某販売会社の新人Aさんのストレスの源は上司Bさん。特に進捗ミーティングが毎度、メンタル的にしんどい……と言います。
「オレが新人のときは、オマエの2倍以上の売り上げを立てていたぞ。できないことはないんだよ」
「もっと気持ちを前に出せよ。お客さんに食らいついていくんだよ」
こういった時間がずっと続くので、「すみません」以外、言うことがなく、ともかく「怖い」と。
若手に仕事を教える目的
うーん、確かにしんどいですね。こういったミーティングのあとに残るものは恐怖(不快感)だけで、何の生産性もない時間になっているのが事実ではないでしょうか。
私は、若手に仕事を教えることの目的は、「相手を効率的により高く戦力化するための手助け」と定義しています。この目的から逆算して考えた場合、部下が「数字が上がらない」「メンタルが壊れそうだ」と言っている以上、どんな哲学をもって教えていたとしても、良い教え方とはいえません。
新人を教える時のNGポイント
Bさんの教え方には、問題点が3つあります。1つ目は、「相手の気持ち」を無視して恐怖で支配しようとしている点。
「他者報酬追及型」と言いますが、恐怖で支配する指導の先にあるのは、「仕事=上司の顔色をうかがうためのもの」という思考パターンの植え付けです。これは、メンタル不調を引き起こす元凶になります。
2つ目は、「自分ができたことは、他人もできて当たり前だという前提」に立っている点。
「何かを評価する際に、うまくいった人もいれば、そうでない人もいるのに、成功例にだけ焦点を当て、それが当たり前」という考え方を生存バイアスといいます。
「自分ができたことは、誰もができて当たり前」という前提で話す上司は、まさにこの生存バイアスに捉われているのではないでしょうか。
最後は「フィードバックの内容が精神論」だという点。もちろん精神論の伝達が効果的な人や、大切な場面もあるでしょう。しかし、相手のレベルや状況に合わせてこそ、効果を発揮するものです。
(詳しくは、次回の連載で書きますが)、特に相手が初心者の場合、初めに与えるべきことは「自分がうまくできた」という達成感です。
Aさんは、新人です。経験が浅く、スキルもまだあまり身に付いていない人に対して、精神論をぶつけたところで、何をどう変えればよいのかがイメージできません。これでは「達成感」を与えることは難しいでしょう。
新人を教える時のコツ
新人で経験の浅い人を指導する際は、上記3点の反対の育成術が必要となります。
「相手の気持ち」を尊重し、安心・安全な空気感をつくる
「人間は、何かを学ぶ際、プレッシャーを与えられる環境よりも、『安心感』を与えられるほうが、学習効果が高い」という心理学の実験結果があります。
進捗ミーティングという、ある意味フィードバックの場であれば、例えば、「これからAさんが、どう成長していくか? そのためのヒントを掴む場にしよう」といったことを冒頭に伝え、おだやかな空気感をつくることも上司・先輩の役割です。
「能力・意欲格差は存在する」前提に立ち、相手基準で話をする前提に立つ
誰もが自分と同じ能力・意欲をもっているわけではありません。その前提に立ち、「相手のレベルに合わせる」という視座で向き合う方が相手の成長スピードは高まります。
「具動客ルール」でフィードバックする
具動客ルールとは、「具体的に何をどうしたらよいのか」が明確に伝わる伝え方のことで、「具→具体的に伝える」「動→動詞で伝える」「客→客観的に伝える」の3つを満たしたものです。
例えば、あなたが料理未経験の初心者で、料理の腕を上げる目的で料理教室に入学したとしましょう。鍋に調味料を入れる段階で、どんなアドバイスがありがたいですか?
(1)「料理は心です。愛を込めて調味料を入れましょう!」(精神論)
(2)「しょうゆ、みりん、料理酒を適量入れてください」(抽象論)
(3)「しょうゆを大さじ2杯、みりんと料理酒を小さじ1杯、入れてください」(具動客ルールを満たした具体論)
(3)ではないでしょうか? なぜなら、「初心者」に最も「うまくできた」という達成感を感じさせるのに効果的な伝え方だからです。
(1)は初心者には意味不明です。(2)も「適量」というのは人によって解釈が変わるものです。もちろん、ある程度の経験がある人であれば、自分なりに想像して考えられるかもしれませんが、初心者には「適量」とは、どれくらいの量なのか想像がつきません。
いかがでしょう?
「自分がどう教えたいか」よりも、「相手どう教えたら最適か」
「気合を入れるといった精神論を説く」よりも、「相手にどう達成感を与えるか?」
この視点に立った「教え方」が重要です。