行動」から「多様な行動」へ
・「浅い関心」から「より深い興味」へ
・「目先の短期的視点」から「長期的視点」へ
・「従属的な地位のままでよい」から「上位の立場になりたい」へ
・「自己認識の欠如」から「セルフマネジメント」へ
「人は「環境」に順応・適応しながら上記のように変化・成長していく」という「未成熟・成熟理論」という考え方があります。
本来、人間は多くのリーダーが願う「理想形の形」で成長していく動物。変化(成長)がいつまでもないということは、どこかに課題があるはずです。
成長を阻害する4つの環境
目を向けるべきところは、環境(チームカルチャー)です。この理論の提唱者で経営学者のアージリスは、以下のような環境に身を置くと、その成長が阻害されると指摘しています。
「担当業務が同じことの繰り返し」という環境(専門化の原則)
「その業務のスペシャリスト」というのは、組織にとっても個人のキャリア形成にとっても有益だともいえます。しかし一方で、「同じことだけを淡々と繰り返す」といった業務の振られ方では、やりがいも薄れてくるのではないでしょうか。
「絶対的な権力者が全てを決める」環境(指揮統一の原則)
指示命令系統を明確にすることは、組織効率を高める上では必要な面もあります。しかし、このカルチャーが強すぎると、自発的な目標設定などは起きづらくなりませんか。
「言われたことに意見を挟むことができない」環境(命令系統の原則)
「上長の意見に従う」ということも組織では必要な面もあります。しかし上司が絶対的な存在で、部下たちに「ハイかYES」しか認めないような環境では、自分の意見を持とう、自分で色々と考えよう、といった能力は育まれません。
「権限が全くといいほど与えられていない」環境(管理範囲の原則)
例えば「1,000万円の広告費を部下の権限で自由に使える」いったことは、現実として難しい企業が大半でしょう。ある程度の制限は必要です。
しかし中には、クライアントを訪問する際の交通ルートまで上司に逐一報告して承認をもらい、時に「こちらのルートならば50円安いだろ」といったフィードバックを受ける企業がありました。こういった極端なケースだと、「与えられる権限があまりにも少ない」環境で前向きな意欲はわきません。
上司がするべき3つのこと
もし若手の成長スピードが遅い・意欲が低いと感じるなら、こういった環境(=チームカルチャー)を無意識に作りあげていないか、振り返ってみてください。組織では上記のような側面が必要ですが、大切なことは「度合い」です。
この4つの度合いが強すぎると、大半の人は意欲をそがれ、「転職しよう」「自己成長を期待せず、受け身の姿勢でいよう」「最低限のことだけやっておこう」と考えるようになってしまいます。
もしそういった環境をつくっていまっているとしたら、以下のような3つの改善策が効果的だと、アージリスは提案しています。筆者の現場感としても、育て上手なリーダーはこういったことを実践している印象です。
職務の幅を広げる手助けをする(職務の水平的拡大)
例えば、アプリ開発のエンジニアを統括するA氏は、フロントエンドエンジニア(=アプリをつくる役割)の部下Bさんに、本人の意向も聞きながら少しずつバックエンド(=裏で動いているデータベースなど)の仕事も降り、幅を広げてもらうような仕事の任せ方をしていました。
さまざまな業務を経験してもらい、幅を広げる手助けをすると成長実感が生まれ、主体性も育まれます。
対話の機会をできる限りつくる(参加型リーダーシップ)
ただ一方的に「あれやれ・これやれ」ではなく、きちんと対話をしてメンバーの意見を聴き(≠説得する)、納得して業務に取り組める環境であれば、意欲は高まります。
自分・他人・組織を理解させる手助けをする(感受性訓練)
定期的な面談(評価面談ではなく1on1といった対話の機会)の機会を設け、その人には、どんな持ち味があり、他のメンバーやチームからどんなことを期待されているか?を本人にフィードバックし、認識してもらえば、本人の行動が変わるはずです。
組織の秩序を保ちながら、個々人も尊重される「環境」をつくることが、「気合いを入れる」といった指導よりも先にやるべきことだと言えるのではないでしょうか。