注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、NHK Eテレ『100分de名著』(月曜22:25~)の秋満吉彦プロデューサーだ。

難解で手に取ることをためらったり、挫折してしまう1冊の「名著」を、25分×4回=100分で読み解いていく同番組。現在の問題と直結するテーマの本を相当前から決める苦労や、深夜ラジオ並みに内面を語る司会・伊集院光の魅力のほか、名著に導かれるように歩んできたテレビマン人生を語ってくれた――。

  • 『100分de名著』の秋満吉彦プロデューサー

    秋満吉彦
    1965年生まれ、大分県出身。熊本大学大学院修了後、90年に日本放送協会(NHK)入局。『くらしのジャーナル』『おはよう日本』『BSマンガ夜話』『おーい、ニッポン』『日曜美術館』などを担当し、千葉発地域ドラマ『菜の花ラインに乗りかえて』のプロデュースも。14年NHKエデュケーショナルに異動し、『100分de名著』を担当。『100分de平和論』『100分deパンデミック論』で放送文化基金賞優秀賞、『100分deメディア論』でギャラクシー賞年間優秀賞を受賞した。著書に『「名著」の読み方』『行く先はいつも名著が教えてくれる』などがある。

■番組が継続する視聴率以外の理由は…

――当連載に前回登場した元テレビ朝日・東宝プロデューサーの山田兼司さんが、秋満さんが手がけられている『100分de名著』について「テレビはフローのメディアですが、ストックのパワーもあって、下手な教科書よりも素晴らしいなと思ってます」とおっしゃっていました。

素晴らしい視点ですね。外部からの指摘で自分でも気付かなかった魅力に気付かされた感じがします。

――また、「カミュの『ペスト』の回はコロナ前に予言していたかのようで、あんなに難しい本をあんなに噛み砕いて分かりやすく伝えるのが素晴らしいと思っています」とも。

最初の放送はコロナの2年前くらいだったんですよね。緊急事態宣言下に再放送をしたら本放送より反響がありました。『ペスト』はパンデミックものですが、原発事故や全体主義の問題などいま私たちが置かれている状況にできるだけ解釈を広げて普遍的に扱ったんです。再放送の後に伊集院(光)さんと「あんだけパンデミックの問題からずらそうとしたのに、改めて新型コロナ禍の最中にみると、今のこと書いてあるとしか思えないよね。解説もそれにつながっていて名著ってホント恐ろしいね」って話しました。過去に作ったものを改めて見て驚いたという。そこを注目していただいているのは、さすが山田さんです。

――そもそも秋満さんが『100分de名著』に関わるようになったのはいつからですか?

僕は立ち上げメンバーではなく、2014年の7月から担当になりました。もともと『超訳ニーチェの言葉』とか『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』のような、名著を軟らかく噛み砕いて一般の人にも読みやすくする本がベストセラーになって、それをテレビでもできないかというのが企画の始まりだと聞いています。それで2010年に『一週間de資本論』というパイロット版がつくられたんです。ちょうど教養番組の切り替えの時期だということもあって、月替わりのシリーズにしたら後継番組としてなんとか成立するんじゃないかとスタートしたそうです。最初はもういつ終わってもおかしくないくらいの視聴率だったと前任者から聞いています(笑)

  • 『100分de名著』司会の伊集院光(左)と安部みちこアナウンサー  (C)NHK

――それでも10年を超える長寿番組になりましたね。

もちろんいろいろな要因があるんですけど、ぶっちゃけるとその理由のひとつに、歴代の教養番組の中で最もテキスト(※)が売れたからというのがあるんですよ。テキストはしばらく書店に並んでいることが多いので、それをきっかけに番組の名前を知ってくれる視聴者もかなりいたそうです。

(※)…番組と連動して出版される書籍。

――ああ、なるほど!

僕は視聴者として見ている頃から大好きで、自分がやるなら絶対に長寿番組にしたいという気持ちがあったので、自分なりにコンセプトを作ったんです。それまではどちらかというと世界文学全集に出てくるような名著を丁寧に分かりやすく解説する伝統的な教養番組というイメージだったんですけど、僕は「名著は現代を読む教科書である」というキャッチフレーズを勝手につけて、いま現在起こっている問題とダイレクトに直結するものとして読み解くようにしました。先ほどの『ペスト』もそうでしたけど、普遍的な名著ってあたかも予言したかのごとく、いまの状況にぴったりなことが書かれているんです。そんな視点を大事にして、毎回名著を選んでいます。

11月7日スタートでアンコール放送されるル・ボン『群衆心理』も、「権力やメディアが群衆心理をいかに操るかという手口」や「人はなぜ陰謀論を信じてしまうのか」といった、まさに今起こっていることを分析した名著です。ぜひ多くの皆さんにご覧いただきたいですね。