注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、テレビ朝日系バラエティ番組『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん』『帰れマンデー見っけ隊!!』『10万円でできるかな』『家事ヤロウ!!!』の演出を務める米田裕一氏だ。

『博士ちゃん』では、サンドウィッチマンと芦田愛菜という、芸能界でも極めて好感度の高い3人を起用しているが、彼らの魅力はどこにあるのか。インタビューでは、驚きの能力を示すエピソードが次々に飛び出した――。


■ナスDに学んだ「演者の中のリアルを探す」こと

テレビ朝日の米田裕一氏

米田裕一
1981年生まれ、新潟県出身。東京理科大学大学院修了後、07年にテレビ朝日入社。『いきなり!黄金伝説。』『中居正広のミになる図書館』『陸海空 地球征服するなんて』のほか、『濱キス』~『キスマイレージ』とKis-My-Ft2の歴代番組を演出。現在は『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん』のほか、『帰れマンデー見っけ隊!!』『10万円でできるかな』『家事ヤロウ!!!』で演出を務める。

――当連載に前回登場した放送作家の飯塚大悟さんが、米田さんについて「テレ朝で1、2を争うほど仕事してるのに、同期の局員に『最近何してるの?』って言われたらしいです。かわいそうなので、少しでも注目されてほしいです」とおっしゃっていました(笑)

ありがたいですね(笑)。僕も飯塚さんも『いきなり!黄金伝説。』の一番下っ端のADと作家という頃からの付き合いなので、こんな光栄な機会をもらえて、ずっと仲良くしてきて良かったです(笑)

飯塚さんはそんな若手の頃から“空気を読まずに、意見を言っちゃう”というスタンスが一切変わらない人です。今も決して、調子のいいことを言って気分を乗せてくれたりしない代わりに(笑)、「面白かったです」という言葉が絶対的に信じられる存在です。

――飯塚さんは、『黄金伝説』はテレビのあらゆる要素が詰まっていたので、そこで基礎を学んだとおっしゃっていたのですが、米田さんにとってもそんな存在ですか?

そうですね。“伝説を達成できるか?”という大枠だけあって、その伝説内容は何でもありみたいな番組だったので、よゐこさんとのサバイバル生活も、ギャル曽根さんとのデカ盛りも、U字工事さんとの行列グルメも、1つの番組の中で学べたのは大きかったです。ADの頃はディレクターから「無人島に行って、巨大なエイいないかロケハンしといて!」とか、ウソみたいな指示にも鍛えてもらいました(笑)

あとは何より『黄金伝説』では、僕の師匠でもある友寄(隆英=ナスD)さんに出会って、ディレクターというものをゼロから教えてもらえたことが、自分の大きな財産になっています。それこそ「1フレーム単位(約0.03秒)の細かい編集」から「海中のどういう岩場に魚が隠れているのか」まで、自分が番組作りで得たモノを一切出し惜しみなく全力で後輩に伝えてくれる人です。そんな中でも特に「演者をよく見て、演者の中のリアルを探す」という姿勢は、僕が番組作る上でもずっと大切にしています。どうしても番組が進んでいくと「番組の企画だから頑張る! そういうルールだからやる!」みたいな展開になっていきがちなんですけど、演者の中に今どんなリアルな気持ちがあるのか汲み取って描くようにしています。

「ただ負けるのが嫌だから頑張る!」でもいいし、「誰かにいいかっこするためにやる!」でもいいし。濱口(優)さんは「ちびっ子たちに尊敬されたい!」というモチベーションで極寒の海に飛び込んでいました(笑)

■きっかけは「富澤LOVE」のうちわ

――『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん』のお話から伺っていきたいのですが、企画のきっかけは何だったのでしょうか?

『帰れマンデー』と『10万円でできるかな』でサンドウィッチマンさんとは一緒にやらせてもらっていて、特に『帰れマンデー』みたいなロケものでの面白さは知られていますが、スタジオでももっと2人の魅力が出せる番組って作れないかなとずっと考えていたんです。VTRを見せるだけだともったいない気もして…。

そんな中、サンドさんのライブに行ったら、観客席にいた小学生くらいの男の子が「富澤LOVE」って書いてあるうちわを持っていて、それを見つけた2人がその男の子をステージ上に呼んだんですね。「そのうちわは自分の意思で持っているのか、持たされているのか」っていうのを聞いていくんですけど、そのやり取りを30分くらいずっとやってるんですよ(笑)。「おまえ、さては俺たちのファンじゃねぇな?」「いや、ファンです」って、即興漫才みたいになって3人がめちゃくちゃ面白くて。

結局、最後は「お母さんに持たされてた」ってことが判明するんですけど(笑)、この感じが今まであんまり見たことのない笑いの種類で、これをスタジオで再現できたらサンドさんの新しい魅力が出せるんじゃないかと思ったんです。

――番組は、子供が先生(=博士ちゃん)でサンドさんが生徒という、大人と子供が逆の構図ですよね。

はい。サンドさんは何かを教える側じゃなくて教わる側だよねっていうのは会議で自然にすぐそうなりました(笑)。なので、大人と子供が逆転した世界の中で授業をしてみたらどうだろう…ってなったんですけど。どんなにしっかりした子供でも、さすがに番組全体の進行を担うのはどうしても難しいと思うので、子供とサンドさんの橋渡しになる人が必要だと考えたんです。

でも、アナウンサーがそれをやると、急にかたい感じの番組にもなっちゃうし…。そう考えていくと、子供の気持ちも分かってあげられて、進行もできて、大人顔負けの知識もあってっていう“見た目は子供、頭脳は大人”みたいな「コナン」的な芦田愛菜さんしかいない!となりました。

  • (左から)伊達みきお、芦田愛菜、富澤たけし

■“モンスター”芦田愛菜のすごさ

――放送を見て、芦田さんの“バラエティ対応力”に驚きました!

めちゃくちゃすごいですよね…。いい表現ではないかも知れませんが、“モンスター”だと思いました。実は、芦田さんには進行役とリアクターを兼務するという、とっても番組都合な難しい役回りをやってもらっているんです。

例えば、普通アナウンサーだったら進行に徹するので、クイズであれば問題も答えも知ってる立場なんですけど、芦田さんにはリアクターもやって頂きたいので、問題は知っているけど答えは知らないという、ちょっとややこしい立場なんです。

でも芦田さんは、その立場を見ている方にいちいち言葉で説明しなくても、表情やリアクション、ちょっとした言葉遣いで、「自分はここまで知っていて、ここからは知らずに一緒にクイズに答えてます!」というのを表現できちゃうんですよ。ごく自然にやられているので、何の違和感もないですが、やっぱりすごい女優さんなんだなと思いました。

――昔、『平成教育委員会』で逸見政孝さんが担っていた役を、高校1年生にしてこなしている…。

もう1つ驚いたのは、博士ちゃんが言った情報を芦田さんに補足してもらう場面があるんですけど、それは事前の打ち合わせで我々から資料をお見せするんです。そうすると、読書量が半端じゃない芦田さんにとっては大体知っていることなので、自分の言葉に変換して話してくれるんですが、中には芦田さんが知らなかった情報もあるんですね。それって、事前に僕らがお伝えしてるので、芦田さんの言葉で説明していいと思うんですけど、「私も知らなかったんですけど…」とか「○○なんだそうです」って、自分がはじめから知っていた情報とちゃんとすみ分けて表現するんです。

とても“知識”というものに誠実な方だなと思いました。僕だったら知っていたことにしちゃうなと…(笑)。きっと知識というものは自分が身を持って得るものだという考えなのかなと思います。