「部下・後輩に、適切な目標設定をしてもらうのが、なかなか難しい。形式だけのものになってしまう」といった声をよく聞きます。
今回は、部下・後輩に対して、どう目標設定をさせると効果的か? を考えていきましょう。
目標設定で留意する3つの視点
「目標」といえば、年始に「今年の目標」を立てる方も多いでしょう。ただ、「達成した試しがない」という方も多いのではないでしょうか。
目標が達成できない理由のひとつとして「●●ができたらいいな」という願望にすぎないものだった、ということが考えられます。
目標は行動の積み重ねで達成できるもの。機能させるには「行動を引き出すもの」として設定する必要があります。
行動を引き出す目標にする上での留意点は「書き方」「難易度」「意義」の3つです。一つひとつ掘り下げていきましょう。
相手を見ない目標設定は離職につながる
まず、書き方は「具体的で期限が設定されたものにする」ことが大切です。心理学者のエドウィンロック博士は、研究の成果から、目標を設定する際には、「1:具体的であること」「2:期限が設定されている」ということを提唱しています。
期限:何月何日までに
具体的:100万円の売り上げを立てる
といった形です。ここはスムーズにできますね。
次に難易度です。「目標は高く!」ではなく、「これならやり切れる!」と本人が感じるところに置く必要があります。
J.W.アトキンソン博士が提唱する「期待価値理論」で、目標設定は「これならできそうだ!」と達成の可能性が高いと感じる難易度であることが大切だ、と述べています。
ここで知っておくとよいのが、人は「達成動機型タイプ」と「失敗回避型タイプ」に大きく分かれるという点です。
前者は前向きなタイプで、「成功して誇りを得ることを大切にしたい」という傾向が強い人のこと。
このパターンの人は「『この目標は50%の確率でクリアできそうだ』と本人が感じるところに目標を設定すること」が効果的であることが、研究の結果で分かっています。ある程度の背伸びが求められる難易度のところに設定すると、有効に機能するのです。
もう一方の「失敗回避型タイプ」とは、後ろ向きなタイプで「恥をかくのがイヤだから失敗だけはしたくない」という傾向が強い人のこと。
このパターンの人は、「『この目標は100%の確率でクリアできそうだ』と本人が感じるところに目標を設定すること」が効果的であることが判明しています。比較的ハードルが低いところから始め、徐々に時間をかけてハードルをあげていく育成スタイルが求められるのです。
この見極めをせず、高い目標を強制すると「強烈なストレス」を相手に与え、早期離職やメンタル不調を促進する可能性が高まります。
仕事が苦痛になる目標設定とは
若手の高い離職率が問題になっていた、ある不動産販売企業の若手の営業社員たちにインタビューしたところ、多くの上司が以下のように目標を設定していました。
・支店長が無茶なレベルの目標を強制
・高い営業目標を一方的に割り振る
これでは、離職者が増えるものも当然でしょう。いろいろな事情があると思いますが「相手に合わせる」が原則になります。
最後に意義です。
先に紹介した期待価値理論では、適切な難易度設定に加え、「これをやることは自分にとって価値がある」という実感を与えることが必要だ、とも定義しています。
ポイントは「会社にとって」に「あなたにとって」という部分を加える点です。例えば、次の2つを上司から言われたとしましょう。
1:チームの売り上げ目標の達成のために、がんばって目標達成しよう
2:チームの売り上げ目標の達成のために、がんばって目標達成しよう。それが「あなた個人の将来のキャリア」にとっても「~という価値」を生むのだから
後者の方が、意欲が湧きませんか? 先に紹介した不動産販売企業では、こんな声もありました。
・割り振られた目標は「気合いでやれ」「四の五の言わずやれ」「『やります』以外の返答は認めない」と言われる
これでは、仕事に対して何の価値も感じられないでしょう。仕事が苦痛にしかならず、離職率が高くなるのも当然です。
部下・後輩の目標設定をする際には、この3つの観点を配慮してみてください。