注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、フジテレビ系バラエティ番組『芸能人が本気で考えた!ドッキリGP』(12日は19:00~21:00)の総合演出を務めるIVSテレビ制作取締役の中村秀樹氏だ。
「秒でドッキリ」シリーズなど、毎回何十発ものドッキリVTRを放送する同番組だが、古典的なアイデアから最新技術を活用したものまで、次々に新作を放ち続けることができる背景には「飽きられるのではないか…」という恐怖との闘いがあるのだという――。
■他のバラエティで見ないダイナミックな映像を
――当連載に前回登場した日本テレビの島田総一郎さんが、中村さんのことを「『鉄腕DASH』で無人島にSLを走らせたいとか、『ウルトラマンDASH』でもすごくスケールが大きい企画を立てながら、雑じゃなくて、正義がある」とおっしゃっていました。“正義がある”というのが印象的だったのですが、意識されている部分はあるのですか?
いえいえ全く(笑)。自分が面白いと思い、視聴者が面白いと思ってくれるものを純粋に作ろうとしているだけで、正義がある番組を作ろうと思ってやってる人は少ないんじゃないですかね? 『ドッキリGP』で「さすがにこれはやりすぎだろう」って思うときは正義感出ますけど(笑)
――“スケールの大きさ”という部分は意識されていますか?
そこはありますね。映画が好きなので、『ウルトラマンDASH』だと、いかに他のバラエティで見ないダイナミックな映像を撮るかというのは、非常に意識しています。電車の中やコンビニで足をつけずにロッククライミングをやるとか、チャンネルを回したときに「なんだこれ!?」っていう違和感を作ろうとしていますね。他の番組も同じで、『ドッキリGP』でも“画が新しい”というのはとても意識しています。
――島田さんは「フジテレビの土曜8時という超名門の時間帯で総合演出をやっているのがうらやましい」ともおっしゃっていました。『ドッキリGP』の前の『世界!極タウンに住んでみる』から“土8”を担当されていますよね。
『めちゃイケ』はすべて見ていた大好きな番組でしたし、学生時代から「演出ってこういうことなんだ」と感じていた番組なので、『極タウン』でその次のバトンを受け継ぐことになったときはさすがに「マジか?」「できるかなあ…」という気持ちがあったんですが、やってるうちにだんだん薄らいでいくし、もう結構タイムシフトで見られていますからね。
結局『極タウン』は振るわず、半年たって以前から特番で4回ほどやっていた『ドッキリGP』で枠を引き継ぐことになったんですが、『めちゃイケ』の後を自分で一旦焼け野原にしてしまったので(笑)、一からある程度フラットにやれています。とにかく面白いものを作り続ければ視聴者が戻ってくるはずだと思いながら、若い子が「テレビってやっぱり面白い」と思ってくれるものを作るというのを必死にやっているのが現状ですね。
――再び『めちゃイケ』のような純度の高いお笑いの番組になって、喜んだ視聴者も多かったと思います。
初回2時間SPで(関東地区世帯視聴率)10%を超えたので、「あぁ、やっぱりこういうのをみんな見たいんだな」と思いました。いろんな理屈や情報を詰め込んだ番組より、なんの情報もないけど「とにかく面白かった」と刺さったのかなというのがありました。
――先ほどおっしゃった『めちゃイケ』から学んだ「演出」というのは、どういう部分ですか?
構成や物語がオチに向かってしっかり練られていて、そこに向かって演者さんがそれぞれの立ち位置を守り続けていくという“設定”っていうんですかね、それがバシッと決まっていてそこに向かってブレずに走る感じ。ドキュメントをやっているフリしながら予定調和コントしているというか。
番組ってやっていくうちにどうしても現場で転がっていった面白い方向に行こうとして、編集でもそこを使おうとするんですけど、そういうブレたところがない。それに、SMAPのコンサートに岡村(隆史)さんが乱入するとか爆発的な企画がありながら、いわゆるタレントバラエティの見せ方もある。そういう部分を学びながら楽しませてもらった感じですね。
■「ドッキリ番組」と銘打つことで…
――いわゆる「ドッキリ」の番組を担当するのは、『ドッキリGP』が初めてですか?
初めてですね。でも、バラエティの演出って普通の番組でもドッキリに近いんですよ。『鉄腕DASH』や『ウルトラマンDASH』をやってるときも、TOKIOさんに言わないことっていっぱいあるんです。「次にこれがあるから」って説明しちゃうと面白くなくなるので、演出を隠しておいて、TOKIOさんがどんなリアクションをするのかというのを、Aパターン・Bパターン・Cパターンと仕掛けを考えおくというのは、いろんな企画でやっていたので。ディレクターは皆さん「演者には隠しておこう」というのはやってると思います。
――驚かせて素を出すというところですね。でも、改めて「ドッキリ」と銘打つと難しいところはありますか?
難しいですね、完全に「ドッキリ番組です」って言ってるので、その分見ている方も目線が上がっていますから。人を驚かす(=サプライズ)ということは人間の根底にあるものだし、原始的でシンプルで番組の説明を何もする必要がない分、どんどん内容に進化を求められるんです。手法や切り口の角度をどんどん変えていかないと飽きられるのでは…という恐怖との闘いです。
それと、ドッキリって基本、人を一瞬嫌な気持ちにさせる可能性があるものなので、特にターゲットにリスペクトと愛を持ってスタッフ一丸で臨んでいます。その中で最近、ネタバラシをした後、「ドッキリGPが来てくれてうれしい」というリアクションが増えてきたので、逆にありがたいなと思っています。
■佐野アナ、ニセ番組のMCに勝手にされがち
――どんなに面白いドッキリでもシチュエーションだけでバレてしまうネタってあるじゃないですか。デヴィ夫人の頭が燃えるとか(笑)。ああいうネタは、手応えがあると相当撮りためておくんですか?
ケースバイケースですね。新ネタが追いつけば、ストックを持たなくて良かったりもします。あと、ターゲットのマネージャーさんに「ドッキリGPって結構見てますか?」と探って、「うちのタレントは見てますね」という返答があったらやめようとか、そういうことも結構やっています。
――レギュラー化してもうすぐ2年になりますが、どんどん複雑化しているんですね。
そうですね。今言ったように、もうキャスティングの段階から始まってますから、他にも画面に現れないところの仕掛けはいっぱいあるんですよ。だいたいタレントさんを呼び出すときにニセ番組を作るんですが、それでバレてしまうこともあります。
――特番のとき、東野さんに「BSフジの番組多すぎやろ!」って言われてましたよね(笑)
そうなんです(笑)。だからそれも今は控えていて、いろいろ手を変え品を変えニセ企画を作っています。でも、コロナのときが一番大変でした。どこのテレビ局もロケが止まってるのに、フジテレビだけロケ(ニセ)の打ち合わせで呼び出すことになるので、そこで気づいてしまうんじゃないかって。
――たしかに(笑)
それと、ニセ番組のMCは佐野(瑞樹)アナウンサーが多かったりするんですけど、もうそれでバレ始めて。この間、佐野さんに「あんまり俺を使わないでくれよ」って言われたんです。なんでかと言うと、タレントさんに「今度よろしくお願いします」って言われるんですって。こっちが勝手にニセ企画書に佐野さんを書いてるだけなので、佐野さんはそんなことを知らない(笑)。だから、佐野さんには「一応全部『はい、よろしくお願いします』って言っておいてください」ってお願いしました。
――自分の知らないところで、仕掛け人になってたんですね。それはちゃんと言っておかないと(笑)。でも、実際に途中でターゲットにバレてしまい、VTRがボツになることもあるのですか?
たまにあります。いろんな原因があって、演者さんの勘が良すぎるいうこともあります。そういう時は残念ながらボツったりもします。ただ、今後は失敗作も放送するというところまで番組の幅が広がるといいなと思っています。そこを含めてのショーになればというのも考えてはいます。